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2006年02月24日

●「びっくり、ただ、びっくりです」


昨晩飲み会だったのでフィギュアスケートはリアルタイムでの観戦をあきらめていたのだが、朝6時前になぜか自然と目が覚めた。ちょうど早起きしたカミさんが隣の部屋でNHKの中継を見始めたので、テレビの音だけ聞くことにした(フィギュアは失敗が多いから、可哀想であまり積極的に観る気にならんのよ)。
 
荒川静香の演技の時刻。静まりかえった会場に「トゥーランドット」の美しい旋律が流れる。解説はおろか実況アナさえも口数少ない中、技が決まるたびに「ホゥ!」と観客の小さな歓声が聞こえた。失敗はないようだ…。そして数分間の時が流れ、ついに音楽が止まった瞬間、割れんばかりの拍手と歓声。「初めてのスタンディングオベーション!!」とアナの声。慌てて戸を開け「どうだった?」と尋ねると、やや目を赤くしたカミさんからは「完璧。もしこれでメダル獲れなくても悔いなし、って感じ」との答え。よし!
 

それでも、その時点でSP2位のコーエンは逆転したものの、まだ最後に大本命スルツカヤが残っていたため、「これで銀は獲れるかな」という程度の感想しか抱けなかった。まさか、あのスルツカヤが失敗するとはね。荒川さんは銀でも満足したかもしれないが、スルツカヤは優勝以外頭になかっただろうから、1位スルツカヤ2位荒川が「幸せな結末」であるように思えたのだけれど……世の中うまくいかんもんやね。
 
でも、そんな野次馬の余計な感想などどこかへ吹っ飛ぶくらい、優勝が決まってからの荒川さんの表情は素晴らしかった。「やった!」でも「当然よ!」でもなく、何だか突如振ってきた大きな幸せを受けとめかねているような、どう喜びを表現していいかわからないような、驚きと喜びの入り混じった裏のない表情。インタビューで「びっくり、ただ、びっくりです」と話していたのはきっと本音なんだろう。見ているこちらも自然と笑顔になってくる、幸福な朝だった。


荒川さんの演技については、もちろん、帰ってから録画でゆっくりと見直した。
 
まず素晴らしいのが、演技に入る直前の彼女の表情(上の写真)。完璧に集中しきった横顔。こういう瞬間を目撃することこそが、トップレベルのスポーツを観る際の喜びの一つなんだと改めて思い知った。おそらく、あの時の彼女にとって、世界は自身の身体と氷のリンクだけから成り立っていたのだろう。審査員や観客にただ「見せる」演技をするのではなく、とことん集中し自分の持つものを表現しきって、結果として審査員に対しても観客に対しても「魅せる」ことに成功。ある意味、フィギュアの外面的なイメージとは違い、とことんアスリート的な部分を突き詰めた結果としての勝利なのかもしれない。
 
演技自体もほぼノーミス。個々の要素の完成度はもちろん、つなぎの滑らかささも最高だった。「一世一代」とはこういうことを指す言葉かもしれない。実際には3回転-3回転のコンビジャンプが3回転-2回転になってしまったらしいのだが、本人によれば、最初の3回転を跳んでいる最中にバランスを考慮してとっさに変更したのだという。「とっさに」と簡単に書くが、何十分の一秒の世界での話である。今までの、百戦錬磨の経験がその判断を後押ししたのだろうか。長野以来8年間の積み重ねがここで出た。全くもって、お見事である。
 

そして、演技が終わり、重圧から解放された際の笑顔の素敵なこと!あの瞬間、彼女にとってはパーッと感覚が開けて、世界の全てが輝いて見えたことだろう。インタビューでも演技でも、24歳とはとても思えぬ落ち着きぶりを見せる彼女はまさに「クールビューティー」(あるいは「静香ねえさん」)なんだけど、やっぱり笑顔が一番。いや~ホント良かった。おめでとう静香ねえさん!!
 
 
 
ところで。五輪開幕前はミキティーミキティーと騒いでいたマスコミの皆さんはお元気でしょうか(笑)。まあ、トリノに来る前から安藤さんの実力が荒川・村主の両選手に比べて劣ることは明らかだったと思うのだが、さすがに直前になって取材陣もヤバイと思ったのだろう、いつの間にか「メダル獲得へ」が「4回転ジャンプは成功するか?」にすり替わっていた。安藤さんは18歳の若さであれだけ騒がれちゃって、周囲の演出ぶりもイマイチみたいだし、ちょっと気の毒だったね。

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