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2007年08月24日

●『ショーン・オブ・ザ・デッド』

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DVDで『ショーン・オブ・ザ・デッド』観る。イギリスの新鋭監督エドガー・ライトと主演・脚本サイモン・ペグのコンビによる、ジョージ・A・ロメロ作品へオマージュを捧げたゾンビホラー・コメディー映画。人工衛星の爆発(?)により、ある日突然ロンドン市内にゾンビが蔓延。主人公の「ダメ男」ショーンは親友と母親、振られたばかりの元彼女らを連れて馴染みのパブにたてこもり、事態をやり過ごそうとするが……。


実によくできた映画だ。感心させられた。

上には「ゾンビホラー・コメディー」なんて書いたけど、要するに「ゾンビ映画」という現代ホラーの王道たるフォーマットを使いながら、あくまでコメディー調の映画に仕上げてあるということ。これは、言うまでもなくかなりの無茶である。普通ならば「ゾンビ」という存在から怖さを取り上げて(グロくないメイクにするとか人が死なないようにするとか)記号化し、おちょくって笑わそうとするところだろう。

しかし、この作品が素晴らしいのは、「コメディー」としての愉快さをベースにしながらも、「ゾンビ」の怖さやおぞましさ、さらには極限状況における登場人物の濃密な人間関係までをきちんと描ききっていところだ。様々な要素がバランスよく、それぞれ手抜きなく詰まっていて、噛みあっている。これはなかなかできないことだと思う。観客側から見れば、笑えて、ビビれて、泣けて、燃えるということだ。

物語の序盤、ゾンビの存在が見え隠れし始めるシークエンスの不気味さ。ショーンと親友エドのお馬鹿なかけ合い。突然出現した少女ゾンビの恐怖。母親の救出作戦を検討する際のコミカルな脳内描写。集団で人を食らうゾンビのおぞましさ。目的地のパブへ突入するための奇想天外な作戦。肉親が次々にゾンビ化していく悲惨さと、「親殺し」の痛み。そして、スカッと憑き物が落ちたようにさわやかなラスト……。


一番笑ったのは、二日酔いのショーンが朝ゾンビだらけの街中にでかけて、寝ぼけて全く気づかないままゾンビと挨拶かわしたりしながら家に帰り着いちゃう場面かな。ロメロのゾンビ、ノロいからねえ(笑)。あと、ゾンビの脳天を破壊するためにレコード棚のレコードを、あまり貴重じゃないアルバムを選びながら(笑)投げつけたり、大群のゾンビの中を突破するためにみんなでゾンビの物まねをしたり……。

全編を通じて感じられるのは、やはり作り手のロメロのゾンビ映画への愛情である。「動きがノロい」「両手を前方に下げて歩く」「脳天破壊で死ぬ(元から死んでるけど(笑))」といったロメロ映画のお約束は全て踏襲しているし、終盤パブに逃げこんでからの展開はほとんど『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』だもんね。密室での内輪もめとか、肉親のゾンビ化とか、やがて訪れるカタストロフとか。

ただ、違うのは、ロメロ作品が多くの場合登場人物を突き放すような視線で描いているのに対し、この作品は主人公に感情移入する形で作られている、ということか。ショーンという男がまた、身につまされるダメっぷりで……。僕も最初は「ダメなヤツだなあ」と笑っていたのだけれど、ショーンが懸命にもがき、失敗し、でもまたあがいて失敗する様を見ているうちについ肩入れしてしまって、ラスト前の男泣き場面ではついもらい泣きしてしまいそうになった。


いや、これこそが本当のエンターテイメントであり、「映画」と言えるのではないか。まさしく快作。オススメ。

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コメント

しばらく前にWOWOWで放送していたのを偶然見て、久しぶりに面白い映画を見た!と思ったのを覚えています。

昔はホラー(スプラッタ?)映画好きだったのに(東京ファンタやゆうばりにも通っていたくらい(笑))、いつしか常識人になってしまっていたのですが、久々にこの手の映画のもつパワーを思い知らされたという感じがして……。

ホラー映画は、若手監督の登竜門でもありますよね(サム・ライミにしろ、ピーター・ジャクソンにしろ……)。そういう部分はずっと残っていてほしいと思っています。

ロメロのゾンビは自分の原点。
いつの日かゾンビが現れる時がきたら
絶対にスーパーマーケットに立て篭もって
いかにゾンビを追い出し、荒れくれものから
見つからないようにしようか考えたものです♪

ロメロは自分の言いたいことを映画に込めながらも
エンターテイメントとしても成り立つすばらしい監督ですよねー

ショーン~も上手くゾンビをカバーした感じです。
やっぱりイギリス人のよりどころはパブ!!
そう考えると日本人の場合はパチンコ屋とか??
あとはカラオケ屋??
お、意外に面白そうだぞ。

>久々にこの手の映画のもつパワーを思い知らされたという感じがして……。
観ているこちらも元気の出る映画ですよね。まあ、作っている人はまだ「常識人」にはなってないと思います(笑)。

>ホラー映画は、若手監督の登竜門でもありますよね。
確かに。チャレンジして「自分」を出しやすいジャンルということなんでしょうか。日本だと、黒沢清さんなんかもそうですが。

>ロメロは自分の言いたいことを映画に込めながらも
>エンターテイメントとしても成り立つすばらしい監督ですよねー
おっしゃるとおり。クールでいて、それでいてもの悲しいですしね。

>そう考えると日本人の場合はパチンコ屋とか??
町山智浩さんは「日本人の場合はマンガ喫茶だろう」と言ってました。食べ物はたくさんあるしマンガは読み放題だし地下だからゾンビも入ってきにくいし……「なるほど」と納得しました(笑)。おっしゃるとおり、カラオケ屋ってのも、ありそうですね。