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2006年03月02日

●『ヒトラー ~最後の12日間~』

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DVDで、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督『ヒトラー ~最後の12日間~』。ベルリン中心部を舞台に、アドルフ・ヒトラーの秘書を主人公として描くナチス・ドイツ(あるいはヒトラーとその側近たち)最期の日々。

映画の公式サイトには「世界震撼。全てを目撃した秘書が今明かす、衝撃の真実。」なんて書いてあったけれども、たまたま僕が昔から第2次大戦ものの本をよく読んでいたせいか、エピソード的に意外なものはほとんどなかった。末期のベルリンの悲惨さやヒトラーが錯乱していく様子、側近たちの裏切りやヒトラー及びゲッペルスの自殺に至るまで、「ああ、そうだったよね」という感じ。

そう、この映画の良さを驚きや意外性に求めようとしてはいけない。むしろ、よく知られた逸話の数々をこの上なく丁寧に、ディテールに至るまで描いているところが特長なのだ。BGMを使わず派手さのない演出や、重要な場面で遠目や隙間から覗くようなカメラワークが用いられているのも、「生き残りの証言」から当時の様子を再現する上ではとても効果的。歴史的事実自体が劇的なのだから、淡々と描くだけで(これが意外と難しいことだが)充分だ。2時間半、全く飽きなかった。

なお、タイトルにはずばり『ヒトラー』が用いられているわけだが、しかし意外とヒトラーの印象は薄い。彼の人間性も怪物性も中途半端な描写になっている。ブルーノ・ガンツはモロそっくりなのにね(笑)。主人公の秘書も「流される人」として描かれており、インパクトや魅力という点ではエヴァ・ブラウンやゲッペルスやその他の脇役の方がずっと上。『日本のいちばん長い日』と同様、極限状態で様々な選択を迫られる人々の群像劇として観るのがいいのではなかろうか。

戦後もう60年もたつのに、未だに(もしくは、今になってようやく、なのか?)第2次大戦をリアリティをもって映画化できるのだから、ドイツ人はスゴイよな、と思う。日本の映画界が今『日本のいちばん長い日』みたいな映画を作れるかといえば、ちょっと絶望的なように思うのは僕だけだろうか。あ、そういや何年か前に東条英機の映画があったような……全く見る気がしなかったが。

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コメント

古いエントリですがTBさせていただきました。
エントリでも触れましたが、ヒトラーを人間臭い人物として
描くというのは、日本では既に手塚治虫がずっと昔に
やっっていたことなんですよね。
そういう意味で僕は既視感を感じました。

>日本では既に手塚治虫がずっと昔に
『アドルフに告ぐ』ですよね。僕も昔読みました。おっしゃるとおり映画とヒトラー本人の描き方はかなり似ていましたね。異なる点は、映画だと(視点の違いのせいなのでしょうが)エヴァ・ブラウンにより焦点が当たっているのと、漫画ではヒトラーは自殺ではなく(以下自粛)。

事実関係なんかでは、読み物でも三好徹さんの『興亡と夢』なんていう本もあって、それとほぼ同じだったように思います。大学の頃読んだ歴史書なんかと照らし合わせても、新味はなかったなあ。まあ、だからこそ逆にいい映画になったんだと思いますけども。

ともかく、ヒトラーを非人間的な単なる「怪物」としてではなく「人間」として描き、その1人の人間がなぜ第三帝国を興すに至り、なぜその国がああも犯罪的な行為に至ったのか、と考えるのは正しいスタンスのように私には思えます。「絶対悪」という発想は、何かと思考停止につながりやすいですから。

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