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2007年02月08日

●哀しき秘密兵器、その名は「風船爆弾」


先日、都内某所にて、「風船爆弾」に関する資料を見る機会があった。

風船爆弾とは、太平洋戦争中に陸軍が劣勢の戦局を挽回すべく開発した秘密兵器(?)で、その名の通り風船の下に爆弾をぶら下げて太平洋側に飛ばし、偏西風にのった爆弾が2~3日かけてアメリカ本土を直撃する、というものだ。Wikipediaによる解説はコチラ。たかが一兵器にしては知名度が高くエピソードも多いのは、やはり「風船兵器」という特異性ゆえだろう。

今回僕が見たのは設計図や開発ノートなど一式。目の細かい方眼紙に手書きできっちりびっちりと書き込んであるのが、いかにも当時のものらしい感じである。なんでも、開発に携わった技術者が自宅に持ち帰ってしまっていたものだという。機密資料であったことを意識したのか、その方は家族にもこの資料の事は一切話さず、亡くなって初めて存在が判明したとか。

こういうパターンの掘り出し物はけっこう多い。江戸東京博物館あたりにも「亡くなった爺様の部屋から出てきました」という戦前戦中のモノがひっきりなしに持ち込まれているそうな。ただ、風船爆弾に関する資料については戦後GHQが接収して本国に持ち帰ってしまったため、国内でまとまった資料はおそらくこれが唯一だろう、というのだからその希少さはまた格別である。


設計図の寸法を見ると風船は直径1m足らずのもので、材質はなんと和紙。それをコンニャクの糊で貼り合わせたというのだから、いかにも当時の日本製らしいチープさだ。動員された女学生が手作業で作っていたとか。コンニャクねえ……Wikipediaの解説によれば、この糊の材質だけは最後までアメリカ軍もつきとめられなかったそうな(そりゃそうだ)。 「当時、おでんのネタからコンニャクが姿を消した」というのはネタか、それとも本当の話か(笑)?

兵器としての有効性については、正直首を傾げてしまうところではある。誘導できず、目標に当たるかどうかは文字通り風任せ。確率はとてつもなく低い。まあ、「数打ちゃ当たる」というコンセプトなんだろうが、だからこそ数を揃えなければならないともいえ、結局起死回生を呼ぶにしては余りにも効率が悪い兵器だったのだろう。大規模な放流(!)はたった1回しか行われなかった。約9千発のうち、推定3百発が米本土に到達。

その3百発でアメリカに生じた被害は、6名の死亡とプルトニウム製造施設の送電線破損だとか。後者については「原爆の製造を遅らせた」という説と「そのため原爆投下が急がれた」という説の両方があるらしい。一方、日本側でも製造中の事故で6名が死亡し、工場の一つだった浅草国際劇場は東京大空襲の際に直撃弾を受けて多数の死者が出た。また、成功の暁には人を乗せる計画もあったとか(つまり特攻兵器か)。


多数の風船が海岸から放たれ、東の水平線へ向かってゆらゆらと飛んでいく。その光景は想像するとユーモラスなものに思えなくもない。また、資源も技術も限られている中で当時の日本人が知恵と人力を結集して事態を打開しようとしたゆえの「努力の結晶」ではあるのだろう。だが、その目的はやはり破壊と殺戮であって(戦争なんだから当たり前だが)、実際にこの風船のせいで人の命が奪われたのもまた事実なのである。

また、風船爆弾があげた戦果は、結局太平洋戦争の帰趨を左右するにはほど遠いものでもあった。聞くところによると、当時学童疎開先で「皆さん、風船爆弾という凄い兵器ができたそうです。これで日本は戦争に勝ちますよ!!」と話していた教師もいたという。ナチスドイツのV1/V2ロケットといい、やはり負け戦だからこそ「一発逆転」の飛び道具に頼りたくもなるのだろうか。なんだかなあ……。

一見喜劇的、あるいは人間的なイメージながら、しかしやはり哀しい結果となった「人類史上初の大陸間攻撃兵器」……色々と考えさせられてしまった。

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コメント

突然すみません。うちの母(73歳)は女学生の頃風船爆弾を作ったそうです。のり(こんにゃくが原料とは知らなかったが)で和紙を貼ったという話を聞いたことがあります。

コメントありがとうございます。>たまぴーさん

風船爆弾の製造が60年ちょい前になりますから、お母様は今で言うところの中学生になりたてくらいの年齢で工場にかり出されていたんですね。さぞかし、大変だったと思います。

本当に、普通の人が手で作ってたんだなあ……。

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