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2007年05月08日

●『トゥモロー・ワールド』

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GW中に観た映画。DVDで、アルフォンソ・キュアロン監督『トゥモロー・ワールド』。原因不明の異変により人類の生殖能力が失われ、秩序の崩壊が進む2027年の世界。封鎖されたロンドンで官僚として暮らす元反体制闘士のセオ(クライヴ・オーウェン)は、ある日、昔の恋人ジュリアン(ジュリアン・ムーア)から不法移民の少女の逃亡を助けるよう依頼される。しぶしぶ手助けするセオだが、実はその少女には重大な秘密があった……。


結論から言うと、この映画、大傑作である。

まず、「荒廃しつつある世界」が実によく描けている。「人類で最も若い」18歳の男が死んだことを伝えるTVを見つめる人々の絶望的な表情。進歩した技術が散りばめられているのに、どこか閉塞感に満ちている街並み。スラム化した郊外と移民の収容所。そして独裁体制の下、抗うつ薬と自殺薬を国民に配る政府……なんつーか、70年代的な鬱々としたディストピア観を最新の技術で見事映像化ししている感じ。

この作品の最大の売り物である長回しの多用も「見事」の一言。車内でのセオとジュリアンのじゃれ合いから、突如暴徒の襲撃を受けてジュリアンが射殺され、逃げ切ったと思いきや警察に遭遇してまた追われ、警官を射殺するまでの数分間がワンカット。そしてクライマックスの市街戦、銃弾が飛び交いバタバタ人が倒れる中をセオが走り、さらに少女を探して建物の中を駆け回る8分間もまたカット割りなし。いずれも凄まじい迫力だ。

僕たちの生活において、様々な出来事の多くは「突然に」現れてくるものである。長回しというのは、そうした出来事の「唐突さ」を際だたせてくれる表現法。長回しの途中で「いきなり」何事かが起こるパターンが繰り返されるにつれ、観ている側はいつ何が起こるかわからない緊張感の中に身を置かざるを得なくなる。結果的に映画はこの上ないリアルさを帯びることになるのだ。100分間、本当に目が離せなかったよ。

そして、そんな鬱々としてリアルで緊張感に満ちた中で展開される肝心のストーリーは、「絶望的な状況の中、たった一つ残った希望を人々の努力で守り抜く」という、ありきたりっちゃありきたりだけれどもSF映画の王道とも言えるもの。雰囲気や画の作りといったディテールが優れた映画だけに、これはこれで良かった。ネタばらしすると、「希望」とは18年ぶりに生まれた赤ん坊のことで、物語の後半はその赤ん坊の争奪戦となる。

印象的だったのは、激しい市街戦のさ中、セオが救った赤ん坊の泣き声が響いて戦闘が止まってしまうシーン。敵も味方も水を打ったように静まりかえり、モーセの十戒のように道が開けていって……。この映画で「赤ん坊」という存在が象徴しているのは、人類の「未来」であり「希望」であり、そして「平和」なのである。その希望を、善き人々がバケツリレーのように次々と命を捨てて救っていく物語。僕にとっては極めてツボだった。

絶望の闇が深いからこそ、一筋の希望の光はこの上なくまぶしい。そういう真理が鮮やかに表現されている作品である。素直に感動した。


ところで、Amazonのレビューを見たら、この映画のことを「説明不足」とか「テーマがはっきり見えない」という理由で批判的に評価している人がいるんだね。……ホンマかいな?不妊の原因にせよ世界情勢にせよ、「登場人物たちも全くわからない」という悪夢的状況(とその中であがく人間たち)を描いている映画なんだから、説明がないのは当たり前だろう。テーマについても、最後に字幕で出てくる言葉を見れば一目瞭然。

いや、実際、誰が観ても難解な映画ってのは存在する(例:デイヴィット・リンチの諸作品)から、「わからない」という感想自体はおかしくはない。ただ、「自分がわからない」ことをもって「その映画は駄作」と結論するのはちょっとどうなのよ、と思う。『硫黄島からの手紙』について「全体の戦況が描けていない」と批判していい気になっている石原慎太郎と同レベルだろ、それじゃ。わかりやすい『アルマゲドン』とかならいいのかキミ達は。

まあ、文章下手でくどくどと長い僕のレビューを読んで「わかりにくい」とか批判するのなら「ごもっとも」と言うしかないのだが(笑)。


あと、この『トゥモロー・ワールド』なる、ビデオ屋の隅に並んでいるパチモン映画みたいな響きの邦題をつけたヤツは誰だ、と言いたい。せっかくの傑作が台無しではないか。ちなみに原題は『CHILDREN OF MEN』。なんでそうなるねん……と思ったら、配給は東宝東和だった(笑)。うーむ。

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コメント

この映画、まったくノーマークでした。公開された記憶がぼんやりあるだけでしたが、なるほど、これはおもしろそうですね。スカパーかCSでやったら見てみることにします。教えていただいてありがとうございます。

しかも原作はP.D.ジェイムスの「人類の子供たち」なんですね。邦題、全然違うじゃん(笑)。でも、東宝東和さんがご健在のようで何よりです。全盛期のジャッキー・チェン映画の変なタイトルとか、「サスペリア」とか「バタリアン」(も確かそうですよね)などのホラー映画のオリジナル邦題など、印象深い邦題&キャッチコピーは今も忘れられませんわ~。

>この映画、まったくノーマークでした。
いや、ホント、私もそうだったんですよ。なんか平凡なタイトルなので全然気づきませんでした。何やってんねん東宝東和(笑)。

でも、本文中にも書きましたが、描写も物語もしっかりしているし、テクニック的にすごく凝っていて、とにかく面白かったです。

>全盛期のジャッキー・チェン映画の変なタイトル
「なんちゃらA」とか、「なんちゃらX」とかそういうヤツですね(笑)。

>「サスペリア」とか「バタリアン」
あと「サンゲリア」とか「サランドラ」とかもそうですね。ちなみに、「ランボー」や「ターミネーター」もここの配給。

僕はマークしていて、勇んで劇場に向かったのですが、500人収容の箱に30人くらいしか居なくて拍子抜けでした(笑)日本では受けないのかな。それにしても邦題はひどい。

ちなみにこのレビューを参考にして見に行こうと思ったのですよ。英国在住日本人の見方です。
http://geopoli.exblog.jp/m2006-10-01/#5803591

>それにしても邦題はひどい。
ねえ(笑)。
クズ映画にキャッチーかつテキトーな邦題を付けて人を呼び込むのはかつての東宝東和のお家芸ですが、この作品については傑作を表面上バカ超大作と同じレベルに貶めてしまったという意味で最低ですね。「サイテー」じゃなくて。

でも、確かに、「文明の没落」というものが大きな主題になったり深刻に意識されたりすることのない極東の国日本では、所詮「ただのフィクション」に過ぎないのかもしれないですね、こういうお話は。

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