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2008年08月11日

●羽生の運動量は宇宙一 (名古屋グランパス×FC東京)


土曜日の夜、瑞穂陸上競技場でJ1第20節。名古屋グランパス 0-1 FC東京。6月以来8戦、実に丸2ヶ月もの間公式戦で勝利のない東京。今回も中2日で大分からの直接移動かつ3位名古屋との対戦、と試練の戦いとなった。試合は両チームが「長刀」と「短刀」のような対照的な戦い方を見せ、前半は東京、後半は名古屋が優勢に立つ展開となったが、平山の「あの頃」を彷彿とさせる一振りで虎の子の1点を奪った東京が逃げ切りの勝利。


試合開始直後から際だったのは、両チームの攻撃スタイルの違いだった。サイドチェンジを多用してピッチを左右一杯に使う名古屋に対し、東京は短いつなぎから縦のボールでアタッカーを走らせる。ボールポゼッションで名古屋が上回りながらも序盤はミスが多く、東京のシュートが目立つことに。1分に右SB今野の突進からボックスへ突入した石川が、4分にはエメルソンの持ち上がりからカボレがシュートを撃つが、いずれもゴールには至らず。

そのうち、名古屋がパス回しからリズムをつかんでチャンスを作るように。11分の右CK、マギヌンのクロスが走り込む増川にドンピシャで合うが、ヘッダーはバーの上。その直後、左→右へのサイドチェンジからマギヌンがタイミングを見計らって折り返すも、飛び出した山口に平山が食らいついてシュートさせず。15分には右に開いてパスを受けたヨンセンがゴール前へロケット砲のような速いクロスを入れたが、飛び込んだ玉田はわずかに届かず。

ここで押し込まれ続けると苦しいところ。しかし、この日の東京には反発力があった。今野が右SBへ、羽生がボランチへ一列下がる4-4-2の布陣。中盤の守備力が懸念されるところながら、羽生と浅利のコンビは力ずくで止める力には欠けるものの着実なポジショニングと動きでパス回しを阻害。名古屋の攻撃はますますサイドへ偏り、そこでは一対一に強い今野・徳永が待ち受ける。さらに裏を狙うボールも、復調気配の茂庭が粛々とカット。

一方攻撃に転じれば、羽生が機を見て前へ飛び出すことで攻撃の枚数と経路が増加。試合は東京ペースになった。19分、右CKのこぼれ球を拾ったエメがミドルシュート、DFの間を抜けてゴール右隅へ飛んだが楢崎横っ跳びでセーブ。21分には左から切れ込んだエメがラストパス、斜めに走り込む石川が撃ったシュートはまたも楢崎が弾き出した。ここはさすが日本代表。24分にも羽生のラストパスを受けたカボレがシュートするも楢崎正面。

攻勢ながらGKの好守であと一歩阻まれる展開。こうなるとミスとセットプレーが怖い。28分、佐原がロングボールのクリアを玉田に当ててしまい、そのまま玉田がゴール前へ抜けるピンチ。幸い、シュートをふかしてくれて命拾い。また佐原の自作自演劇場が出たかと思って冷や汗をかいた(笑)。31分には増川に、35分には石川にそれぞれラストパスが通りかけるが、いずれもトラップミスで逸機。東京ファンにとってはもどかしい展開である。

ようやく先制点したのは35分。攻め上がった徳永のクロスをボックス内で羽生が落とし、遅れて上がる平山の足下へ。平山は迷わずシュート、ブロックに入ったDFがブラインドになったか、楢崎も届かずゴール左隅に決まった。それまではチームの活性化したパス回しの中で鈍重さが悪目立ちしていた平山だったが、ここは見事枠に飛ばしてくれた。もちろん、いつの間にかゴール前まで上がっていた羽生の巧みな動きが呼んだ得点でもある。1-0。

これで東京はさらに勢いに乗る。38分、右CKをカボレが叩きつけるヘッダー、ゴール左に決まったかと思えたが、横っ跳びの楢崎とDFが2人かがりでブロック。今季リーグ初得点の平山もハッスルを見せ、DFラインからボールを奪ってはシュートを放ち(枠外)、さらに43分にはボックス前でFKを獲得。徳永のシュートが右外からグイッと左へ曲がって思わず「オオッ」と立ち上がりかけるも、きわどく右に外れ。東京優勢のまま前半終了。
 
 

後半、前半途中に負傷の茂庭OUTで椋原IN、今野がCBに入る。茂庭は今季一番の好プレーを見せていただけに残念であった。これが呼び水にもなったか、名古屋が前がかりになって押し込むようになり、東京はボランチの運動量と快足アタッカーの逆襲で対抗。51分、羽生の巧みなパスで左タッチ際をカボレが抜けるカウンター、カボレはボックス内まで一気に突進するも最後の1タッチが大きく楢崎セーブ。逆サイドにどフリーで浅利が上がっていたが……。

名古屋はそれなりにいい形は作るのだがDFを崩しきれない。54分にカウンターから数的優位を作った場面も、中村が切り返しで時間をかけて逸機。ここで「ミスター」が動き、中盤の山口に替えて快足FWの杉本を投入。この交代が当たった。中央で飛躍的に増した圧力に対して東京のCBとボランチは下がり気味にならざるを得ず、さらにバヤリッツァら名古屋DFの攻撃参加も加わって辛い時間帯に。特に左サイドから度々チャンスが生まれる。

60分、阿部のクロスをボックスへ斜めに走り込んだ玉田が受け、さらに折り返しがゴール前の米山へ通るも塩田が防ぐ。63分、椋原とバトルを繰り広げるマギヌンのクロスにヨンセンが飛び込むがDFが競りかけてわずかに合わず。65分にはCKがフリーの増川の前に抜けるも反応できない。東京は全く押し上げることができず、68分にこぼれ球を拾った平山がドリブルで(!)DFをかわして角度のないところからシュートするが、惜しくも外れ。

名古屋の波状攻撃は続く。70分、阿部のクロスにゴール前フリーで抜け出した杉本が頭で合わせるが、塩田が正面でキャッチ。その直後には杉本のポストプレーから玉田の強烈なミドルシュートがゴール右上を抜ける。東京は中盤では鍵をかけられないものの、ボールホルダーへの懸命の寄せでしのごうとする。浅利の好タックルが何度か。73分にもこぼれた浮き球をボックス付近で玉田が拾うが、佐原が競りかけてシュートは大きく枠を外れる。

ここで両チームのベンチが動き、東京はカボレに替えて赤嶺、名古屋は玉田に替えて巻を投入。名古屋にも疲れが見え始め、アタッカーの戻りが悪くなった隙を突いて東京も再びチャンスを作るように。75分、右CKから中へつないで羽生が渾身のミドルシュート、楢崎あやうく弾き出す。78分、平山とのコンビパスで左サイドを抜けた赤嶺が中央へ速いグラウンダーを送り、石川が飛び込んだがあと1cm(くらいだよな、多分)届かず。

名古屋はマギヌンに替えて津田を投入、総攻撃体勢に。これに対して東京はエメを下げて金沢投入、フレッシュなMFを投入したことで中盤の人数と運動量で上回り、名古屋に一方的な攻勢を許さない。ヨンセンと巻を狙ったクロスをCBがはね返し、セカンドボールを拾った東京の攻撃陣がパスを回して時間を使う、の繰り返し。また、名古屋ももうどんどん前線へ放り込むしかないはずなのだが、やや徹底を欠いているようにも見えた。

で、気がつけばロスタイム。自陣ではね返したボールを今野が拾って持ち上がり、赤嶺と2人で楢崎の待つ名古屋ゴールまで無人の野を行く大チャンス。が、そのままシュートへ行けると思いきや、今野はなんと赤嶺へのパスを選択。赤嶺は反応できずに(パス自体も悪かった)ボールが流れ、シュートできず。確実さを求めたのか、それとも「プレゼント」だったのか……赤嶺の方がビックリしてんだもんなあ(笑)。ともあれ、そのまま1点差で試合終了。
 
 

いや、なかなかエキサイティングな試合だった。

名古屋は中村の展開力とヨンセン・マギヌンの技巧を活かしたワイドでダイナミックな攻撃、梶山不在の東京は外国人の技量を軸としたショートパスのコンビによる攻撃、と対照的でわかりやすいサッカーを見せてくれた。両チームとも監督就任1年目ということで粗々でツッコミを入れたくなるところはあるにせよ、暑さの中(この日は名古屋にしては比較的涼しかったようだが)で双方とも最後まで戦い抜いて、見応えのあるゲームだったと思う。

水曜日のナビスコ大分戦から既に内容が上向きになっていた東京だが、この試合では今野・羽生のコンバートも含めて各自の役割(たとえば石川の飛び出す動きとかも)がよく整理されていた様子で、選手は力をよく出せていたと思う。大分遠征から直接移動を強いられる日程が「合宿効果」をもたらしてくれたのだろうか?もちろんまだまだコンビネーションでの崩しが足りない、2点目が奪えなかった、などの課題はあるけれど、一歩前進の印象。

つーか、名古屋のアタッカー(特に玉田)にもうちょい決定力があれば余裕で結果はひっくり返っていたような気がしないでもないが、しかしこちらもカボレ・浅利の二対一やら石川の「このトラップが決まってれば……」連発やらロスタイムのQBK事件(笑)やらがあったので、そこはお互い様だと考えたい。フリーで撃たせたのは杉本のヘッダーくらいだったしね。


個々の選手では、まずなんといっても羽生を殊勲者に挙げなければ気が済まない。今回彼に課されたミッションは、本職ではないボランチとして中盤の停滞を打破すべし、という困難なもの。決して身体能力に優れているとは言えない彼に務まるのか正直心配ではあった。それが、である。攻めては前後左右に動き回って「使われ」ながら周りを「使う」ことで中盤を活性化。守ってはやはり無尽蔵の運動量と適確なポジショニングで攻撃の芽を摘み続けた。

たぶん、速く走ったり強く当たったりボールを長く正確に蹴ったりすることについては、羽生より良い選手は東京の中にも何人もいるのだと思う。しかし、自分がその局面で(あるいはゲーム全体で)果たすべき役割に関する強い意識や、プレーで「自分たちのやりたいサッカー」を体現する意志、といったものでは彼の右に出るものはいない。この試合で改めて、東京に足りないものを補うべくやってきてくれた選手だということを再認識した。

その羽生の陰で守備に一本芯を通していたのが浅利。地味な好守備はいくつもあった。今野と石川は役割を整理してもらうことでスランプからの脱出気配が少し見えたかな、と。茂庭も堅実なプレーぶりで好印象だったが、怪我が心配。徳永はやはり左の方が気を抜かずにプレーするのでいい感じ。エメルソンは孤立しなければあれくらいはできる選手。赤嶺は、いい動きしてただけに最後のアレは惜しい。カボレもキレは戻ってきたけど、いかんせんシュートが……。
 
決勝点を決めた平山ももちろん殊勲。楽なシュートではなかったと思うが、よくあのコースにあの強さで撃ち抜けたものだ。「高校選手権の平山」を思い出したよ。ああいうプレーがたまに出るから、いつまでも期待感が消えずにズルズル行ってしまうのだ……というと意地悪すぎる言い方か。この日は守備も組み立ても頑張っていたけど、彼がボールを持つとスタンドに微妙な雰囲気が漂うんだよな(笑)。赤嶺とうまく切磋琢磨してくれるといいんだが。


ともあれ、これでようやく無勝利のトンネルからは脱出である。上位が川崎を除いていい感じに勝ち点を落としてくれたので(鹿島どうした?)、順位は8位どまりながら首位との勝点差はたったの5(11位ヴェルディとの差が3しかないということはさておき(笑))!勝負事で欲が出てくるのは良いことには違いない。次の土曜日はホームで浦和レッズとの試合。勝てば浦和との勝点差が一気に1まで縮まる!勝て!つーか、勝ってくれ、頼むぞ!
 
 
 
いやー、久しぶりの勝利に、早い夏休み、ついいつも以上に長~く書いてもうた(笑)。
 

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コメント

テレビ観戦でしたが、どのシーンにも羽生が映っているような気がしました(笑)。

チャンスと見れば上がり、ピンチになれば下がっているのは、走力だけでなく戦術眼が優れているのでしょうね…。

>いおぞうさん
コメントありがとうございます。

そうですか、テレビでもガンガン伝わってましたか、あの「ピッチの上にいったい何人の羽生がいるんだろう?」状態は……。

>走力だけでなく戦術眼が優れているのでしょうね…。
おっしゃるとおりで、ただ無駄に走るだけでなく、走りながら考える、あるいは考えて走るということがいかにできているということでしょう。さすが「オシムの子」ですよね。

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