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2008年06月05日

●柳の強さ、あるいは納豆走法の勝利 ('08ジロ・デ・イタリア)


2008年のジロ・デ・イタリアは昨年の三大ツール覇者が揃い、また展開的に接戦が続いたこともあり、なかなかの盛り上がりようだった。結果は、ツール・ド・フランス王者のアルベルト・コンタドールが地元の新鋭リッコを僅差抑えての優勝、名実ともに自転車レース界のトップに躍り出た。コンタドールの所属するアスタナはドーピング問題のあおりを受けて1週間前まで出場が決まっていなかったという経緯を考えれば、これは驚くべき勝利でもあった。


今回のコンタドールは結局ステージ優勝なしということで、たとえばツール連覇中のアームストロングや06年ジロのバッソなどと比べると破壊力やインパクトにおいてやや見劣りするのは否めない。ただ、本人もレース後に語っている通り「1週間前までビーチでバカンスを楽しんでいた」ことを考えればそれもやむを得ないことなのかもしれない。むしろ、3週間という期間を利用して巧みに帳尻を合わせていったスマートさを讃えるべきなのだろう、と思う。

驚くべきは、不十分な準備と調整に加え、レース期間中にも様々なトラブルや困難に直面したにも関わらず、コンタドールがほとんど崩れる様子を見せなかったことである。第9Sの落車による肘の亀裂骨折、第15Sのホイールトラブル、第19Sのディルーカ・LPRの大胆な奇襲作戦とアスタナ包囲網、そして後半の山岳で幾度となく繰り返されたリッコの攻撃。その全てを、はね返すまで行かずとも、受け止めてやり過ごすしなやかな強靱さが彼にはあった。

イメージとしては、強風にさらされても決して折れない柳の枝というか、あるいは「納豆走法」か。特に危険だった第19S、ディルーカに引き離されリッコにも遅れた時には「もう駄目か」と思えたのだが……セッラのスパートという幸運もあったとはいえ、脚が悪いなら悪いなりに粘り倒してわずか4秒差でマリア・ローザをキープしたのには舌を巻かされた。で、第20Sでは盤石のレース運びでリッコに何もさせず、最終Sの個人TTで突き放して優勝。うーむ、強い。

サッカーにたとえるなら、序盤先制(リッコの2勝)されても負傷者が出ても(怪我とトラブル)慌てず1点差をキープし、前半終了間際(第10SのTT)に同点ゴール、後半の早い時間帯(第14~15S)に決勝ゴールを奪い、その後は猛攻にさらされながらも自陣で守りを固めて得点を許さず、終盤相手が攻め疲れたところでセットプレー(最終SのTT)から追加点を奪って3-1で勝利、といったところか。そう考えると横綱相撲だったんだな。さすがはツール王者。


また、実力だけでなく、コンタドール君は人柄的にも好感が持てるのがいいね。優勝インタビューでもまずはアシストや関係者への感謝の言葉から入っていたし、定番の「ジロとツール、どっちが上?」という質問にも両方のレースを持ち上げる形で上手く答えていた。そこはやはり苦労人ということなんだろう。リッコみたいなビッグマウスもキャラクターとしては面白いんだけど、やっぱり王者にはそれなりの「人としての大きさ」が求められると思うのである。

なんつーか、自転車界ではここ2年ほどヒーロー候補が現れてはドーピング等の問題で去っていて、一方で過剰とも思える「締めつけ」やらプロツール制度を巡る争いやらがあって、自転車レースというものに対してちょっと斜に構えたいような気分にもなっていただけに、コンタドールの2冠目獲得は個人的には「救世主現る!」である。メルクスもインデュラインも知らない僕にとっては、コンタドールが彼らのような存在になってくれればいいな、と思うくらい。

ただ、相変わらずアスタナはツール・ド・フランスから排除されてるんだよな……まあ、いっそ今のツールなんぞあっさりパスしてブエルタ獲っちゃうのも痛快な展開だし、それで「3大ツール全部獲ってる選手が出られないツールなんて価値あるの?」という感じで圧力かけちゃえ、と地球の裏側の無責任なファンは思うんだよな(笑)。3大ツールを全て優勝した選手は歴史上4人しかいないのか。ツール・ド・フランス連覇よりも価値があるような気がするけど。
 
 
つーか、気がつけばツール・ド・フランス開幕まであと1ヶ月ちょっと。ホント早いねえ……。コンタドールのいない総合争いにどれだけ興味が沸くかどうかはわからないけれど(クネゴ?バルベルデ?うーん……)、とりあえずボーネンとベンナーティのマイヨ・ヴェール争いを楽しみに待つことにしよう。あ、その前にツール・ド・スイスもあるのか。
 

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コメント

あっ、なにげにmurata氏も見ていたんですね。コンタドールは1勝もしないで勝ったんですよ。このあたりがレース巧者というか準備不足なりの作戦だったというか・・・。

>メルクスもインデュラインも知らない
 メルクスは60年代後半から70年代なんで私も知らないんですけど、ワンデーでもステージレースでも圧倒的に強かったそうです(だから人食いと呼ばれている)。インデュラインは知ってます。自分としてはインデュラインは好きじゃなかったなあ。個人TTで圧倒して山は凌ぎきるっていうスタイルが。だから、その頃に現れたパンターニがたまらなく好きだった。

>3大ツールを全て優勝した選手は歴史上4人しかいないのか。
その4人を当ててやる。たぶん、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、グレッグ・レモン(ブエルタ、出てたかなあ?)で、あとは・・・・・・・・・、ジャック・アンクティル?

>ツール・ド・フランス連覇よりも価値があるような気がするけど。
いやあそれよりもトリプルクラウン(同一年にジロ、ツール、世界選手権ロードを優勝)の方が勝ちありますよ。 

コンタドールはクレバーだし精神的にもフィジカル的にも粘り強いし、まあステージレーサーとしては本当に逸材なんでしょうね。

>その4人を当ててやる。
メルクスとイノー、アンティルは当たり。レモンは外れです。さてあと1人は、誰でしょう(笑)?

>トリプルクラウン
確かにそれも凄いんでしょうけど、世界選手権はスプリンター向けのコースになることがありますからねえ(いや、だからこそ価値があるのか)。

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