●『LOFT』
DVDで、黒沢清監督『LOFT』を観た。黒沢監督3年ぶり(ホラーとしては『回路』以来か)の新作。昨年の秋から冬にかけてテアトル新宿で上映していたのだが、ちょうど仕事が忙しい時期だったのと、知り合いからどうも良い評判を聞かなかったのでつい見逃してしまっていたのだ。早くもDVDレンタルが始まったと聞いたので、リハビリ代わりにTSUTAYAで借りてみた。
前半部分は、黒沢監督持ち前のテクニックと怪奇趣味が炸裂し、まったくもって申し分ない出来。暗い色調の画面に漂う不吉感、思わせぶりな数々の伏線、そして物語の鍵を握る幽霊(安達祐実)の人知を越えた不気味さ。廃墟、半透明のビニール、黒い服、無機質なオフィス、止まらない歯車といった黒沢的モチーフも盛りだくさん。観ていて緊張が全く途切れず、大傑作の予感さえした1時間であった。
ところが。物語が佳境に差しかかって、吉岡(豊川悦司)の回想あたりから調子がおかしくなる。唐突で強引すぎる展開が続き、抑制的だった役者陣の演技も過剰な(わざとらしい?)ものに。やたらと叫び、悩み、抱きつく……。礼子(中谷美紀)と吉岡が親密になっていくプロセスも、礼子が急に事件の解明に見せる執念も「?」な感じ。問題のミイラが案の定歩き出した場面にしても、なんだか安っぽくてドリフのコントみたいだし。
とにかく、後半部分はひと言で言えば「ヘンテコな映画」になってしまった印象なのであった。もしかしたら意識的に「静から動へ」みたいな構成にしたのかもしれないけれど、正直「せっかくいい雰囲気だった前半が台無しではないか」と思ってしまった。もうちょい幻想的な、虚実入り交じる感じにしても良かったのに……。吉岡の「僕は混乱していた」みたいな台詞があったけど、混乱するのは観客の方だろ、これ。
だが、この映画の本当のキモはラストシーンにある。結末のもの凄さは、作品全体の混迷を吹き飛ばして余りあるものであった。まさか、最後の最後にあんなスーパーギャグが飛び出すなんて。いや、状況的にはむしろ深刻極まる(何しろ「○体の浮上」である)のだけど、あまりの突き抜けぶりに思わず笑ってしまった。『恐怖奇形人間』の「おかーさーん!」(笑)と同じパターンである。それまでのヘンテコぶりもこのための布石だとしたら、黒沢監督の確信犯ぶりも相当なものだ。つーか、やり過ぎやでアンタ、みたいな。
繰り返しになるが、物語の構成のまずさや演出の不整合が感じられる映画であり、率直に言って誰にでもお勧めできる傑作とは言いがたい。ただ、恐怖とヘンテコさやマヌケさの同居を「それはそれ」と割り切ってしまえば、場面場面のシャープな演出を楽しめることは請け合いだ。個人的には、安達祐実について「こういう使い方があるのか」と感心したのと、やはり結末があまりに素晴らしすぎるために非常に満足である。
ラストショット。豊川悦司のマヌケな最期(?)を前に、池から浮上した死体と共に途方に暮れる中谷美紀の姿(←ネタバレのため、色変え)を目にして、おそらく劇場の観客の多くも途方に暮れたことだろう。いや、これはロードショーで観るべきだったかもしれない。そして、周りのお客さんの困った顔を観察する、と。ちょっと後悔した(笑)。
コメント
アレで大満足出来るとは、超模範的(?)ファンですね(笑
私の顔はさぞ見物だったと思いますよホントに(笑
Posted by: へづか | 2007年02月21日 22:13
いや、だから「率直に言って誰にでもお勧めできる傑作とは言いがたい」んですって(笑)。
まあ、普通に考えて商業映画としては×なんですが、それでも喜んでしまうのがファンの性というかナンというか。
ただ、あまりやりすぎて黒沢監督が映画を撮れなくなってしまうのが一番怖いので、『叫』はまともな映画である(そしてそこそこヒットしてくれる)事を祈りたいです(笑)。
Posted by: murata | 2007年02月22日 00:47