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2006年09月15日

●『時をかける少女』

先日、シネセゾン渋谷で細田守監督『時をかける少女』を観た。ご存じ筒井康隆師匠の傑作ジュヴナイル(って言い方は最近しないのかな?)を大幅にデフォルメの上、初めて劇場アニメーション化した作品。

この作品、ネット上で多くの人に絶賛されているのは周知の通り。のみならず、知り合いの34歳のおっさん39歳のおっさん、はては30代初めのおねえさんまでが涙腺決壊状態と聞けば、これは観ないわけにはいかない、と思ったのである。 


で、いきなり結論を書くと……やっぱりうるうるっと来てしまいますたよ、32歳のおっさんも。

いや、主人公・真琴の「ドジで元気な女の子」ぶりとか、彼女と男子2人のありがちな親友ぶり(微妙な三角関係)とか、その手の描写は苦手な部類に入るのだ。「寝坊して遅刻寸前」のシーンなんて「TV版エヴァの最終回じゃあるまいし」と思ったし。だから、映画の途中までは、正直なところ、我慢しながら画面を横目で見る感じだった。

だけど、タイム・リープ能力を身に付けた真琴が千昭に思いを打ち明けられ、狼狽してそれを「なかったこと」にしちゃうドタバタあたりからグッと話にのめり込んでしまって……タイム・リープの繰り返しの末に取り返しのつかない悲劇が起こって、真琴が屋上で後悔の涙をこぼすシーンでは、思わずこちらももらい泣きしてしまいそうになった。

そもそも「タイム・トラベルもの」というのは経験上、飛び抜けて感動的な作品になることが多いような気がする。その理由は、無数の「あったかもしれない別の過去や現在」を目の前に提示されることにより、僕たちが自分の選び取った過去や現在のかけがえのなさを思い知る(あるいは、選ばなかったことについて後悔を覚える)からだろう。

加えてこの作品は、「高校3年の夏」という、進路や恋愛について多くの人が悩み、ある道を選択し、多くの場合後になって後悔交じりに振り返る時期の物語となっている。少なくとも高校時代を「青春」として記憶している人間ならば、これに胸を熱くしないで何に感動するのよアータ、という。決して帰ってこないあの夏。入道雲の流れる青い空。

キーワードは「若さ」と「後悔」。若い頃というのは、短慮で視野が狭くて勢いだけはあって、自分がその時々何らかの選択をしている事すら意識しないのが普通だろう。それこそ、映画前半の真琴のように。で、後悔は何年も後になって現れる、と。だけど、真琴はタイム・リープの能力で何度も何度も現在を「やり直す」(そしてその度に「別の現在」が現れる)ことで、かえって「今、この現在」の大切さ、「人は2つの現実を選び取る事はできない」という端的な事実に気づいてしまうのだ。

ゆえにこれは、特に僕らのような、「選択の重み」については思い知りつつも、しかし未だ「諦めきれない」世代の人間にとってこそ、身につまされるというか、切なくなる物語なのかもしれない。真琴がこぼす大粒の涙は、僕たちがどこかで流した(あるいは今流している)涙でもあるのだと思う。「大切な話を、もっと、ちゃんと、聞いてあげればよかった……」。

告白しよう。エンディング・テーマ(これがまた泣けるメロディなんだ)の流れる間ずっと、周りに気取られぬよう、さりげなく(のつもりで)目元の涙をぬぐっていたことを。いい年して、と自分でも思うがこれは仕方がない。別に自分の今が嫌なわけじゃない。むしろ逆なんだけど、でもだからといって、失われた「あり得たかもしれない現実」を思うと胸が痛くなるのである。


ま、しみじみとしたことを長々書いてしまったけれど、この映画、作画や演出もなかなかのものではあった。貞本義行さんのキャラは元々好みだが、その人物たちの生き生きとした躍動感がまたお見事。後半部分の(特に踏切事故以降の)ドライヴ感にもヤラれた。原作のモチーフが生かされているのも素晴らしい。細田監督グッジョブ!ということかな?

いずれにせよ、未見の人、特に20代も後半を過ぎて以降の人には是非ともお薦めしたい映画である。泣けるよー。泣いちゃうよー。

個人的には、劇中で最も報われない「早川さん」のかわいそうな健気さにも涙を捧げたいね。

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コメント

時かけいいっすよね~。
まさにTime waits for no oneというか
あの頃は考えてもいなかった
大切で戻れない時間だったことを
かみしめる映画でした。後悔なんてもう
星の数ほど…w

あれはハッピーエンドなのかどうか
わからないけれど、なんてことない
日々をいかに自分なりに精一杯
過ごすことって大切なんだなあって
改めて思いましたね。

…個人的には、いじめられていた
風間くんのフォローが何もなかった
ことのほうが気になりますw

泣けますよね。

失われた時(機会)は取り戻せないということは、当たり前だし普段意識しないけど、人にとって根本的にやるせない事実ですものね。

>あれはハッピーエンドなのかどうかわからないけれど、
あれは、確かにハッピーなのかどうかは微妙ですけど、「何かを選択する(何かを断念する)ことで人は大人になる」という意味なんでしょうね。

個人的には、甘酸っぱくて素敵な終わり方だったと思います。

はじめまして。 まだ見てないが、そんなに評判がいいのなら、ちょっと見てみようと思います。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E7%94%B0%E5%AE%88
「時かけ」の評判と、某巨匠の息子の映画の評判を思うと、ジ●リはいい後継者を失ってしまいましたなぁw

>某巨匠の息子の映画の評判
「ゲド戦記」は未見なので何とも言えないですが、息子って……ねえ(笑)。伝統芸能ばりに排他的な世界なんですかね、ジブリって。

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