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2008年09月27日

●新時代の幕開け、のはずが…… ('08ブエルタ・ア・エスパーニャ)


こないだの日曜日まで3週間に渡って行われていたブエルタ・ア・エスパーニャ2008。今回は今年度ツールの勝者と今年度ジロ・昨年度ツールの勝者、さらにはプロツアーランキングトップの選手まで揃う豪華メンバーの争いとなったが、アスタナのアルベルト・コンタドールがずば抜けた安定感を見せて優勝。わずか14ヶ月間で3大グラン・ツールを制する偉業を達成し、堂々と新時代の幕開けを宣言した、と、誰もが思うはずだったのだが……。


コンタドールの強さは本物だった。

コンタドールについては、その才能や経歴は類い希な魅力を発していながらも、一方でどこかひ弱なイメージがつきまとっていたのも事実である。昨年のツールはラスムッセンの失格による「繰り上げ優勝」でしかも2位のエヴァンスとの差はわずか26秒、今春のジロでも「1週前はビーチでバカンス」と三味線まがいの言い訳を繰り返しながら20Sまでで2位のリッコとの差は4秒しか開かず、本当に強いのかどうか確信しきれないところがあった。

しかし、今回の山岳で見せつけた圧倒的な力はどうだろう。最難関の13S・14S、いずれも勝負所のスパートによりサストレやバルベルデを置き去りにする王道のレース運びで完勝。一番キツい坂道、腰を上げるやいなやあっという間に遠ざかっていくコンタドールの加速ぶりはショッキングですらあった。三冠馬ディープインパクトじゃないけれど、まるで「空を飛ぶ」ような走り。なるほど同僚のライプハイマーが「世界一のクライマー」と評するだけのことはあった。

リザルト的には、今回も2位のライプハイマーとの差はたったの46秒。ライプハイマーがアシストに徹していただけに「もし彼が自分のために走っていたら?」なんて声も出てくるわけだが、まあ思うにこの僅差ぶりこそがコンタドールという選手の強さの本質を表しているのかな、と。TT力と山岳登坂力のバランスの良さに加えて、無駄なところで力を使わず「ここぞ」という場面に集中できる賢さが彼にはある。その「ここぞ」で出す力がまた尋常でないわけだし。

これでコンタドールは'07ツール→'08ジロ→'08ブエルタとグランツールを3連勝。3大ツール全てに勝利するのはアンクティル、ジモンディ、メルクス、イノーに続いて史上5人目だそうである。ランス・アームストロングのツール7連覇も凄いけど、気候など様々に条件の異なるレースで勝利を積み重ねた方がむしろ価値が高いように思える。おまけにコンタドールはまだ25歳、夢は果てしなく広がっていく。目標はメルクスの「グラン・ツール11勝」の記録だろうか。


……と、「ランス以前」を知らない新興ファンが歴史を目撃する興奮を味わっていたところに、突然降りかかったのが「アームストロング、来年アスタナで現役復帰」の衝撃的ニュース。あまりに思いがけない話なので驚いた。そもそもランスはなぜ復帰するのか。癌撲滅運動の一環、という説明がなされてるようだが、ホンマかいな、というのが率直な感想。やはり栄光の味が忘れられないのか、それともドーピング疑惑の潔白を改めて証明したいのだろうか。

切ないのはコンタドールの立場である。さすがにいきなりランスがアスタナのNO1の座に収まることはないのだろうし、ランスも「コンタドールは現在最高の選手」とコメントしてはいるけれど、それでも内心は穏やかでないに違いない。最初こそ歓迎の態度を表していたものの、世界選手権前には来季のツール・ド・フランスにおけるリーダーの座を保証するようチームに求めるコメントを出したりもしているようだ。まあ、もっともなことだと思う。

シーズンの初め頃、ASOからツールの出場を拒否された時、コンタドールはアスタナから離脱するのではないかと言われていた。しかしコンタ君は残留し、あるレースでは無理矢理単騎の逃げをうってバイクカメラに向かってチームのツール出場を訴えたりもしたそうである。結局アスタナのツール出場はかなわなかったものの、コンタドールはジロとブエルタの変則ダブルツール達成。それが、今になってこの仕打ちはないよなあ。

おまけに、「難病を克服してツール王者にたどり着いた」という同じ経歴を持つランスは、かねてよりコンタ君のアイドルだったとか。昔、巨人に清原がFA加入することとなり、結果として清原の師匠的立場にあった落合さんが居場所を失ったことがあったが、言ってみればその逆のパターンということになるのだろうか。あれは「若手の加入がベテランを追い出す」形だからまだましか。こっちのケースは、場合によってはベテランが若手を……。

やっぱり嫌だな。「時計を逆回しにする」ような嫌な感じがする。結果的に(同じチームであれ別であれ)コンタドールがランスを圧倒してしまえば、見事世代交代で「めでたしめでたし」なのかもしれない。でも、それって7連覇の栄光に泥が付くリスクをかけるほどのことなのだろうか。ランスの挑戦は、彼が勝ったとしても負けたとしても失望を呼ぶのではないか。つーか、単純にもうコンタドールとアンディ・シュレクとバッソの覇権争いで充分ではないのか。

せっかく2006年以降で初めてスッキリとした気持ちで終われそうなシーズンだったのに……どうも釈然としない。今からでも遅くない、思い直してくれんかねアームストロングさん。
 

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コメント

こうなるともうマイケル・ジョーダンですね(笑)。

アスタナは今年のツールでのCSCに触発されたのでしょうか?
ただランスが自らコンタドールのアシストにまわったりしたら、それはそれで美談になるような気がします。

>ランスが自らコンタドールのアシストにまわったりしたら、それはそれで美談
そうなってくれるといいんですけどねえ……どうも、そういうキャラではないような危惧が……。

ブリュイネールさんは、やっぱり「あの」ランスの頼みとあらば、断るわけにはいかんかったのだしょうか。

いっそ、ランスはジロとブエルタを狙ってほしい(笑)。

ヴィノがアスタナで復帰との噂が。。。
うーん。

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