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2008年11月17日

●「彼がいてくれれば」と妄想し続けた数年間が終わった

名波浩選手 現役引退記者会見 (ジュビロ磐田公式)
 
 
先週の木曜に飛び込んできたニュース。「やっぱりな」と思うとともに、「これで一つの時代が終わった」という感慨がこみ上げてきて、なんとも言えない心境で週末を過ごすことになった。
 
 
彼がデビューしてからしばらく、日本がフランスW杯に初出場を遂げる頃まで、実のところ僕は彼のことをそれほど大した選手だとは思っていなかった。確かに足下は上手く、クレバーさを感じさせるプレーぶり。でも左足しか使えないことや中盤での競り合いに不安を残す線の細さ、そして「右足はつっかえ棒」と言い切ってしまうような癖のある物言いは、たとえば中田英の強靱さと比べても代表の中心選手としてはやや物足りないように感じられたのだ。

大きな転機は99年、セリエAヴェネツィアへ移籍したあたりだろうか。記者会見での「自分に足りないものを探しに行く」という台詞は最高に格好良く、開幕戦は当日汗だくになりながらスカパー!のアンテナを取り付けて観たものだった。そしてその試合、同点ゴールをアシストするなど見事な活躍。だが、その後は激しい当たりに潰されてしまう場面ばかりが目立ち、出場機会も少なく1年で退団、磐田復帰。残念ではあったが「やっぱりな」という思いもあった。

ところが、である。

帰国した名波は変貌を遂げていた。パス交換で守備をかわす巧さに磨きがかかり、コンタクトへの耐性も見違えるように向上。加えて、声やプレーによって味方を鼓舞し指示を出すリーダーシップの部分が大きく成長しているように見えた。もちろん素晴らしい技術は維持したままで、だ。名波はトルシエの率いる代表でも大黒柱となり、00年アジアカップでは中村俊輔とのコンビが抜群の破壊力を発揮。日本は異次元の強さで圧勝することとなった。

また、この時期、鈴木政一監督の下でジュビロ磐田も黄金時代を迎える。鈴木監督の戦術は奥、藤田、名波、服部、福西の5人が流動的にポジションを替えながら中盤を制圧するものだったが、その中心にいたのが名波。いわゆる「N-BOX」だ。名波が繰り出す緩急自在のパスに乗って流れるようにつなぎ続け、相手の守備を崩壊させる攻撃は芸術的ですらあった。01年は26勝1分3敗、02年は両ステージ完全制覇。まさにJ史上に残る最強チームである。

そう、「僕が知っている中で一番強い日本代表」においても、「僕が知っている中で一番強いJリーグチーム」においても、その中心でタクトを振っていたのは名波浩だったのだ。だから、彼の引退のニュースを聞いた時に僕は「一つの時代が終わった」などと思ってしまったのである。まあ、実際にはとっくの昔に日本代表は(良くも悪くも)新たな時代を迎えており、磐田も最強の座から転落して残留争いの真っ只中にいる状況だから、今さらという話ではあるのだが。
 
いずれにせよ、本当にいい選手だった。僕は単なる視野の広さだけではなく、的確な戦術眼というニュアンスも加えて「前が見える」という表現を使うけれど、その形容に最もよくはまるのが名波だったんだよね。タメを作ったりスピードアップしたり、「空間」だけではなく「時間」もコントロールできる選手だった。01年に膝を壊して日韓W杯の出場を逃し、その後も怪我との戦いとなってしまったわけだが、あれがなければどれほどの選手になっていただろう、と思う。

97年のW杯最終予選、絶体絶命のアウェイ韓国戦で決めた先制ゴール。99年GWの鹿島戦、満員の国立競技場で終了間際に叩き込んだ渾身のFK。同じ年のセリエA開幕戦、惜しくもバーを叩いた弾丸シュート。00年アジアカップ、俊輔を従えながらアジアの強豪を翻弄した勇姿。同大会でCKから直接突き刺したボレーシュート。01~02年、史上最強Jチームの不動のコンダクター。そして晩年にセレッソやヴェルディで見せた、いぶし銀のプレー。

こういう事を書くと怒られるかもしれないけど、実は長年、FC東京にほしくてたまらない選手であった。というより、僕が東京のMFに抱く不満の多くは、彼との対比から生じているのかもしれない。「名波のような選手がいれば」。かつては妄想でしかなかったことだが、実際06年にはセレッソに、07年にはヴェルディに移籍しているのだ。僕は、彼の青赤のユニフォーム姿が見たかった。きっと梶山や今野を大きく成長させてくれたと思うのだが……やっぱり妄想かな。
 
 
ともあれ、長い間楽しませてもらった。本当にありがとうございました。日本のサッカーファンの端くれとして、指導者としての名波浩氏にも、大いに期待していきたいと思います。
 

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