●『世界報道写真展2008』『森山大道レトロスペクティヴ』
土曜の午後は、久しぶりに東京都写真美術館へ足を運んだ。
まずは地下１階展示室、毎年恒例の『世界報道写真展』。アフガンで、そしてイラクで苦戦する米軍と戦火に巻き込まれる人々、アフリカで虐殺されるマウンテンゴリラ、ブット元首相暗殺、ジンバブエ騒乱、ゲリラ化するクルドの子供たち、プーチンのポートレイト、雪崩から間一髪逃れるプロスキーヤー、首だけになったイッカク、地球温暖化で溶けていく北極、etc。毎度の事ながら、重い光景やど迫力の一枚、ユニークな画像がてんこ盛りである。
日本人として先日の秋葉原での事件や東北の地震には慄然とさせられたものだが、さすがにこの展覧会で取り上げられるようなニュースとなるとほとんどが「遠い世界の出来事」のように思え、正直なところ自分自身との距離の取り方に戸惑うようなところはある。見せ物として「楽しむ」ほど無神経じゃない（と思いたい）し、変にわかったような気になるのもいけないのだろうし、いったいどう受け止めたらいいのやら……毎年考え込んでしまう。
今のところ答えは出ていないし、ずっと出ないままなのかもしれない。ただ、一枚の写真と少々のキャプションで語られる「端的な事実」を目の前にした時の暗澹たる気分ややるせなさ、驚き、そして少々の喜びというのは敏感に意識していきたい。甘っちょろい考えだろうが偽善的だろうが、やはり「他人事」と切り捨ててしまったらおしまいだと思うから。特にこの展覧会で展示されるのは、僕たちが普段見聞きするマスコミでは手に入らないものが多いのだし。
興味深かったのは、昨年まではイラク戦争ものが多かったのが、今年は大賞作（塹壕で疲れ果てた米兵の姿をとらえたもの）を含め、アフガン戦ものがぐっと増えていたこと。「そっちもまだ終わっていないぞ！」というある種のバランスが働いたのだろうか。渓谷の村に降り注ぐ白燐弾……。あと、日本人としては南京大虐殺の追悼式典をとりあげた展示が気になった。笑える写真は例年より少なめだったかな。上海のコスプレ少女にはちょっと萌えた（笑）。
３階・２階は２フロアまとめて森山大道展が開催中。３階は『レトロスペクティヴ１９６５－２００５』と題された回顧展。さすがに日本を代表する写真家だけあって、２０６枚にも及ぶ展示作品は圧倒的であった。つーか、森山さんと聞くとこれまでグループ展などでしか見たことがなく、「個性的なのはわかるけど、いまいち魅力が伝わりづらいんだよな～」くらいに思っていたのだが、さすがにそれだけの数が並ぶと良い作品がいくつもあった。
森山さんの写真の特徴は「アレ、ブレ、ボケ」。技術的な評論なんてとてもできないわけだが、「不確かなものを確かに撮る」のでも「確かなものを不確かに撮る」のでもなく、「不確かなものを不確かなまま撮る」ことに徹しているのが潔いというか共感できるというか。『東京ＩＣ（インターチェンジ）』の２枚と『まずたしからしさの世界を捨てろ』の２枚、それと２０００年代に入ってからの何十枚かが特に素晴らしい。一度見ると目を離しがたいものがある。
何十年も撮り続けた森山さんだが、解説によると７０年代にはスランプの時期もあったそうな。「街のものをそのままに撮る」手法が行き詰まったらしいのだが、そこには社会・文化的な風潮との関連もあったのかもしれないな、とちょっと思ったり。その頃は高度成長も終わって世の中自体もそれを表象する文化的な諸々もある意味「アレ、ブレ、ボケ」だらけだったろうから、周りとの差異を見出し難くて立ち位置を見失ったのではないかな、と。
２階に降りると、今度は『ハワイ』と題された新作展。その名の通りハワイで撮影した数十枚を展示。回顧展に比べると肩の力が抜けた感じで、ざっくばらんというか、大型プリントがドーンドーンと続く様は妙に開放的だった。ただ面白いのは、一般的には（やや手垢がつきながらも）「常夏の楽園」的なハワイのイメージが、森山さんの手にかかるととたんに「荒涼」で「いかがわしい」土地になってしまうこと。グラサンかけてる犬の写真は良かったなあ。
なんつーか、「他の誰にも作れない」ものを作ってこそのクリエイター、という当たり前の真実を再確認させられた数十分だった。もう一度観に行こうかと思ったりもしたのだが、今度の日曜日でおしまいなのか。残念。
