●「ネオテニー・ジャパン」
土曜日、柏まで出かける前に、上野の森美術館で「ネオテニー・ジャパン －高橋コレクション」展。日本屈指の現代美術コレクター高橋龍太郎さんの所蔵する名品８０点による展覧会。
会場に入って最初の部屋でまず直面したのは、鴻池朋子の大型作品３つ。『惑星はしばらく雪に覆われる』は２ｍほどの狼（鴻池さんがよく使うモチーフだ）の像の表面にビッシリと細かい３角形の鏡が貼ってあるもので、本体そのもののインパクトもさることながら、鏡に照明が反射することで四方の壁と天上に無数の細かな光の模様が形作られる様が美しい。こういう「知的な仕掛けが感性に響く」作品は、個人的にとても好きである。
で、次の部屋からはこれでもか、というくらいに著名な日本人作家の作品が並んでいて……。
奈良美智の絵は４枚だったが、彼の作品の中で一番気に入っている『Candy Blue Night』が展示してあって嬉しかった。暗い背景に肌色の服を着た赤い髪の女の子が浮かび上がっていて、キッとこちらを見据えた緑の瞳と、口にくわえた青い球が見る者をとらえて離さない。なんつーか、本当にいい絵というのは何分見続けても飽きないものだけど、僕にとってはこの絵は「歩み去るのが名残惜しい」１枚なんである。「なぜ？」と言われると答えに窮するけど。
会田誠は『紐育空爆之図（戦争画RETURNS）』と『大山椒魚』の２作品。ニューヨークをゼロ戦が爆撃するという『紐育～』はインパクトとテーマ的なパンチはあるのだが美的には……。全裸の美少女２人が巨大なサンショウウオと絡んでいる『大山椒魚』の方が「なんかイケナイものを見ている」感じがしていいな（笑）。美少女ものと言えば、超精密に描かれた女の子が動物の骨の上に顔をのせている加藤美佳『パンジーズ』も素晴らしかった。俺はロリコンか。
村上隆は新旧の７作品が展示されていた。比較的新しい『Mr.DOB』や『ルイ・ヴィトンのお花畑』あたりは「ハイハイ、六本木ヒルズね」という感じで、正直つまらない。あの崩れたアニメ絵のどこがいいのだろう。むしろ青臭い表現にも思える初期作品（金属の日の丸の中にバカボンのパパが書かれてるヤツとか）の方が見る価値があるような気がしたのだが。
その他で良かったのは、巨大女がビルを破壊している様子を小さな模型にしてチマチマ並べる様が楽しい西尾康之『巨大女為正義』、「あえて書かない」ことで対象の存在感を見せる『WITHOUT YOU -Lady Seated at a Virginal』ほか小川信治の諸作品、城下町風の屏風絵の中に現代的要素が散りばめられていて外国人客にウケていた山口晃『今様遊楽園』あたりだろうか。加藤泉、町田久美、束芋は端的に気持ち悪い絵なのでちょっと苦手な感じ。
以上挙げた他にも、できやよいやら名和晃平やら小谷元彦やら小沢剛やら天明屋尚やら……ポスターにも「世界が注目するニッポン現代アートの基礎知識！」などとうたってあるだけあって、「ホントにこれが個人のコレクションなの？」とにわかには信じ難い内容とボリュームであった。つーか、この上、会田誠の代表作（だと僕は思っているのだが）『美しい旗』など今回の展覧会に出していないものも多々あるはずだから、何をかいわんや、であろう。
こういう個人コレクションの形成って、金銭的な負担もさることながら、収集管理の労力なんかも考えると本当にスゴイことだと思う。高橋さんという方は精神科のお医者さんらしい。原美術館の館長さんなんかもそうだけど、世の中には大したお人がいるもんだ。公的な美術館（日本の公立美術館の多くは現在、収集を停止した状態にある）で手の届かないところをこういう人たちが埋めてくれている、と思うと（もちろんご本人たちの第一義的なモチベーションは「自分の手元に置きたい」という情熱なんだろうけど）まことにありがたいことである。
ちなみに、展覧会のキーワードとなっている「ネオテニー（幼形成熟）」というのは動物学や生物学の用語で、「幼いまま、性的に成熟する進化の過程」を指すのだそうだ（展覧会のチラシより）。アホロートルとか。村上隆の「スーパーフラット」なんかもそうだったけど、こういう「一括りにまとめる」用語というのはどうも微妙な感じなんだよな……。日本の現代美術、というより、コンテンポラリーアートそれ自体がネオテニー的な要素を持っているような気もするし。
いや、でもホント、「日本の現代美術ってなんじゃらホイ」という感じで興味をお持ちの方にはお薦めしたい展覧会であります、ハイ。
