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2009年03月18日

●不屈の魂を見た ('09パリ~ニース)

先週は、毎日家に帰ってからはJSPORTSのパリ~ニース中継に釘付けだった。ツール・ド・フランスの前哨戦、というには早すぎるけど、ツールと同じASOの主催で行われ、権威ある中仏~南仏縦断8日間のステージレース。今年の大会は悪天候や様々な思惑が入り交じって目まぐるしい展開となったが、落ち着いたレース運びを見せた"LL"サンチェスが総合優勝。一方敗れた三冠王者コンタドールもその力を見せ、今後が楽しみになる内容であった。
 
 
大会は雨の中で幕を開けた。初日のTTを制したのは優勝候補筆頭のコンタドール(アスタナ)。平均速度50kmオーバーでTT本職のウィギンズを制した走りは圧倒的なもので、そのまま総合争いを優位に運ぶかに思われた。しかし、強風の吹き荒れた第3ステージでは集団が崩壊し、混乱の中でアスタナはアシストが全滅。コンタドールが独り前を追う苦しい展開となり、果敢な走りでステージを制したシャヴァネル(クイックステップ)がマイヨ・ジョーヌを奪取。

続く第4ステージ、早くも次の動きが。ステージは好タイミングでアタックしたヴァンデベルデ(ガーミン)が制したのだが、その後ろでコンタドールとルイスレオン"LL"サンチェス(ケースデパーニュ)、サミュエル・サンチェス(エウスカルテル)のスペイントリオが猛攻を仕掛け、タイム差を大幅に縮める。シャヴァネルは何とか総合トップをキープしたものの、この大会に平穏な「休息ステージ」などないということが明らかになり、後から考えれば重要な1日だった。

そして迎えた第6ステージ。汚名返上とばかりにアスタナのアシストたちが集団のペースを上げ、ゴール前の上りでコンタドールを発射。舞台さえ整えてもらえばそこはさすがジロ&ツール&ブエルタ王者、後続をグングン引き離してあっという間に独走態勢に入ってしまった。完勝。終わってみれば総合2位のシュレク(サクソバンク)に約1分の差をつけて総合首位を奪還。決めの銃撃ポーズも飛び出し、勝負は決したかに思えた。だが、しかし。

第7ステージ、最後の下りでLLサンチェスとコンタドールが飛び出し、2人で何事かを打ち合わせた光景を見て「ステージはサンチェス、総合はコンタで決まりだろう」と思った人は多かったに違いない(実際、そういう取引で合意していたらしい)。だが、残り10km余りでコンタドールはまさかの失速。サンチェスがマイヨ・ジョーヌを獲得し、コンタドールは1分50秒もの差をつけられてしまった。どうも、ハンガーノックだったらしい。「若さゆえの過ち」というやつか。

この大会のアスタナの、コンタドールを巡る動きは最初から釈然としなかった。アシストはこのチームにしては貧弱なメンバーだったし、ブリュイネール監督も不在。復帰したアームストロングが注目を集め(すぎ?)ているせいもあり、コンタドールもややムキになっていたのかもしれない。そのあげくが、孤立した状況でのハンガーノック。完全に優勝争いからは脱落したように思えた。自分の責任も大きいとはいえ、彼もまだ26歳の若者。正直、気の毒であった。

ところが。翌日の最終日、放送開始からやや遅れてテレビをつけると、画面には精悍な表情で集団から飛び出して逃げるコンタドールの姿が。驚いた。まだ諦めていないのか!!コンタドールは2人のフランス人カザルとタラマエを従えて逃げに逃げまくり、一時は計算上トップを奪い返す力走。結局最後は力尽きて僅差のステージ2位に終わってなんとかタイム差をコントロールしたサンチェスが総合優勝を収めたのだが、強烈な印象を残す大逃げであったのは間違いない。
 
 
いや、面白い大会だった。起承転結、というより起承転転転転結、みたいな(笑)。個人的には、数年前にサイクルロードレースを見始めてから最もエキサイトした8日間だったかもしれない。生中継したJSPORTSは本当にエライ!!

優勝したLLサンチェスは素晴らしい走りだった。ややタナボタ気味とはいえ、そのチャンスをしっかりものにしたのは見事。下り区間での積極的な攻めと、後半の冷静な判断力。上りもそこそここなせるし、能力のバランスが非常にとれている印象の選手である。コメントも理知的かつ紳士的で好意をもてるんだけど、その内に闘志を秘めてそうな雰囲気がまた良い。コンタドール(昔からの親友だそうな)とは違ったタイプのスターが現れたな、という感じか。

他に目立ったところでは、前半戦で総合トップを走り、最後はポイント賞を獲得したシャヴァネルだろうか。元々積極果敢なスタイルで多くのレースを盛り上げてくれてきた選手だけど、昨ツールでのステージ初勝利とクイックステップへの移籍がプラスに働いているのだろう、走りのスケールが一回り大きくなったように感じられる。そんな彼に比べると、2位に入ったとはいえフランク・シュレクはちょっと地味だった。むしろアシストのフォイクトの方が目立ったような。

まあ、しかし、リザルトはともかく、何といっても「主役」だったのはコンタドールである。何が良かったって、もちろんTTや上りの超人的スピードも凄かったけど、あの4日目と最終日の果敢なアタック!!彼の走りからは、自分や周りの失敗、その他諸々の雑音や障害をひっくるめて、自らの力で克服してやろうという強烈な意志が伝わってきた。特に最終ステージの「前のめりになって死にたい」的な走りなんて……魂を揺さぶられる光景だった。

結局、彼は今回大逆転がかなわず負けてしまったのだけれど、思えば僕のスポーツ観戦史の中でも、本当に忘れられない試合、胸を打たれたゲームというのは大抵が「負け試合」だったようにも思うのである。木村和司がミラクルなFKを決めた85年の日韓戦がそうだった。A・セナが激走の末失格した89年の日本GPがそうだった。原田雅彦が大失敗した94年のリレハンメル五輪もそうだった。近年で言えば、2003年秋の東京ダービーがそうだった。

そういう意味では、コンタドールはこれまでも応援してきた選手ではあるのだが、今後はちょっと思い入れの度合いがいっそう深まってしまいそうな気がする。いやー、ホント、アームストロング派のいじめ(笑)に負けず、頑張って2度目のツール優勝を成し遂げてほしいものである。つーか、天然のランスはともかく、こんだけ頑張ったコンタ君に「頭使えよ」的な冷たいコメントを残すブリュイネール監督って何なんだろうな。『タッチ』の柏葉監督か、お前は。

そういや、第3ステージで孤立無援になってしまったコンタドールをモローのおっさん(アグリチュベル)が引き上げてあげようとした時にはちょっと嬉しくなったし、最終ステージのカザルとタラマエ「フランス義勇軍」にも燃えるものがあったなあ。それぞれ思惑はあるんだろうけど、いかにもロードレースっぽい光景でもあった。妄想気味に深読みすると、アームストロング嫌いのフランス軍団がコンタをアシストしてあげたのかな、なんてね(笑)。
 

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コメント

こんにちは。こちらでは初めまして…!?

わたしも夢中で見てましたよ、パリ~ニース♪
最終日、アップで画面に映ったコンタドールが逃げに逃げていることを知ったときには鳥肌がたちましたッ!!あれこそムービングと呼ぶにふさわしい走りでしたね。

(例のツールでラスムッセン派だったため)今まで彼に対しては素直になれない部分があったのですが、これからはやっと心の底から応援できそうです(苦笑)

で、うまねんさんはいつ自転車を購入されるのでしょう?!(笑)

どうもですー。>みっち~さん

>あれこそムービングと呼ぶにふさわしい走りでしたね。
なるほどね。自ら仕掛ける果敢さ、とか、状況を自分の力で変えようとする意志、とか、とても大事なものを体現していたような気がしましたよね、彼の走りは。

>で、うまねんさんはいつ自転車を購入されるのでしょう?!(笑)
自転車なら持ってますってば。ママチャリを(笑)。

自宅でJスポ+を見れないので、ツール・ド・フランスもぶつ切りで、いまいち没頭できなかったのですが、この
パリ・ニースはほぼ毎日見ました。
日曜の昼間に東京サポ仲間と自転車で東京マラソンのコースを走ったこともあり、最終日は大興奮でした。

で、うませんさんはいつロードバイクを購入されるのでしょう?!(笑)

>で、うませんさんはいつロードバイクを購入されるのでしょう?!(笑)

だからー、自転車なら(以下略)。
 
 
ツール・ド・フランスなら、HUBの何店舗かは店内スクリーンで中継流すと思いますよー。勝負どころの山頂ゴールなんか、ぜひ。

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