●アリエナイ試合、があった。 ('07ラグビーW杯準々決勝)
ラグビーのフランスW杯もいよいよ決勝トーナメントに突入。今回は開幕戦でいきなり開催国フランスがアルゼンチンに負け、いわゆる「主要8カ国」のうちアイルランド・ウェールズが予選リーグで敗退するなど波乱含みの展開になっている大会だが、準々決勝ではさらなる驚愕の試合が待っていたのだった。
正直なところ、4試合のうち実は一番結果が堅いゲームではないかと思っていた。もちろん豪州の圧勝予想で。ところが蓋を開けてみると、イングランドが無謀とも思えるハイペースでプレッシャーをかけていき、豪州は完全に受け身に回る展開。それでもウィルキンソンのキック不調もあり、「最後は豪州だろ」と思いながら見ていたのだが……まさか最後までイングランドが頑張り抜くとは。母国の底力、としか言いようがない。
残念なのは、グレーガン&ラーカムという、おそらくこの10年の世界ラグビーでベストのハーフ団がもう観られなくなってしまうこと(両者とも代表引退を表明)。この試合でもグレーガンは良かったと思うんだけどなあ。ラーカムは結局日本戦しか出られなかったのか。世界で一番ボールを確実かつ素早くさばけるSHと、世界で一番「前が見える」SOのコンビ。僕はこの2人が大好きだったので、優勝で花道を飾ってほしかった。
「フランスならやるかもしれない」とは思っていた。開催国だし。ただ、実際にこの結果を見せられると目を見張らざるを得ない。試合の大半を支配していたのはNZの方だったのだが……慎重に事を運ぼうとしてかえってフランスの「奇妙な」ペースに巻き込まれてしまった印象。勝負所で経験豊かなカーターとケラハーがともに負傷でピッチを去る不幸な巡り合わせもあった。ニュージーランド国民は釈然としてないだろうなあ。
それにしてもフランスとは不思議なチームだ。この試合や99年の準決勝みたいにミラクルな勝利を挙げたかと思えば、今回の開幕戦のようにいいところなしでコロッと負けたり。いずれも原因不明で。とにかくつかみどころがない印象である。なんつーか、サッカーだとブラジルの選手とか「独特のリズムが体内を流れている」みたいな言い方をすることがあるけど、フランスも何か独特のモノがあるんだろうか。四次元的に。
ラストプレー、ノックオンボールを拾ったSHエリサルドがすぐに蹴り出すかと思いきや、自陣方向のタッチラインに向かって走り出したのは笑えた。「おい、どこへ行くんだ」という(笑)。最後はバーンとスタンドに蹴りこんで、歓び大爆発!!これもまたフランスらしい。
結果は順当。でも、内容はフィジーの大健闘。そりゃウェールズに勝ったチームだから強いのは確かなんだけど、南半球のリアリズムに通用するかどうかはまた別問題。それが本当に南アをあと一歩まで追いつめたんだから驚いた。後半半ば、SHラウルニを起点とした独特の深いラインのオープン攻撃でトライを連取した時間帯の、あのワクワク感は一体何なんだろう。「フィジーラグビーここにあり」を天下に示した一戦だった。
フランスやアイルランドに完勝した試合に比べると、この試合のアルゼンチンはやや力を出し切れていないように見えた。しかし、それでもスコットランドに勝ってしまうのだから、むしろ実力の高さをまたも証明したと言うべきかもしれない。派手さはないが、どのレベルの相手に対しても着実に勝ちきるあたりは「アントニオ猪木型」とでもいおうか(笑)。とにかく「主要8カ国」以外で初の準決勝進出は間違いなく快挙である。
しかしこの大会、開幕前には出場国間のレベル差が懸念されていたし、早々に北半球の国が消えて盛り下がるのでは、とも言われていた。でも、予選リーグではアルゼンチンやフィジーの躍進に加えて「スモール・ネーション」(トンガ、グルジア、etc)の健闘が目立ち、ホームユニオン2カ国が敗退。で、準々決勝になると今度はそれまで苦戦続きの北半球の強豪が意地を見せて優勝候補を撃破。ある意味、最高に面白い展開だと思う。
ラグビーはサッカーとは違い、対戦するチーム間の実力差がモロに、いや必要以上にスコアへ反映されてしまいがちなスポーツである。だからこそ「主要8カ国」以外の強化というのはラグビーの世界的な普及とエンターテイメント化にとっては最重要の課題だったわけで、今回これまでにない「下克上」が発生しているのは非常に好ましい事態と言えるだろう。もちろん、破れた強豪国の人々以外にとっては、だけれども(笑)。
個人的にはアルゼンチン×フランスの決勝なんて素晴らしいと思うのだが……さて。