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2008年02月18日

●勝負とはなんと残酷で、切なくて、美しいのだろう ('08ラグビーMS杯準決勝)


昨日の午後は、秩父宮ラグビー場でトップリーグプレーオフ(マイクロソフトカップ)準決勝。三洋電機ワイルドナイツ 25-21 東芝ブレイブルーパス。リーグで4位に沈んだ「3連覇王者」東芝が、リーグ戦全勝の偉業を成し遂げた三洋電機に挑む一戦。勢いに乗る三洋が一発勝負の舞台でその強さを発揮できるか否かが注目だったが……元王者の意地と挑戦魂がリーグ戦の劣勢を覆したかに見えた展開から、あっと驚きの結果に。


前半は完全な東芝ペースとなった。おそらく相当念入りな研究をしていたのだろう、ラインアウトではことごとく球筋を読み切って三洋ボールの半分程度を奪取し、守備の局面では反則スレスレの出足としつこい絡みで素早い展開を許さない。ピッチの悪さから両チームともキックを選択することが多かったのだが、これも驚くべき事に(トニー・ブラウン相手に!)東芝が互角以上に渡り合う。ワンプレーごとに東芝の気迫が圧倒しているように見えた。

開始早々三洋がPGで先制した後は、大半の時間三洋陣で試合が進む。マクラウドやオトの突進に東芝お家芸のドライビング・モール。三洋の防御もさすがに強力でなかなか得点に至らないが、ポゼッションは一方的であった。30分、PGでまず同点。34分には三洋ゴール前のラインアウトから巧みにモールをズラし、ホルテンが飛び込んでついにトライ。東芝5点リードで前半終了となった。引き上げる三洋フィフティーンの表情もいつになく厳しい。


後半になるとさすがにネジを巻き直した三洋が攻勢に出る。前半よりもパス展開を増やし、東芝DFを横に揺さぶって前進を図る。ラインアウトも修正され、風上に回ってキックも見違えるように伸びていく。43分、距離のあるPGをブラウンが決めて6-8。46分には入江がインターセプトからDFライン裏に抜け、フォローした北川がターンでDFをかわしながらタッチ際を駆け抜けてトライ。13-8。「やはり三洋か」という空気が広がりかけた。

ところが、三洋はそこからの時間帯、優勢を保ちながらも得点を積み上げることができない。逆転で「ホッ」とした気持ちと悪ピッチへの過剰意識もあるのか、モールからの球離れが悪くなり、BKが待ちぼうけているうちに反則等で逸機、という場面が続く。どうも今季の三洋らしい「主導権をとっていく果敢さ」が失われた印象であった。あるいは、それほど相手の気迫に押されていたのか。ブラウンのやや強引なDGも失敗。逆に東芝はPG成功で差を詰める。

そうしているうち、再び東芝の攻撃が勢いを増す。得意のモールを「仕留め」の段階ではなく中盤で使って押し込み、DFがバラけたところで横へ展開。独走までには至らないが、BKが勢いのある走りでゲインを重ねる。三洋はタックルとキックで粘るのが精一杯。そして65分、22m内のラックから前主将の冨岡が見事なドロップゴールを決めて逆転。13-14。冨岡の、彼らしい控えめな、しかし力強いガッツポーズが手応えの大きさを表していた。

わずか1点差、されど1点差。残り15分でリードを許すとなれば、いかに今季全勝の三洋といえど余裕のあろうはずもない。ブラウンを起点とするパス回しで攻めたてにかかる。が、69分、中央のスクラムから素早く展開しようとしたところ、廣瀬が出足良くカットしてそのまま独走トライ、13-21。残り8分で8点差。この日の東芝の出来からすれば、そして昨年までの「王者東芝」の強さを考えればこれで決まりか、とも思えたのだが……。

しかし、三洋も諦めない。思い切りを取り戻した展開攻撃で右へ左へ揺さぶりをかける。73分、北川がゴール内へゴロキックを入れて自ら走り込むも、廣瀬が競りかけてノックオン。75分、ブラウン→三宅の高速展開からホラニが抜け、ゴール直前で止められながら飯島→北川とつないでトライ。18-21。しかしブラウンのキックが外れてしまい、まだ3点差。77分には吉田がDF裏に抜けるが、中央付近で捕まってノットリリース。これで万事休す、か?

「それ」が起こったのは残り1分半からだった。自陣深くでボールを得たブラウンが意表を突くロングキックで一気に東芝陣へ入り、モールを三洋が渾身の力で止めて東芝はやむを得ずキック、左サイドでキャッチしたホラニがロングパスを右へ振り、北川の鋭いランで22m内へ。さらに左へ展開、吉田がライン際を走ってゴール寸前でラック。僕の座るメイン席からは反対側だったが、懸命さがひしひしと伝わってきた。そしてタイムアップのホーンが鳴り響く。

ラグビーはプレーが切れるまで終わらない。遠くで、ブラウンがラックサイドへ持ち出して低く飛び込むのが見えた。ゴール内で屈み込む平林レフリーも。と、息を飲んだその瞬間、平林さんの左腕が上がって……三洋の選手たちが飛び上がり抱き合い、東芝の幾人かが崩れ落ちる。静まりかえる東芝の応援席。なんと、接戦に決着をつける「逆転サヨナラトライ」であった。ブラウンがコンバージョンを決め、25-21となったところで終了の笛が鳴った。
 
 

劇的な結末だった。

ロスタイムでの逆転と言えば、個人的には96年パシフィックリム日本×カナダ戦における村田亙のトライが思い出されるが、状況は今回の方がよりドラマティックだったように思う。テレビ観戦を含めても、91年全国社会人選手権神鋼×三洋戦のWTBウィリアムス(あの時は三洋がやられる側だった)以来のインパクトである。正直、8点差となった時点で勝負ありと思っていた。「勝負はゲタを履くまでわからない」とは言うが……いやはや。

僕は元々展開ラグビーが好きだから、率直なところ試合前は、イメージ的に「モールが軸」の東芝よりも「イケイケ」の三洋に勝ってほしいと思っていた。でも、この日の東芝の気迫や戦いぶりには観る者の心を揺さぶるものがあった。リーグ戦の41点差(!)をひっくり返すのは並大抵のことではない。気がつけば、「東芝が勝つべきだ」「逃げ切ってほしい」と思っている自分がいた。あとちょっとだったんだがなあ。勝負とは、本当に残酷なものだ。

三洋電機にしてみれば、リーグ戦と違うノックアウトラウンドの難しさを思い知らされた、というところだろうか。今季、三洋が内容的にもリーグで一番だったのは間違いないところ。でも、だからといって全てのチームを圧倒したとまで言えるわけではなく、東芝ほどのチームが背水の意気込みで挑んでくればやはりギリギリの戦いを強いられるのである。頂点まであと1試合。今回の苦戦を糧にできるかどうか。次の相手は、おそらくさらに手強い

試合後、宮本監督の喜びのインタビューやダイジェスト映像が流される大型ビジョンを、腕を組んでじっと見つめる冨岡鉄平の姿があった。この日の冨岡は試合の流れを引き寄せるドロップゴールを決めるなど、廣瀬やマクラウドとともに素晴らしい働きで、そのプレーには唸らされるものがあった。なんというか、立ちつくすその姿は切なくて、美しくて、実に絵になる「キャプテン」なんだよなあ。ホント勝たせてやりたかった、この試合は。
 

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コメント

私も秩父宮いました。
素晴らしい試合でしたね…私もどちらかと言えば三洋に勝ってほしいと思っていましたが、東芝の魂に心打たれました。
しかし、ブラウンは凄い選手ですね…清宮さんがブラウン対策をどう練るのか、興味津々です。

いい試合でしたねぇ。
所用があったので見に行くことができず、録画で見ました。
後半はホントハラハラドキドキ。
というか、途中経過を2ちゃんの実況板で見てたので、結果だけは知ってたんだけど、映像を見るとやっぱりすごい。
ヨメそっちのけで携帯から2ちゃん見てたら怒られてしまった。。。

いや、さすがにここまで熱い内容、劇的な結末は滅多に見られないでしょうから、現地観戦の機会に恵まれてラッキーでした。

決勝は三洋×サントリーですか……ここまで来たら三洋に最後まで走ってほしいような気もするし、サントリーも昨年あれだけ勝って1つもタイトルは獲れなかったし……。

同点優勝を希望(笑)。

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