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2006年06月09日

●『殺人の追憶』

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明日からはどうせサッカー三昧になるのだからと、久しぶりにHDレコーダーに溜め込んである映画を消化。ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』。1980年代半ば、韓国のとある農村で起こった連続強姦殺人事件。地元の刑事パクとソウルから派遣された刑事ソは、互いに反目しながら捜査に乗り出すのだが…。

いや、正直、韓国映画ということで多少ナメていたことは否めないのだが、観てみると非常に出来のいい作品だった。凄惨な殺人現場とコミカルな捜査の失敗がテンポ良く交互する軽快な序盤。手がかりと共に事件の異常さが露わになって緊迫感が高まる中盤。そしてサスペンスと悲劇から重い結末に至る終盤。色々なテイストが複合的に積み重なって、2時間20分全く飽きなかった。

個人的には、終盤の理不尽さが気に入った。対立していたパクとソが捜査の苦労と犯人への憎悪から心を通わせるようになって、人間くさいパクが次第に冷静になり、理性的だったソが感情をむき出しにしていく。そこで普通のドラマなら事件は解決に向かうところなんだけど、この映画は一筋縄ではいかない。目撃者はすんでのところで錯乱して死に、間違いないと思われた容疑者も断定には至らない。

結局、犯人は最後まで「顔が見えない」ままである。まあ、現実の未解決事件を元にしているからなのかもしれんけど、結果として不気味さを演出する上では大成功のように思えた。間抜けさと素朴さの陰に存在する暗闇、平和な田舎にやってきた都会の捜査官…「韓国版ツインピークス」か(笑)?まあ、完成度はこっちの方が高いかもしれんが。とにかく、最後まですっきりしないのが逆にいいんだよね。

また、不条理な話を筋の通った物語に仕立てた脚本も見事なんだけど、演出も負けず劣らずの素晴らしさ。出てくる容疑者はどいつこいつも犯人であってもなくても不思議でない感じで、これが実にもどかしい。クライマックス、ソと交流のあった少女とパクの女がすれ違って、「どっちが狙われる?」という場面のサスペンスも本当にハラハラした(そして悲しかった…)。おまけに結末の乾いた気味の悪さときたら…。

日米のスナック菓子みたいなお手軽大作とは全く違う味わいだが、こういう映画もまたエンターテイメントの王道と呼んでいいのではないだろうか。カラッとした陽気さはかけらもないが、民主化運動下の80年代韓国の暗さと情念をベースに、猟奇犯罪の不条理さをドラマティックに描ききった傑作。お薦めである。

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