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2006年09月21日

●『潜水艦イ-57降伏せず』

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DVDで、松林宗恵監督『潜水艦イ-57降伏せず』観る。沖縄陥落で絶望的に戦局が悪化した太平洋戦争末期。和平工作のために某国の外交官父娘をカナリー諸島へ送り届ける秘密任務を帯びた、帝国海軍潜水艦「イ-57」の苦闘の日々を描く。


戦争末期の秘密任務を帯びた潜水艦と、そこに乗り込むことになった外国人2人(うち1人は若い女性)という設定からして、この映画が『ローレライ』に与えた影響は明白だ(あっちの潜水艦は「伊507」)。ただし、映画としての完成度はこちらの方が明らかに上であり、特に「戦争映画」としてのリアリティは比べものにならない。製作は1959年代で、出演者・スタッフは全て戦争体験者……。

なにせ、いきなり冒頭が特殊潜行艇の特攻シーンである。かなり悲壮な場面のはずが決して大げさにならず、坦々と描かれているのがかえってリアル。和平論を説く参謀に対して主戦論の軍人が「死んでください!」と拳銃を差し出したすところとか、艦を守るために若い兵たちが次々と(喜んで、ではない)命を捨てていくあたりも、やはり今のメンタリティーとはかけ離れた「いかにも」な感じ。

特筆したいのは、主役格の池部良。心情と任務との狭間で悩みつつ最後まで軍人としての本分と人としての優しさをともに貫き通す、沈着な艦長を見事演じきっている。外交官親子と会話するシーンの微妙な目のそらし方や表情の作り方なんて、一世一代の名演だと思う。とても後に『妖星ゴラス』で怪しい科学者を演じたり、『直撃地獄拳 大逆転』で腹黒い黒幕を演じる人とは思えない(笑)。

他の出演者も三橋達也とか土屋嘉男とか平田昭彦とか藤田進とか、東宝を中心とするいわゆる「特撮もの」によく出てくるような役者さんが多く、さらに特技監督は円谷英二。『ゴジラ』や『ウルトラ』シリーズでお馴染みの人々がこういう非SFのハードストーリーを作っていたということ(逆に言えば、子供たちのヒーローでもあった彼らが戦争体験者である事実)は、思えば感慨深いことである。


ストーリー的には、潜水艦内での「2つの葛藤」を軸に物語が進んでいく。1つは、「人道」や「平和」の価値を訴え続ける外交官親子と、軍人としての使命感に燃える乗組員たちの価値観の相違。もう1つは、「和平のため」という任務の目的と、「最後まで戦う」乗組員たちの決意の大いなる矛盾である。全体的に派手な戦闘場面が意外と少ない代わりに、これらの葛藤はしつこいくらいに描かれる。

で、ここが肝要なのだが、映画のラストに至ってもなお、それらの葛藤はとうとう解消されずじまいなのだ。もちろん、お約束として、最初は軍人を毛嫌いしていた娘が乗組員の熱意に打たれて心を開いたり、任務に不服だった乗組員が「艦長のため」一丸となっていく過程、主戦論者の将校が親子の無事を祈るシーンなど、「葛藤→和解と共感」を示唆する要素がしっかり盛り込まれてはいるけれど。

最後の最後、任務を達成するまさにその瞬間になって、ついに物語の本質が露わになる。「生きてください」と懇願する親子に手を振りながら、決して頷かない艦長と乗組員たち。任務のために一旦は降伏する決意まで固めながら、任務が解除された途端、帝国海軍の戦闘艦としての意地をかけて絶望的な戦いを挑むイ-57。激しい戦闘の末の結末は、悲しくも納得の行くものであった。うーん、やっぱりそうなるか……。


特撮クオリティーの高い戦争映画でありながら、人々の抱える矛盾や葛藤を追った人間ドラマでもあり、帝国軍人の心性の美徳と悲劇を鮮やかに描ききった作品である。現代日本にはちょっとあり得ない傑作、だと思う。本当は、CG等の技術が進んだ現代でも、これくらい志の高い特撮作品が出てきてほしいんだけどなあ……まあ、日本の一つも沈められないようなヘッピリ腰では無理かな(笑)。

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