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2005年11月17日

●「アート&テクノロジーの過去と未来」

昨日、初台のICC(NTTインターコミュニティケーション・センター)で開催されている「アート&テクノロジーの過去と未来」に行ってきた。戦後日本における様々なテクノロジーを用いたアートの数々を振り返る展覧会。……と書くと非常に地味に思えるし、宣伝の少なさから知名度は低いようだが、その豊かな内容には驚かされた。写美の「超[メタ]ヴィジュアル展」を飛躍的に充実させた感じか。ちょっとビックリ。

コンピューターが普及するよりずっと前から、電気(あるいは電子)機器というのは我々の社会に浸透しており、今や僕たちの生活は膨大な数の機器やメディアに彩られている。だから、それらを用いた表現というのは現代アートの世界において「不動の主流」となっていても少しもおかしくないと思うのだけれど、実際はまだまだ技術依存的なイメージが一般的。メディア・アートの進歩はハードの進歩と同じ速度で進む、という思い込み(「この機械があるからこの絵が描ける」)は強い。

でも、ここで展示されているのは、古くは50年代、新しくは今年の作品だけど、そのどれもが制作年代など関係なく観る人の五感を揺さぶり、「認識論的な問いかけ」(by谷川俊太郎)をしてくるものだ。例えば、佐藤慶次郎の『オーバー・ザ・ウェーヴス』(’74)。磁気によって小さな輪が絶え間なく不規則に動き回る様を眺めている時の、時が止まり空間が歪んだような不思議な感覚に、作品の古さなど関係はない。要は、いかにアーティストの感性を表出しきるか。それこそが、アートの道具としてのテクノロジーにとって重要であり、今回の展示作品の多くは感性と技術を見事にシンクロさせたものだ。

会場中至る所に配置されたイメージ・感覚の量は圧巻だが、中でも特に印象的なものをいくつか。冷たいナレーションと抽象物のスライドをシンクロさせた、実験工房『水泡(みなわ)は創られる』(’53)。医療器具を用いて70年代にエフェクト映像表現を実現した、松本俊夫『エクスパンション 拡張』(’74)。男女のふれあいの儚さを、この上なく優しく表現した古橋悌二『LOVERS―永遠の恋人たち』(’94)。あ、あとおなじみ岩井俊雄『時間層Ⅱ』(’85)も展示されていて、隣のカップルに大ウケしていたな。

とにかく、展示作品の大半がメチャ面白く、しかも点数がとても多い(昨日は夕方間際に駆け込んだので、実はまだ全部見ていない)。本当のアートとは、実は難しいものなんかじゃなくて、ただ前に立って感覚と感性を開いて触れるだけで、感動や驚きや様々なものをもたらしてくれるもの。そんな事まで思い出させてくれる、お薦めの展覧会である。12月25日まで。僕もあと1回は絶対に行きたいと思う。

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