●ブラジル×フランス ('06サッカーW杯準々決勝)
NHK総合で、ドイツW杯準々決勝最後の試合。ブラジル 0-1 フランス。8年前の決勝戦の再戦は、スコアこそ違えどまた同じような雰囲気のゲーム。結果もやはり前回と同じ勝敗に。ブラジルはついに大会前期待されていた「魔法のサッカー」を見せられずに終わり、逆にフランスは下馬評を覆す戦いぶりで四強に名を連ねることになった。
前半。ロナウド&ロナウジーニョの2トップを前面に押し立ててジュニーニョ&カカーがその後ろで支える「ノックアウト仕様」のスタメンを採用したブラジルに対し、フランスも堅固な守備網を敷いて1トップアンリを前に張らせ、ジダンにボールを集めて逆襲を狙う。序盤はブラジルが押し込み、連続でセットプレーのチャンス。ジュニーニョのFKは壁に当たって得点ならず。
しかし、時間が経つにつれ、ブラジルの勢いは落ち、フランスがボールを支配。ブラジルは全体的に運動量が少なく、プレスのかからない中盤をジダンやマケレレが滑らかにつないでいく。クロスが入り、CBが間一髪逃れる場面が何度か。R&Rの2トップは積極的に突っかけていくが、二列目のカカーは全く目立たない。45分にはジダンのスルーパスで抜け出したヴィエラをフアンが倒し、あわや退場の警告。前半終わってみれば、ボール保有率・シュート数ともにフランスが上回っていた。
後半になると、ブラジルはゼ・ホベルトが積極的に上がるなど前がかりに。だが、そうなると今度はアンリやリベリーの走力が生きる。長いボールを追ってDFラインの裏へ走り、容易にブラジルの攻勢を許さない。57分、左からのFKでジダンのクロス、ファーでフリーになっていたアンリがゴール天井に突き刺してゲット。よりによってアンリがノーマークなんて…ブラジルは集中力を欠いていた。60分にもリベリーのクロスをフアンがあわやオウンゴール、というシーン。
「優勝が義務」の王者は負けるわけにはいかない。ジュニーニョに代えてアドリアーノを投入。ロナウジーニョが二列目に下がることで、ブラジルらしいリズムの細かいパス交換が復活。両SBもガンガン上がって攻めたてる。しかし、フランスDFは崩れない。抜かれかけても食らいつくタックルでボールを奪い、相手がシュート態勢になれば瞬時に壁を築く。ジダンの流麗なボールさばきもスタンドの喝采を呼ぶ。70分にはアンリからリベリーへ決定的な折り返しが通り、飛び出したGKジダがかろうじてセーブ。
75分を過ぎる頃になると、さすがにフランスも疲れから上がれなくなって、ピッチ半分での攻防が続く。ブラジルはカフー→シシーニョ、カカー→ロビーニョの交代。これに対してフランスはマルーダ→ヴィルトールとアンリ→サハで、逆襲の手を残す妥当な采配であった。耐えるフランス、攻めあぐむブラジル。時計がゆっくりだが確実に進む。43分、ボックスわずか手前でFKの場面も、ロナウジーニョのシュートはバーを越えてしまった。
終了間際の攻防は見応えがあった。45分、逆襲からジダンのスルーパスでサハが抜けるが、シュートはジダがセーブ。ロスタイムにはロナウドがパワフルなドリブルからミドルシュート、GKバルテズはキャッチできずかろうじて弾く。その次のプレーではシシーニョが弾丸クロス、フリーのゼ・ホベルトが足を伸ばすもミートできず。そしてバルテズが大きくキックしたところでフルタイム。アンリのガッツポーズ!優勝候補筆頭とまで言われていたブラジルは、ベスト8で姿を消すことになった。
印象としては、完全に「8年前の再現」だった。使命感(ジダンの花道!)に燃えたフランスイレブンと、対照的にどこか元気がなく集中力を欠いたブラジル。スタメンも半分くらいは同じ選手だし、決勝点もやはりセットプレーからの得点だった。前回はスコア的にはもっと開いたのだが、あれは開催国の勢いと当時のフランスの若さゆえだろう。フランスにとっては会心の、ブラジルにとっては不完全燃焼の試合であった。
ブラジルは、メンツ的には確かに今までで最強クラスだったと思うのだが…攻撃のコンビネーション不足、ロナウドやアドリアーノら攻撃以外の仕事をほとんどしない選手の存在、「これ」というアタッカーの組合せを見つけられなかったこと…。ありていに言ってしまえば、「いい選手を集めてただ並べただけではいいチームを作れない」ということになるのだろうか。まったくもってもったいない。
フランスは、これまでも1試合ごとによくなってはいたが、この勝利でまた一つ階段を上ったように見える。8年前の栄光の再現も充分にあり得ることだと思う。守備の堅さにはもともと定評があったところに、ジダンの復調やリベリーの台頭で攻撃にも期待が持てるようになってきていており、そして何より「ジダンのために」一体感が生まれているのが心強い。次の相手はポルトガルか…。向こうにもこれが最後の大会となるフィーゴがいるし、非常に楽しみである。