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2006年09月05日

●『グラン・ブルー』

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DVDで、リュック・ベッソン監督『グラン・ブルー』。美しい海を舞台として、スキューバの道具を一切使わないフリーダイビングに人生を賭ける繊細な青年と、彼に惹かれる都会育ちの女性、そして青年の生涯のライバルが繰り広げる恋と友情を描く実話ドラマ(Amazonの紹介文より)。ご存じベッソンの出世作だが、見終わって「微妙だ……」というのが正直な感想であった。

まず、登場人物の造型はとても魅力的。父の溺死というトラウマを心に抱えながら、海とイルカをこよなく愛する神秘的な主人公ジャック。彼と恋に落ちるジョアンナは健気でかわいらしく、親友でライバルのエンゾは豪放で自信家で男気たっぷり。個性豊かな彼らが、笑ったり泣いたり熱くなったり悩んだりを繰り返す様にはハラハラさせられたし、それだけに悲しい結末が印象的でもある。

加えて、無限に広がる青い海のビジュアル。そして可愛くも賢いイルカたちの姿。現実の自然に触れるのが苦手な僕でも、この映画で描かれる海にはかなり惹かれるものがあった。まあ、確かに、あの青色の中ならばいつまでもいつまでも潜っていたいと思っても不思議ではなく、地上における生活よりも「海へ還っていく」ことを選択するラスト(だよね?)も納得できないことはないよな、うん。

ただし、映画としての完成度はちょっとどうなんだろう、と思った。ジョアンナとの恋とエンゾとの戦いと海の魔力、つまり「ロマンス」と「男の友情」と「神秘」の3つ全てを描こうとして、どれも中途半端になってるかな、と。恋と友情、あるいは愛と競技の両立不可能性、みたいな部分をきちんと描いた方が良かったのではないかな?最後は神秘的にすぎて、単にジャックがちょっとアレな人みたいになってるし。

あと、上映時間167分というのはちと長すぎるように感じた。それだけの間画面を見続けるのが苦痛というだけでなく、筋立ても個々のシーンも全体的に間延びしているように感じられるのだ。ベッソン流の漫画的な描写は短時間に押し込められているから心地よいのであって、延々続くとちょっと、ね。ま、軽快な最初の100分余りと深刻な最後の1時間は別パートと考えればよいのかもしれないが……。

ちなみに、主人公のモデルは5年前に他界したジャック・マイヨール氏で、ジャン・レノ演ずるエンゾもやはり同名の人物が実在するそうだが、そのエンゾ氏、映画での(特に彼の母親の)描かれ方が不満とのことで、訴訟まで起こしたとか。けっこう好意的に描いてあるようにも見えるんだけどね。「人を描く」という行為の難しさを再確認するエピソードである。特に、視覚的なものは、後で言い訳が効かないからね。

コメント

続けてのレス失礼致します。
というのも、僕はシンドロームと言われるほど、この映画に影響を受けた年代であり、かくゆう僕自身も映画館では飽き足らず、レーザーディスクを買って何べんも見た聖典のような存在・・・。イルカものという点では、職業柄?はずせなかったですねえ。

でも大事なのは、この映画がウケた当時が、日本はバルブ絶頂の頃=モノ至上でありながら、次は“心”だよね、みたいな動きの中にはまったものという点なのではないかと。僕自身も今見ると結論ありきで後半は無茶かなと思いますし、女性から見ると、当時であっても「男の人ってそうなんだよね」の一言でしたよw

続作と言われた“アトランティス”も見ましたが、これはちと特殊なものかと。でも「WATARIDORI 」もしっかり初日に並んで見たんで、きっと僕はこの手は結構好きなんだろうなと。それを思うと以上のコメントは、まーず信用できない話になっちゃうんですけどね。


なるほど、そういう年代的なムーヴメントみたいなものはあるんでしょうね。そこは、やはりバブル崩壊後に青春時代を迎えた私あたりとはやや立ち位置のズレがあるかもしれません。

>今見ると結論ありきで後半は無茶かな
そうなんですよ。
映画のほとんどを通じて現世的な魅力を発し続けていた(そして実はジャックとジョアンナの恋を担保もしていた)エンゾの死を境に、話が神秘的な方向へ傾きすぎるのに妙な違和感を感じちゃって。
別に映画にバランスなんぞ求めているわけでもないので、その違和感はおそらく快感と紙一重だと思うんですけども。

>「男の人ってそうなんだよね」の一言
ラストシーンの青い海を、緑のピッチの広がるスタジアムに置き換えてみれば、非常に身につまされる話ではありますな(笑)。