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2006年01月26日

●『ランド・オブ・ザ・デッド』

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DVDで、ジョージ・A・ロメロ監督『ランド・オブ・ザ・デッド』観る。ご存じロメロ御大の『ゾンビ』シリーズ第4弾。今回は、ゾンビが大発生した世界においてなお生き残る、周りと隔絶した要塞都市が舞台。都市内における人間たちの生活と対立、そして進化を始めたゾンビ軍団による大襲撃の顛末が描かれる。
 
この物語に込められている政治的メタファーは至極わかりやすいものだ。富裕層の中心として大都市を支配する独裁者(デニス・ホッパー)はブッシュ政権、兵士となってゾンビ地域で物資調達に命をかける人々は米地方都市の貧困層、そして「戦闘ではなく、ただの殺戮」たるゾンビ狩りの様子はイラク等における米軍の軍事行動。まんま現代アメリカの一部を映し出したものだ。これについては、まあ、「そうだよな」としか言いようがない。

目を引くのはやはり残酷シーン。とにかくむごく、悲惨さではシリーズ1番かも。ゾンビが腕や首を食いちぎる描写は言うまでもなく、逆に兵士が笑いながらゾンビを射殺(?)しまくったり、富裕層がゾンビ虐待を娯楽にしているのもヒドい光景である。そして、ラストのゾンビ襲来の描写ときたら…。本来はゾンビを防ぐためのバリケード前でゾンビ軍団に追いつめられた富裕層たちが、一旦はゾンビが花火に引きつけられて助かるかと思いきや、やっぱり「気を取り直した」ゾンビたちに全員食われてしまう。あの、状況的な悲惨さはちょっとトラウマになりそう。

そうしたショック描写満載の本作において、単なるホラーではないロメロ作品らしさといえば、全編に漂う何とも言えぬ「もの哀しさ」だ。ゾンビに噛まれた人間(じきゾンビになる)をどうするか、という解決不能な問題(大抵は身内が射殺…)。見下され、酷使された末に反乱を起こした兵士の気の毒な末路。極めつけは、奪われた武装トラックを奪還して「さあ救出だ!」と引き返してみれば、既に街は見渡す限りゾンビの餌場と化していた時の主人公たちの表情か。このどうしようもない「あ~あ…」というやるせなさこそが、このシリーズの名作たる所以であろう。

また、見た目の派手さや構図のわかりやすさに対し、結末が曖昧なのも印象的。進化したゾンビは「ゾンビを虐待する人間」への怒りに駆られて都市を襲撃したようにも見えるんだけど、多少知恵がついたとはいえ所詮ゾンビはゾンビ、結局食いついて貪るだけで終わってしまう。一方、人間の方も街の理不尽な支配構造は崩れたんだけど、そのための犠牲はあまりにも悲惨なもので、生き残った人間も「行き場を探している」うつろな状態。なんか、結局問題の解決にはほど遠いなあ、という感じが残る。

それでも、ラストの終末感は『ゾンビ』や『死霊のえじき』に比べると薄く、生き残った貧困層たちの「それでも前に進むんだ」という姿勢は希望さえ感じさせてくれるものであった。ロメロ爺さんも少し優しくなったのかな(笑)。最後は、主人公たちの乗った武装トラックが花火を打ち上げながら何処かへ去っていく場面で物語が終わる。この手の、主人公がどこかわからない目的地へ向けて去っていく、というラストシーンは個人的にはけっこう好きだ。別に続編があろうと無かろうと、物語が閉じきらない方が余韻があっていいのである。

何にせよ、「頭を空っぽにして」などとはとても言えない作品。見終わった後しみじみと酒を飲みたくなる一作。

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