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2008年11月02日

●ニータンは飛ぶ夢を見たか? ('08ナビスコカップ決勝)


土曜日の午後は、国立競技場でナビスコカップ決勝。大分トリニータ 2-0 清水エスパルス。ともに飛び抜けたスター選手はいないながら、練り上げられた組織サッカーで勝ち上がってきた好チーム同士の対戦。試合は決勝戦らしい緊迫感溢れるタイトな展開となったが、我慢比べに長ける大分が少ないチャンスをものにして2点を奪い、カメナチオを発動してそのまま逃げ切り勝ち。「亀は兎に勝つ」という説話は真実であることを証明する結果となった。
 
  
雲一つない青空の下でキックオフ。予想通り、両チームとも手堅いサッカーを展開する。大分はいつもの「タートル・フットボール」。3バック+2ハーフ+2サイドでぶ厚い守備網を形成し、ボールを奪うと追い風に乗って縦につないでいく低リスク攻撃。加えて鈴木慎出場停止で左SHに藤田が入ったため、守備重視の色は一層濃かった。一方の清水も守備的な選手の多い布陣でSBは上がらず、人数をかけない攻め。互いに攻めてははね返され、の繰り返し。

前半のビッグチャンスは1つずつ。まず19分、大分の右CK、高松のヘッダーをGK山本がファーに弾き、ホベルトが飛び込んだがシュートはバー直撃。続いて26分、今度は清水の右CK、混戦からゴール正面にボールがこぼれたところ高木がシュートするも際どく左に外れ。他には大分がウェズレイからの右展開で2~3度良い形を作り、清水もカウンターから岡崎がミドルシュートを撃つ場面があったがいずれも決定機には至らず。無得点のままハーフタイム。

後半になると風上に回った清水が前目からプレスをかけるようになり、大分は自陣へ押し込まれる。CKをGK下川やDF陣の奮闘でしのぐ場面が幾度か。しかし、59分、藤田の攻撃参加から高松がピッチを左→右にまたぐクロス、ファーサイドを駆け上がる高橋がダイレクトボレーを狙うが惜しくも合わせきれず。その直後にはウェズレイの強烈なミドルシュートがバーをかすめる。いずれも得点には至らなかったものの、清水の出足がやや鈍って試合は再び膠着。

時間はジリジリと進んでいくが、互角の形勢に両ベンチとも動くに動けない状態。この我慢比べはいつまで続くんだ……と思い始めた68分、ついに均衡が破れる。右サイドで後方からの縦パスを受けたエジミウソンが反転パス、スペースにフリーで飛び出した金崎が狙いすましたクロス。高く上がったボールをファーで岩下に競り勝った高松が頭で叩き、シュートは山本の手を弾いて左隅に転がり込んだ。シンプルだが、効果的なプレーが連続した先制点だった。

こうなると大分の形である。清水は右サイドを市川とマルコス・パウロの攻撃セットにチェンジして前がかりとなるが、堅牢な大分DFを前にクロスもあと一歩合わず、なかなか崩せない。大分は藤田が左サイドに浮いて清水のサイド攻撃にフタをする形で対処し、焦りからか凸凹の生じ始めた清水DFの隙を突くカウンターでチャンスをうかがう。清水は枝村→矢島でパワープレーシフトへ。83分、ボックス内で矢島が放った反転シュートはポストのわずか右に外れ。

決定的な2点目は89分。金崎のフォアチェックから高橋がスローインを奪い、右サイドで足下に収めた金崎がDFラインのギャップへ走るウェズレイへラストパス。ウェズレイはベテランらしい冷静さで前へ出る山本の動きを見きり、その脇を抜いてゲット。シャムスカ勝利のガッツポーズ!!ロスタイムの5分間も、大分は清水のハイクロス攻撃を粘り強く弾き返し、ウェズレイのキープや選手交代できっちり時間も消費。そのまま2点差で終了の笛が鳴った。
 
 

実に味わい深い試合だった。面白かった。

冒頭にも書いたように、代表レギュラーや大駒外国人といった「スター」は擁していないものの、有望な若手やベテラン好選手の活用、そして練習で培われた組織力を武器に勝ち上がってきた両チーム。その対戦にふさわしく、互いになかなか隙を見せずしのぎを削り合う(僕好みの)試合となってくれた。派手な撃ち合いもそれはそれで愉しいけれど、こういう1点が非常に重みを持つ戦いもまた、地味ではあるが緊張感を味わえて良いものだ。これもサッカー。

感心したのは、大分の選手たちがそうしたタイトな攻防をとても淡々と、それこそ「普段着で」90分間こなしたように見えたこと。シャムスカ監督に仕込まれてきた戦法・戦術への信頼に加え、「1-0」が多い今年の戦績からもわかるように数々の接戦を戦い抜いてきたことによる自信があの冷静さをもたらしたのだろうか。「我慢比べ」にひるむことなく、自分たちのサッカーをやり通した精神的スタミナこそが第一の勝因であったように思う。

個々の選手では、まずウェズレイ。前半に見せた豪快な展開パス(隣で見ていた東すか編集長曰く「アマラオみたい!」)も素晴らしかったが、後半の悪い流れを変えた弾丸ミドル、そしてダメ押し点を生んだ冷静なプレー。勝利の立役者だと思う。広島降格で拾われたような形になった今季だけど、彼ももう36歳、正直ここまでやれるとは思わなかった。全然守備はしないのだが、それを認めるのもシャムスカの懐の深さかな。つーか「亀の甲より年の功」(笑)。

2得点をアシストした金崎夢生クンも良かった。1点目はやたら高いクロスだったが、ファーに走ったのが長身の高松だったのを見てあの弾道に蹴ったのだろうか。だとしたらスゲー。そのボールをダイナミックに叩きつけた高松もお見事。中盤では、やはりエジミウソンの献身ぶりが光っていた。まあ、献身ぶりという意味では他の選手もおしなべて素晴らしかったわけだが。3バックと下川の冷静さにも感心。鈴木慎吾の代役を果たした藤田も何気に良かったな。

敗れた清水も、決して悪い戦いはしていなかった。前半は守備的だったので0-0は予定通りだろう。後半立ち上がりのラッシュで流れをつかんで「これは行けるか?」という時間帯も確かにあった。ただ、あくまで結果論だが、後半半ばの膠着した時間帯で先に動かなかったのは失敗だったかもしれない。大分に先制点を許すことの意味をわかっていたからこそ動けなかったとも言えるのだが……。あと、やっぱりストライカーがほしいな、というのはあるね。


しかし、トリニータが優勝でエスパルスが準優勝。Jリーグも資金力や戦力で格差が開きつつある中、地方クラブに大いなる希望をもたらす結果である。ともに経営難で消滅寸前まで行ったことのあるチームだけに……試合後は溝畑社長、壊れてましたな(笑)。マルハンの会長も満面の笑顔。僕の前に座っていた大分サポは絶叫していた。その数m隣では黙って涙をこぼしている男性がいた。つくづく、夢のある結果だったと思う。ナビスコカップっていいね。

そういや、試合後の場内一周にはニータンも加わっていて、なんか王冠みたいなのをかぶっていてかなりのカワユさであった。飛行機に乗ってきたとのことだが、それを聞いたうちのカミさんが「亀なんだから泳いでくればいいじゃない」とか言っていた。何kmあると思っているんだ(笑)。いや、手足が甲羅の中に引っ込んで回転ジェット噴射で飛んできたんじゃないの、とか(それはガメラ)。まあ、マスコットってのも、ちゃんとしたのであればいいもんだよネ。

何にせよ、はるばる大分と清水から、どちらもおつかめさまでした
 

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コメント

>その数m隣では黙って涙をこぼしている男性がいた。つくづく、夢のある結果だったと思う。ナビスコカップっていいね。

本当にそう思います。
いろんな思いを感じる表現で、ぐっときました。

>雲一つない青空の下でキックオフ。
秋晴れの空と決勝戦て、特別な情感を生み出すのですかねー。
日本シリーズもデーゲームだった90年代半ばまでは「特別な試合」の思い入れがありました。
西武の黄金時代の記憶は、秋の日差しの西武球場とともにありました。西武ファンではないけど。

写真美しかったです。

オレンジ色のカップのマスゲーム、あれ効果的でしたね。メラメラ炎に見える。他のベースの部分は紙上げて、カップの所だけ、ちょっと黄色めの旗(公式旗だった)なんですね。

高松お見事でした。

羨ましかったんだけど、自分に贔屓チームのある喜びを再確認した日でもありました(笑)来年はうちだ。いや、天皇杯もあるし、って今やってるよ(自分仕事中)。リーグもね。

いやいや、ホント、他所様の試合も良いものだと思いましたよ。

>日本シリーズもデーゲームだった90年代半ばまでは
そうですよね。日本シリーズはやっぱり秋のかなり涼しくなってきた青空の下で、9回や延長戦はかなり傾いたオレンジ色の日が差し込んだりして。

「独特の雰囲気」というのはやはり大事なものかと改めて思います。ナビスコカップも、晴天が続いているので「青い空」がお決まりの光景になるといいな、と。あ、でも天皇杯決勝もちょっと似たような感じか……。

>カップの所だけ、ちょっと黄色めの旗(公式旗だった)
ああ、そうなんですか。しかし、「手の込んだマスゲームをするなあ」と感心しました。2色とかならやるチームは増えましたけど、4色で、しかもカップのあの絵柄を再現するとは。

>天皇杯もあるし、って今やってるよ(自分仕事中)
おつかめさまです(笑)。今日は冷や汗をかかされたですよ。

>今日は冷や汗をかかされたですよ。
おつかめさまです(笑)。
文字で状況追ってたんですが、ああ、延長かしらん、と思ってたら、やってくれましたね。どうやってくれたんだか2本ともさっぱりわからないので、「レビュー楽しみにしてます」w。
これで鳥取行きが決定だ(たぶん)。ダーリンのホームタウンです。

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