« チームの現在地はここ (浦和レッズ×FC東京) | メイン | 今はまさしく「五里霧中」だが (鹿島アントラーズ×FC東京) »

2008年07月13日

●『狂気の海』『インフェルノ 蹂躙』


金曜日の夜は、渋谷ユーロスペースのレイトショーで高橋洋特集上映。高橋さんといえば『女優霊』『リング』『蛇の道』『発狂する唇』『呪怨』と怪作を連発する狂気脚本家。映画館の入口に帽子を深くかぶった怪しげな人がいるなあ、と気になっていたのだが、やっぱりご本人だった。なんつーか、妙な「気」を漂わせているんだよね(笑)。


1本目は高橋洋脚本・監督『狂気の海』。モノクロ版アニメ「サイボーグ009」の『太平洋の亡霊』というエピソードにインスパイアされたという、ビデオ撮り34分の短編。

舞台は現代の日本。憲法改正により「普通の国」を目指す日本国首相(田口トモロヲ)と、憲法9条を守るべく密かに核武装を進める首相夫人(中原翔子)。折しも合衆国大統領が謎の死を遂げ、FBI霊的国防捜査官リサ・ライス(長宗我部陽子)が「呪殺容疑」で2人を追い詰める。一方、富士山の地下では知られざる古代文明の超兵器が発動して……って、書いてるだけで何かが狂っていることがよくわかる、高橋イズムに充ち満ちた映画だった。

観た感想としては、ちょっとイマイチだったかな、と。低予算の自主制作だけにチープなのは仕方がない。問題は、前作『ソドムの市』でもそうだったんだけど、微妙なギャグや収まりのつかない展開の楽しさと「太平洋の西端における怨念の噴出」という物語のダークなテーマとが乖離していること。全体的な台詞回しや画の見せ方も含め、どうにも居心地の悪い感じを覚えてしまうのだ。そこが作品の「味」にまで昇華してればいいのだけれど……。

発射されるミサイルの脇で息絶える中原翔子様とか、唐突に「富士王朝」が登場して富士山を噴火させるくだりとか、冷然とした目線で兄を毒殺する宮田亜紀とか、パーツパーツではいいシーンがあったと思うんだけどね。まあ、「珍作」ということで。


もう1本は高橋洋脚本・北川篤也監督『インフェルノ 蹂躙』。元々は日活のVシネマとして作られたものだそうだが、これはなかなか凄かった。

都内に住む独り暮らしのOLに目をつけた殺人夫婦が、彼女の暮らし(というか男との情交)を盗撮・盗聴した上で誘拐して惨殺。彼らは行方を消した姉を求めて同じ部屋に住むようになった妹にも接近し、様々な手を用いて精神的に追い込んでいく。都会のアパートの空虚さと不気味さ、夜中に誰もいない部屋に響き渡る喘ぎ声、郊外にひっそりと立つ荒涼たる一軒家、血の臭いに興奮する獰猛な犬、そして常軌を逸した「芸術品」と人肉シチュー……。

殺人夫婦の「巣」の造形や終盤の展開、頭をハンマーで殴って足がピクピクッみたいな描写(笑)を見る限り、紛れもなくこれは日本版『悪魔のいけにえ』である。ただし、単なるパクリではなく、「テキサスの日常」の一歩脇に潜む異常性を描いた本家に対し、こちらは「都会」と「ストーカー」という切り口を持ってきたことによって、しっかりと現代日本の恐怖感覚に訴えかけることに成功している。とはいえ、最終的にはやはり「田舎の恐怖」に帰着するのだが。

都会であれ田舎であれ、どこか壁一枚隔てたところに「壊れた人間」「歪んだ空間」が存在している、という感覚は確かに恐ろしいし、それが淡々と描かれるほど恐怖は増していくもの。この映画で何が不気味かって、殺人夫婦が盗撮を行い、人を殺し、人肉を食う(食わせる)行為の、その粛々とした、「善悪の彼岸」などという言葉を持ち出すまでもない「当たり前」ぶりなんである。冷蔵庫を開けて「肉、足りるかなあ」とボツりとつぶやく口調。

そういった残酷描写以外にも、狂気に追い立てられていくヒロイン(立原麻衣)の病的な美しさや異常な濡れ場といい、1人部屋の気味の悪さといい、全編緊張感の途切れない傑作であった。作られたのは11年前。黒沢清の超傑作ホラー『蛇の道』『蜘蛛の瞳』(前者は高橋洋脚本)もその頃か……末期のVシネマは「エロチック」や「ヤクザ」をある種の言い訳にして、本当にトンデモない映画を撮ることができたのね、という。今じゃ逆に作れないわな、こんなの。

いや、なんか、書いてるうちに映画の内容を思い出して薄気味悪くなってきた。クライマックスでヒロインが叫ぶ声が耳について離れんよ。「食え!食え!!」……うーん、もう寝よう(笑)。
 

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2407

コメント

ホラー、スプラッター、グラン・ギニョールものって、案外嫌いじゃなくて、The Texas Chain Sawも、シリーズ、オリジナル、触発され作られた似た映画も、みんな見てるんだけど、どこかに自分とは無関係なものとして安心して見てるところがある。なんで、逆に日本の四畳半ホラーが怖くて見れない。いや、見てるんだけど(笑)。
精神的な恐怖の違いというより、「痛さの表現の違い」を感じていたんだけど、頭をハンマー足がピクピク人肉シチュー…って聞くと、日本のホラーも四畳半から○○平米フラットみたいになってきているのかしら。昔の日本の痛さは、アドレナリンが出ない程度の、ジリジリした長時間の痛みだったような気がするんだけど。

いや、この作品は日本ホラーとしても特異だと思います。途中まで、というかほとんどはピリピリネチネチな神経サスペンス描写(日活だけにかなりエロも交えつつ(笑))なんですけど、それが「埼玉(?)の郊外」へ舞台が移った瞬間にハジけて『悪魔のいけにえ』になってしまうという。

言い換えると、日本ホラーと『悪魔のいけにえ』的映画の違いは、この世とは違う悪夢の空間が「部屋の隅」にあるのか郊外の一軒家にあるのかの違い(それが「痛さの表現の違い」にもつながってきますよね)だと思うんですけど、『インフェルノ 蹂躙』は前者と見せかけて後者、というタイプですね。

時点的には確か『リング』も『呪怨』もこの映画より後なので、まあ日本ホラーの流れがこうというよりも、鬼才の生み出した突然変異といったところでしょうか。ただし同一人物により再現される可能性アリ、っつーより、個人的には黒沢清さんあたりとのコンビでまたやって欲しいなこの路線、という感じです。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)