●「ヘンリー・ダーガー 少女たちの戦いの物語-夢の楽園」
【注意】今回はややグロい内容を含んでいるので、苦手な人は見ないように!
月曜日の午後は原美術館で「ヘンリー・ダーガー 少女たちの戦いの物語-夢の楽園」展。ダーガーについて詳しくははてなやWikipediaを見てもらうのが早いのだけれど、一言で言えば、数十年に渡ってフリーター&ヒッキー生活を続けながら残酷描写満載の戦争物語や膨大な量のロリコン絵を残した、アメリカのちょっと変わった(笑)お爺さんである。FBBの「地獄のアメリカ観光」という本で紹介されたのを目にしてから、ずっと作品を見たかったのだ。
毎度のごとく最終日に飛び込んだのだが、美術館に着いてみたら入口に行列ができていてビックリ。中に入っても大混雑。うーむ。今ダーガーって流行ってるのか?それとも雑誌か何かで紹介でもされたのか?女性とカップルが多く、みんな、そんなにデロンデロンの内臓やオチンチン生やした幼女が好きなんだろうか(って、男1人の俺はもっと怪しいのか)。ダーガーの作風を知らない人もけっこういそうで、周りがどういう反応をするのか、ちょっとドキドキ(笑)。
ところが、幸いにというか、展示されている作品は比較的おとなしいものが多かった(ただし、それでも引き気味の客もいた)。もちろん幼女が捕まって縛られてたり化け物に絞め殺されてたりという絵もあるにはあったのだが、「いかにもダーガーっぽい」(例えばこんなのとか)のはちょっと少なめだったか。どうも今回の展覧会はタイトルの通り「楽園」のイメージを優先したようだ。それはそれで確かにダーガーの「イノセンス」の一面を表すことにはなるのだろう。
ダーガーの『非現実の王国』は20年に渡って描かれた1万5千頁に上る一大叙事詩。もちろん全訳などはなく、我々は間接的な資料からその一端をのぞくことしかできない。アビアニア及びアンジェリニアを中心とするキリスト教国連合軍とグランデリニア王国。何千万もの兵士が入り乱れる両国の大戦争と子供奴隷制度。ヴィヴィアン・ガールズを中心とする無数の登場人物と、狂言回したる作者自身。そして散りばめられた残酷描写と最後に待つ楽園。
アウトサイダーアートを単純に「精神障害者の芸術」と解釈するのはどうも間違っているらしいのだけれど、いざこうしてその膨大さを見聞きし、作品を目の前にすると、やはり常軌を逸しているというか「狂気」めいたものを感じざるを得ない、というのが正直な感想である。昼間は掃除夫として生活費を稼ぎ、夜はひたすら幼女の絵と物語を書き続ける。発表のあてもないのに……ロリコンオタクのプリミティブな先駆者、あるいはモノホンの変態か。
ポジティブな見方をすれば、人間の想像力と創造への意欲というのはかように果てしないものである、とも言えるのかもしれない。僕も小さい頃はちょっとした物語や漫画を書いていたものだし、今はこうしてblogに力を入れている。もちろん商売のため、もしくは同人誌やWEBのため、あるいはそれこそ自分1人のために作品を書きためて、素晴らしいものを生み出している人は世の中に大勢いる。それらとダーガーの「外れた芸術」と、一体どこに違いがあるのか。
きっと、ダーガーは何かの拍子でネジが一本飛んで歯止めが利かなくなっちゃったんだろう。だから、もしかしたら僕たちの延長線上にヘンリー・ダーガーはいるのかもしれない。僕も明日あたり急に思い立って、あと何十年か、死ぬまで自室で人様にはとても見せられないような類のものをせっせと作り続けるのかもしれない。大混雑の展示室で隣の人としょっちゅう肩をぶつけながら、そんなことを考えた。ま、ウチはカミさんがいるから大丈夫かな(笑)。
最後に、ちょっと展覧会への苦言を。今回「あれ?」と思ったのは、『非現実の王国』の絵に解説のキャプションが付いていなかったこと。僕のようにある程度の予備知識(特に『非現実の王国』のあらすじについて)を持っていた人間ならともかく、お客さんの大部分はその絵が物語のどの場面で何を描いているのかよくわからなかったのではなかろうか。これは余りに不親切だし、一歩間違えれば単なるゲテモノととられかねない。
私立の美術館とはいえ、いわゆる「玄人」や特定のファンばかりを相手にして現代美術に対してあまり馴染みのないお客さんへの配慮を欠くのでは、それこそ存在意義を問われるのではないか(もし「いや、道楽ですから」と言われたら返す言葉もないが)。何もこれは原美術館に限った話ではなく、公立などにもちょくちょく見られることではあるけれども。建物の雰囲気や展覧会のチョイスは素晴らしい館だけに、ちょっともったいないと思った。
コメント
はじめまして。
たまに覗かせてもらっています。
これ、見に行きたかったんですよ…
当方フリーランス業なので、
「週末は混むし一日はサッカーで潰れるし、
仕事に隙間さえできれば天気の良い平日の昼間にゆっくりと」
なんて夢見てたら、そんな都合の良いタイミングなんてあるはずもなく
あっさり逃してしまいました。
知らなかったエピソードをココで学ぶ事が出来、良かったです。
機会あれば画集などで見てみようかと思います。
Posted by: ○○mi | 2007年07月18日 20:32
こんにちは。はじめまして。
そうなんですよね。「週末混んでる時に行くのはやだなあ」「まだ会期が終わるのは先だぞ」なんつってると、気がつけば終わっちゃってたりするものなんですよね。展覧会とかって。
上の画像からAmazonのダーガー本のページにリンクが飛んでますが、どうも1万円くらいするみたいですので、もし値段的に厳しいようでしたら、美術館の図書室などで見てみてはいかがでしょうか。都現美にはあるようです。
Posted by: murata | 2007年07月19日 01:51
わ~これこれ。アウトサイダーと言えば、何年か前に世田谷美術館でやったアウトサイダー展って行きました?デュビュッフェ財団が後ろでやってるやつ。っと、試合終わって放心状態で、書けない(笑)
また今度(笑)。
Posted by: みぽりん | 2007年07月21日 23:03
私も終了2週間前くらいに行ったのですが
行列というほどではないにしろ混雑していてびっくり。
同じくさわやかな若者、カップル達♪
自分はあまり狂気は感じなかったんですよね。
それよりもとてもピュアだと思いました。
拷問シーンなどありますが、絵柄ののせいか
メルヘンになっていますし、
物語もハッピーエンドですから。
ただ純粋すぎることは狂気と同義ですけどね。
「邪悪」ではない、という感じかな。
あと今回はダーガーの部屋の写真とか観れて
興味深かったです♪
Posted by: muraminex | 2007年07月22日 13:56
放心中のところ、どうも(笑)。生き残ったのが何よりの試合でした。>みぽりんさん
世田谷美術館のアウトサイダー展っつーと、93年に「パラレル・ヴィジョン」というタイトルで行われてますね。私が現代美術に興味を抱いたのはここ数年のことなので、内容について詳しいことはちょっとわかりませんけど。
ダーガーについては4年ほど前にワタリウム美術館でもやってますけど、他のアウトサイダーアートの作家も観てみたいです。現美あたりでやってくれないかなあ。
>muraminexさん
こんにちはー。
私も本文で「イノセンス」とか「プリミティブ」とか書きましたけど、それと「ピュア」というのは通じるところがあるのでしょう。要するに、日本語で言えば「純粋無垢」なんですよね。ただ、いわゆる「普通の人」(特に成人)はそれほど「純粋無垢」でいられない(はず)、という一般的な観点からすると、「アウトサイド」に位置している、ということになるのでしょう。
まあ、物語の内容はまだしも、分量的にもちょっとアレですけど(笑)。
>物語もハッピーエンドですから。
>「邪悪」ではない、という感じかな。
そこは、個人的にはすごく良かったな、と思います。なんか、勝手な感想ですけど、ダーガーの孤独な生涯を考えると、その中で彼がふくらましていた「もう一つの世界」の最後に「幸福な楽園」が訪れた、という事実にはホント救われるな、と。
Posted by: murata | 2007年07月22日 19:18
何年か前って、もう14年も経ってたんですね(爆)さっき本棚の白亜紀の層に眠っていた当時の本を掘り出したら、日に焼けてました。
そのころ、ちょうど日本でも「アウトサイダーアート」を発掘できないかって動きがあって、私もとあるグループホームで凄い才能を紹介され、そんなわけで、世田谷美術館での「パラレル・ヴィジョン」のオープニングパーティーでバーバラ・フリーマンというロサンゼルスカウンティミュージアムのお偉いさんとお話しする機会があったんです。
「抗うつ剤使うといい作品が出来ない」って言葉を聞いた時に、このこころみはスレスレだなあと感じ、なんとなく身を引いたのです。でも、すごい展覧会だったわよ。
サッカーと関係ない時にお見せしたいわ。世田谷の時の本と、私が関わってた障害者の絵。
Posted by: みぽりん | 2007年07月23日 15:22
>ちょうど日本でも「アウトサイダーアート」を発掘できないかって動きがあって
最近の日本でも、「ねむの木学園」の生徒さんの絵とか、けっこう凄いのがありますよ。ただ、それに「アウトサイダーアート」というラベルは貼りがたそうですけど(笑)。
>「抗うつ剤使うといい作品が出来ない」って言葉を聞いた時に
うーむ、いかにもだなあ(笑)。
世田谷の図録と障害者の絵、ぜひ見てみたいです。よかったら今度貸してください。
Posted by: murata | 2007年07月27日 01:58
こんにちは。調べものをしていて、こちらにたどり着きました。「地獄のアメリカ観光」って、インパクトのあるタイトルですね。
ところでこの本ご存知ですか。
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=31929097
著者は正規の美術教育を受けているので、アウトサイダーでは全くないのですが、作品自体がアウトサイダーアートを連想させてしまいます。病気の兄のことを描いているのですが、その兄との距離の近さが、そのような連想をさせる一因なのかもしれません。
Posted by: mokoko | 2008年10月09日 23:19
>mokokoさん
こんにちは。コメントありがとうございます。
>「地獄のアメリカ観光」って、インパクトのあるタイトルですね。
そう、そのタイトルの本で初めてあのダーガーの絵と物語と生涯を知ったのですから、そりゃあ忘れがたいってもんんです。
>『大発作 てんかんをめぐる家族の物語』
その本については知りませんでした。フランスの漫画ですか。ネットで検索したら、夏目房之介さんも随分褒めているみたいですね……ちょっと興味を惹かれます……。
Posted by: murata | 2008年10月09日 23:58
もし,すべての人は他の人を助けることができて、それではこの社会はいっそう愛があるようになります!. 障害者が少なくなりました。
Posted by: 障害者 | 2009年08月19日 11:35