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2007年03月14日

●『美女と液体人間』

先頃、家の近所のレンタルビデオ屋に「おもひで映画館」なるコーナーができ、古い時代の邦画が「B級作品」も含めて色々と置かれるようになった。しかもDVDで。邦画の旧作というと、これまでは黒澤明作品とかいわゆる「名画」とか角川おバカ大作とかがラインナップの中心だったので、これは僕にとってはありがたい。さっそく何本か借りてみた。


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まず第一弾は、本多猪四郎監督『美女と液体人間』。東宝特撮「変身人間シリーズ三部作」の記念すべき第1作である。


昭和30年代の東京。ある雨の日、1人の麻薬密売人が衣服と荷物の全てを路上に残したまま忽然と姿を消した。富永(平田昭彦)ら警視庁の刑事たちは懸命に手がかりを捜し求めるが、その目の前で第2の人間消失事件が発生。富永の旧知の物理学者・政田(佐原健二)は「原爆実験の影響で液体化した人間の仕業」との仮説を主張するが……。

この映画のいいところは、液体人間そのものがなかなか登場せず、途中までは普通のサスペンス物のように構成されていること。平田昭彦は理性的な刑事を好演、彼に率いられる刑事たちも小沢栄太郎、土屋嘉男、中丸忠雄らとかなり魅力的なメンツ。彼らが地道な捜査で悪役・佐藤允を追い詰めていく様は緊張感にあふれており、「このまま普通の刑事ドラマでもいいな」と思うくらいだ。

そして物語中盤、いよいよ液体人間様のご登場。この液体人間、トロトロとゆっくり壁づたいに這ってくるのだけれど、ちょっとでも触れるやいなや被害者が「プシュー」と一気に溶けてしまう、その緩急が怖い。それまでが締まった刑事ドラマとなっていただけに、余計に異物感・グロテスクさも際立つのだ。遠くでゆらりと青光りする液体人間が立ち上がるビジュアルも非常に不気味で、さすがは円谷特撮。よくできてるのう。

残念だったのは、クライマックスがちょっと間延び気味だったこと。この手の話らしく警察と軍隊が出動して下水道ごと焼き払うことになるのだが、液体人間自体が逃げるでも抵抗するでもなく、あっさり焼き払われてしまうのがやや拍子抜け。せっかく「~人間」なんだから、もうちょっと悪あがきしてくれても良かったのでは。人格を失っているとはいえ、よく考えたら一部はヒロインの元彼氏だし、あの液体人間。

最後、エライ学者先生の「人類が絶滅した時、次に地球を支配するのは液体人間であるかもしれない」という(まるで『ゴジラ』のような)お説教で終わるのはまあいいとして、その背後で下水道から流れ出たガソリンが街をボーボー焼いてるのが気になって仕方がなかったのだが……。あれ、液体人間よりも軍隊が放った火の方が被害が大きいのではあるまいか(笑)。

あと、見ていて痛感したのは、佐原健二は科学者役が全く似合わないということ。『ウルトラQ』の「SF作家にしてパイロット」役はピタリとハマっていたのにね。また、タイトルに「美女」と付くとおり、ヒロインの白川由美は「すげー美女」という設定になっているのだが……うーむ、僕の好みの問題なのか、それとも時代の差なのか、どうも、ちょっと(笑)。『ガス人間第1号』における八千草薫のこの世のものとは思えない美しさと比べてしまうからかもしれないが。


まあ、色々書いたけど、この映画、『ガス人間第1号』のような悲劇性・情緒性には乏しいものの、割とリアルな話の展開(途中まで佐原健二の仮説を刑事たちが全く信じず、気まずくじれったい会話が何度も繰り返されたりとか)や前述したような緊迫感・サスペンス性はなかなかのものであった。「在りし日の」東宝SFの佳作。観てみて損はない、かな。

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