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2007年01月27日

●祝!?国立新美術館開館


先日、六本木の旧防衛庁跡地に開館したての国立新美術館に行ってみた。工事の途中で一度内部は見学させてもらったし、開館前のお披露目でも一通り中は拝見したのだが、実際に展覧会の行われている様子を見るのは初めてである。


まあ何百億円もかけたのだから当たり前と言えば当たり前かもしれないが、黒川紀章設計の建物に内部の施設設備、そしてロビーに置かれているソファー等の什器に至るまで、どれも豪華でスタイリッシュであった。微妙にクッションの効いたフローリング風タイル床も足が疲れなくて良し。3階まで吹き抜けのロビーは全面ガラス張りで確かに明るいけど、夏の冷房代は異常にかかりそう(余計なお世話……じゃないよな、税金だから)。

平日の午後にも関わらず、館内はかなりの混雑。普通平日の美術館、それも現代美術系の展覧会が行われているとなれば、大抵は美大生っぽい若者が多くなるものだが、この日は「六本木ヒルズ系」とでも呼びたくなる若いカップルやおばちゃんのグループの姿も多く見られた。マスコミ等でもかなり取り上げられているせいだろうか。もっとも、混み合っている割にはチケット売場は閑散としていたから大半は招待券なのだろう。

 

この日観覧した展覧会は2つ。

まずは開館記念展「20世紀美術探検」。20世紀の美術の流れを年代順に追っていく第1部及び第2部、そして現在の注目すべき作家たちについてグループ展の形をとった第3部、という構成は東京都現代美術館の常設展に近いものがある(実際、現美の収蔵作品が多く展示されていた)のだが、展示フロアの広大さ、展示作品点数の膨大さは桁違い。良くも悪くもさすがは国立、という感じの展覧会だった。

セザンヌに始まってピカソやリキテンスタインらの平面画が並ぶ第1部序盤はやや退屈で、正直「なんだ、こんなものか」という印象であった。だが、真っ青なイブ・クラインのレリーフを皮切りに立体作品が並ぶ第2章あたりから、「ヘンテコなもの」が増えて楽しくなっていく。現代美術に馴染みのなさそうな周りのお客さんも次第にアッパーになり、「えー、なにこれー」とか言って驚きながらウケている様子だった。

そして、マルセル・デュシャンやバウハウス、ウェッセルマンにウォーホルにジャスパー・ジョーンズらが怒濤のごとく押し寄せる第2部。圧倒された。つーか、あまりの物量に思わず笑ってしまった。だって、デュシャンだけで18点も並んでるんだもの。個展でもないのに。数百点もの現代美術作品は、それ全体として一つの現代美術であるようにさえ感じられた。いやー、日本でこんなの、他では絶対見られないでしょ。

個人的に気に入った作品は……デュシャンの一連の「レディメイド」、榎倉康二の空中に停止しているナイフの写真、田中信太郎のふざけた自動演奏ピアノ、あと工業用プレスで潰された無数の銀食器が宙に浮かんでいるコーネリアス・パーカーの作品あたりかな。セザールの『TOKYO圧縮』という、自動車1台を長方形にギュッと潰した作品を見たおばちゃんたちが「ありゃー!」と素っ頓狂な声を上げていたのは笑えた。


もう一つの展覧会は、文化庁メディア芸術祭10周年企画展「日本の表現力」。こちらは日本におけるマンガやアニメ、ゲーム、メディア・アートなどの歴史を概観したもので、これもまた展示数が凄まじい。マンガやアニメにそれなりの興味を持った人なら誰でも、とりあえず足を運んで損のない展覧会だろう。体験型の作品もかなりあるのでデートにもお薦め(笑)。つーか、これ、本当に無料でいいのかね?

個人的には、ナム・ジュン・パイク『ジョン・ケージに捧ぐ』や松本俊夫『メタスタシス』、岩井俊雄『映像装置としてのピアノ』、八谷和彦『視聴覚交換マシン』といったアート作品がゴジラやアトム、ガンダム、ドラクエといったものと全く同列に並んでいることが愉快だった。もちろん、この手の展覧会では超定番の岩井俊雄『時間層Ⅱ』もあった(これは何度見てもいい)。


さて。そんな感じで展覧会自体はけっこう楽しめたのだけれど、じゃあこれで国立新美術館が順調なスタートを切ったことになるかというと……いささか首を捻らざるを得ない。確かに、知名度を上げる、あるいはこれまで美術館に足を運んだことのない人を呼ぶ、という意味においては現在のマスコミへの露出や館内の賑わいは良い状況なのだろう。

しかし、本来この美術館は日展や二科展といった公募展のために作られた施設であり、4月からは展示室の大半を公募展が占めることになる。企画展も、モネやフェルメールといった「いかにも日本のオジサンオバサンが好きそうな」ものが続くようだ。つまり、上野の東京都美術館とほぼ同様の特徴を持つ施設となるはずなのだ(規模や施設の充実度は比べるべくもないが)。

そうなった時、果たして六本木という街と美術館のカラーがマッチするのか。今回の現代美術寄りのオープニング展と、今後の展覧会は内容的に整合した流れを保てるのか。今は施設の新しさに吸引されているマスコミや観客は、今後もこの美術館に対する関心(あるいは好意)を維持してくれるのか。なかなかに難しいところだと思う。まあ、とにかく、頑張っていただきたい。


ちなみにこの施設、英語名は「THE NATIONAL ART CENTER TOKYO」となっている。つまり、「MUSEUM」という名詞が使われていないのだ。これは、収蔵品を持たない施設は「美術館」と呼ばないのが国際的な常識だからである(つまり東京都美術館も本当は「美術館」ではない)。それでも「国立新美術館」という名称が通用するのは、日本人の多くがギャラリーとミュージアムの機能的な違いについて認識していないから。うーむ……。

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コメント

>収蔵品を持たない施設は「美術館」と呼ばないのが国際的な常識だからである

そのような施設をギャラリーと呼ぶとしてそれに対応する日本語(または漢語)はあるのか?「国立新ギャラリー」となる?

ないですねえ。展示のみのいわゆる「美術館」という施設にピタリ対応する言葉が。だから、現状「ミュージアム」も「ギャラリー(の大きなやつ)」も一緒くたに「美術館」と呼んでいる、というところでしょうか。機能的に異なるものだから、呼び名を変えるなりで区別しないとまずいんですけどね……。

本当なら、数年前に東京都美術館が収蔵品を持たない展示のみの施設となった際、そういう工夫をしなきゃいけなかったはずなんですけどね。まあ、東京都美術館の場合は元々は収蔵品を持っていたので、ある意味仕方がないとは思うのですが。

>収蔵品を持たない施設は「美術館」と呼ばない
知りませんでした^^。美大出なのに。オープンしたのも知らなかった。駅隣なのに。視野が狭く、こもりがちになるのがよろしくない、と思い職変えをしたのに、すっかり世の中に疎くなってます。murataさんのここが大きな情報源です(笑)。
インターナショナル・クライン・ブルーは学生時代その名前の顔料を買って塗ったものの、同じ色にならず、納得がいかないまま処置に困ったのを思い出します。レディ・メイドといえば「泉」。その昔、デザイナーだった頃、INAXの新便器のロゴタイプのプレゼンで、その写真を使いました。芸術に対する冒涜のそのまた冒涜です(笑)。八谷和彦さんはガンダムだと思います。むしろガンダムに失礼?黒川紀章さんはサンクトペテルブルクのサッカースタジアムのコンペ取りましたよね。以外とオーソドックスな形だったのでちょっと残念だったのですが。一応サッカーネタで閉める(笑)。

どもです。>みぽりんさん

いや、実は「ミュージアム」の定義については某美術館の学芸課長さんから聞いた受け売りなんです。本当は私もそれほどよくわかっているわけではない(笑)。

>インターナショナル・クライン・ブルー
私は「きれいな青」という印象しなかいんですけど、青は好きな色なので結局クラインブルーも好きですね。少なくとも、赤の100倍は好き。

>八谷和彦さんはガンダム
ああ、上野の森美術館でやってた「ガンダム展」に『サイコ・コミュニケータ・システム』を出展してましたね。八谷さんはポストペットを開発したり『風の谷のナウシカ』のメーヴェや『ガンダム』のサイコミュを本当に作ろうとしていたり、何だか「私たち寄り」に思えるので好きです。
そういや、去年写美で行われた文化庁メディア芸術祭の時、ご本人が来館して『サイコ・コミュニケータ・システム』の実演をしてました。ニュータイプなんでしょうか(笑)。

と、ガンダムネタでしめたりして。

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