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2007年03月30日

●『太平洋奇跡の作戦 キスカ』

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これもレンタルビデオ屋の「おもひで映画館」で借りてきた作品。丸山誠治監督『太平洋奇跡の作戦 キスカ』。太平洋戦争で日本が敗勢へ追い込まれつつあった昭和18年7月。アリューシャン列島キスカ島における、日本軍撤収作戦の顛末を描く。隣のアッツ島は玉砕、キスカも圧倒的戦力の米太平洋艦隊に包囲された状況で、日本海軍第5艦隊は果たして守備隊5200名の命を救いうるのか……。

 
「静かな戦争映画だな」というのが第一印象。キスカ島を襲う米軍の猛爆撃や沈没寸前の潜水艦からの脱出など、スペクタクルシーンがないわけではない。しかし、物語の大半を占めるのは、救出作戦に至るまでの人々の試行錯誤や苦悩の有様である。焦りの中で好機を待つ救出艦隊の面々、希望と絶望の間で揺れ動くキスカ島守備隊、救出作戦に疑念と不信を抱いて横槍を入れる軍令部……派手さはないが、緊迫した人間ドラマが続く。

この映画の良いところは、主要人物の振る舞いが「誠実さ」に満ちていること。玉砕を断固否定する艦隊司令官、内地への「最後の手紙」を懸命に集めて回る現地の将校、そして自決を防ぐために負傷兵から手榴弾を取り上げる軍医に至るまで、人間としての誠意がひしひしと伝わってくるのである。中でも、5千人を助けたい一心で死地へ飛び込んでいく国友参謀の姿は非常に感動的だ(演じているのがくせ者・中丸忠雄さんともなればなおさら(笑))。

クライマックスは、ついにキスカ島周辺へ突入した駆逐艦隊が米艦隊の攻撃を避けるために霧の中狭い岩礁地帯を通過していくシーン。円谷特撮も、艦橋における命令の復唱も素晴らしいリアルさで、「うわ危ない!」と声を出したくなるくらいの緊張感。そして、長い長い霧中航行の末、あきらめムードで撤収を始めた現地部隊の前に艦隊が姿を現す場面のカタルシスといったら……日本の戦争映画でこういうのは本当に珍しい。

印象的なのは1回目の救出作戦断念シーン。数日かかってようやく艦隊がキスカ湾寸前までたどり着いたところで霧が晴れ、強行突入を主張する参謀たちを前に大村司令(三船敏郎)は呟く。「帰ろう……帰れば、また来られる」。果敢をもって是とする軍人らしからぬ言葉。結果的にこの決断は正しく、2回目の作戦は米艦隊の誤射などの幸運も重なって成功を収めるのだ。命知らずに前へ出るだけではなく、時には退くのも本当の勇気。そんな教訓的場面だった。


ちなみに、この作品に出てくるエピソードのほとんどは実話である。太平洋各島での玉砕をはじめとかく悲惨な逸話の多い太平洋戦争だけに、キスカ救出は一服の清涼剤のような扱いになるのだろう。劇場公開時にはこの「ハッピーエンド」に対して拍手も起こったそうな。そして、大村司令のモデル・木村昌福中将はかのミッドウェイ海戦で最後まで戦場に残って救助を行い、レイテ島などへの決死の突入も成功させた名提督。偉い人がいたもんだ……。

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