« 悲しい気持ち (東すか19号&FC東京×アルビレックス新潟) | メイン | より速く!より正確に!! (日本×ガーナ) »

2006年10月03日

●「普通」たることの立派さよ

日曜日、ヨーロッパの2つのビッグレースにおける日本人(馬?)の活躍は、いずれも感慨深いものだった。


まずは、自転車ロードレースのチューリッヒ選手権。JSPORTSの中継が始まった時、実況がやたら興奮しているからどうしたのかと思ったら、何と別府史之(ディスカバリー・チャンネル)が他チームの選手と2人で先頭を逃げていたのだ。最近はJSPORTSがスタートから中継してくれることもあるおかげで、観戦歴の短い僕でも、格の高いレースにおいて逃げることがいかに運と体力を必要とする難しいことかは理解できる。なるほど、これは快挙だ。

驚いたのは、日本チャンピオンジャージをまとった別府が実に堂々と、かつ坦々と走っているように見えたことである。表情も変えず、ひたすら力強い先頭交代を繰り返していく。一時は20分近くあった差が数十秒に詰まって追走集団が迫る場面では、一杯になったもう1人を置き去りにして、さらに逃げるような動きまで見せた。最終的にはラスト1周を前にしてつかまってしまったが、大いにアピールできたことで本人も満足感を得たことだろう。

 
もう一つは、もちろん、日本でも大きな話題になっていた競馬の凱旋門賞だ。日本馬初の優勝が期待されていたディープインパクトは、一旦は先頭に立ったものの、ゴール前で後続馬に差されて3着。道中の走りに力みが見られたことや、4角出口からのスパートが早仕掛け気味になったこと、芝やスローペースへの不適応、ぶっつけ本番のローテーションなど敗因はいくつも考えられるが、いずれにせよ期待が大きかっただけに悔しい敗戦であった。

とはいえ、武豊とディープインパクトはやはり魅力的だった。ライバルと目されていたハリケーンランやシロッコと体をぶつけ合うようにして進み、勝負所で並んで動いて有力両馬を見事潰してみせた。日本の三冠馬らしい、堂々たる競馬だった。結果的に積極策が裏目に出た形にはなったけれども、その時ディープが持っていた力(そもそも100%の出来ではなかったのだろう)は出せたと思うし、人気を背負って勝ちに行った武は責められないだろう。


今回は期待値と結果の差で明暗分かれる形になってしまったけれども、別府にしろ、武&ディープにしろ、彼らが海外の地において「全く同じ土俵で」彼の地のトップアスリートたちと勝負を繰り広げている、という事実そのものが非常に嬉しい。単にグレードの高いレースに出場できただけではない。その頂点の場において彼らは「普通に」自分の役割を果たし、「普通に」優勝を狙いに行った。何を今さら、かもしれないが、これはすごい事だと思う。

例えば、サッカーにおいて、国内で実績を残した選手が欧州リーグに挑戦することは最近では珍しいことではない。ただ、その中で現地のコンペティションに「普通に」参加することができている選手がどれだけいるかというと……俊輔、松井……案外少ないものだ。大黒、柳沢、稲本といったメンツを思い浮かべるだけでも、(現時点で)うまくいっていない例が多いことがわかる。彼らなりの魅力を知っている僕たちとしては、全く残念なことだけれども。

プロスポーツ選手とは、試合に出場し、その技術と体力と知力を披露するところに存在意義がある。次につなげるという意味においても、「普通に」戦える姿を高いレベルの場で披露する意義は大きい。別府は、日本人選手の持つ可能性を欧州自転車界にアピールした。今回の凱旋門賞を見てディープインパクトを「弱かった」と思うフランス人はいないだろう。彼らは、自身のためにも、彼らに続く者のためにも「レギュラー」としての道を切り開き続けているのだ。

そして、「同じ土俵で」「普通に」戦えているからこそ、欲も出るし、負ければいっそう悔しくもある。それは、本人たちにとってはもちろん、応援している僕たちにとっても同じである。僕は、別府の大健闘に拍手すると同時に、彼が後続に吸収されるシーンでは「いつか、最後まで逃げ切る姿が見たい」と思った。また、ディープが直線先頭に躍り上がった瞬間に胸を熱くしながらも、残り100mで力尽きた姿に言葉を失い、レース後には呆然としてしまった。

願わくは、いつか別府史之がグランツールのステージなり、プロツアーのクラシックレースなりを逃げ切る日が来たらんことを。また、武豊とディープインパクトの欧州の大レース制覇が実現せんことを。彼らの後継者でもいい。いや、こんなことは、僕がスポーツなるものを本気になって観だした20年前には、想像することすらできなかった。あの頃は、欧州の大レースなんて「高嶺の花」だったから……。まったく、どえらい時代になったものだと思う。


もう一つ。特筆すべきなのは、チューリッヒ選手権にしろ凱旋門賞にしろ、日本においてレース映像をリアルタイムで見ることができた事実だろう。これもまた、20年前にはとても考えられなかった状況だ。海外において日本人アスリートがトップクラスの試合で「普通に」活躍する姿を僕たちはお茶の間で「普通に」観戦し、直接は届かないにせよ彼らに声援を送ることができる。つくづく、まったくどえらい時代になったものである。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2110

コメント

いつも楽しく拝見させて頂いております。

CSだとグランツールやクラッシックもやってますが、地上波では全然やってないんですよね。無料で見られるのはせいぜいBSでの世界選手権くらいかなぁ(それでもNHKなので無料ではないですが)。
私が自転車レースにはまって、その後自転車屋に勤めるまでになったのはグレッグ・レモンを経てインデュラインの5連覇を見てからでした。
その頃はNHKとかCXでも総集編をやってたんですよねー。
特にCXのは好みが分かれると思いますが、私はすっごい好きでした。

長文スイマセン。
名古屋戦は勝つぞ!

あ、言いたいこと言ってなかった。
地上波でグランツールぐらいやれや!
あとできればパリ-ルーべも見たいなぁ。
CS入ってないんで一度も見たことないんですよ。

どうも。

そういえば、昔CXでツール・ド・フランスやってましたね。私はF1が好きだったので、F1放送のさらに後にやってるツールまではさすがに手が回らなかったですが。

私はインデュラインとか、レモンとか、昔の人は本当に文字でしか知らないんですよね。今年ジロを勝ったバッソなんかはインデュラインを彷彿とさせる走りだったらしいですが…。

>あとできればパリ-ルーべも見たいなぁ。
ツール・ド・フランドルとパリ~ルーベの連戦は、今年からJSPORTSで生中継してくれるようになったんですけど、どっちもすごいレースでしたよ。石畳があれほどドラマティックな効果をもたらすとは…。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)