●日本ラグビー史上最高の白星 (日本代表×南アフリカ代表)
日本代表 34−32 南アフリカ代表 (ラグビーワールドカップ2015 プールB第1戦)
世界をあっと驚かせる、そして日本のラグビーファンにとってもあっと驚く結果だった。第8回ラグビーワールドカップの緒戦、日本代表は世界ランク3位の超強豪・南アフリカとの接戦を制して24年ぶりの白星。「ワールドカップ史上最高のアップセット」であり「日本ラグビー界最大の金星」である。
まさかこんな日が来ようとは。それも、これほど早くとは。あまりの快挙にどう喜んだら良いのか、僕は正直戸惑っている(笑)。
ラグビーにおいて番狂わせを起こすためのお手本のような試合だった。大会初戦、優勝候補の相手が手堅く、力にものを言わせて突進してくるところ、低くしつこいタックルで粘り続け、ここぞという場面ではDFが思い切り飛び出してミスを誘発する。南アの4トライのうち2つはタックルミスでそのまま独走を許したものだけど、逆に言えばそれ以外の場面でいかに精度の高い守備ができていたか、ということだ。
勝因の一つは、ミスが少なかったこと。結局ハンドリングエラーは3つしかなかったのかな?相手がハードヒットの権化みたいなチームであることを考えたら、これはとんでもない数字だろう。懸念していたハイパントなどのキック処理についても、松島が一度弾いたくらいで、後は五郎丸を筆頭に確実に処理するか互角に競ることができていた。ミスの少なさは持ち味を出すことにつながるし、地力が上がった証拠でもある。
それと、ミスの少なさにも直結したと思うけど、この試合のジャパンは抜群にコンディションが良かった。身体的な状態はもちろん、表情などを見る限り精神的にも平常心で試合に臨めていたように思えた。2010年サッカーW杯(南アフリカ大会)での岡田ジャパンの健闘を持ち出すまでもなく、W杯のような短期決戦において何より大事なのはピーキングなわけで、その点でもこの試合が成功だったのは間違いない。
あとはスコアリングのステディさも良かった。真剣勝負の国際大会だからPGを確実に狙っていくのは当たり前として、五郎丸は重圧のかかるところ、9本のプレースキックのうち7本を成功。特に59分に決めたロングPGと2本目のトライの後のコンバージョンは南アに大きなプレッシャーをかけることになり、試合の流れを大きく左右したように思う。スーパーブーツまであと一歩、だろうか。
それにしても、これが一番の勝因といえば勝因かもしれないが、今の日本代表の武器(秘密兵器も含めて)が全て出せたような試合だった。安易に蹴らず近場を中心に攻め続けて守備時間を減らし、攻められても組織立った守備で崩れず、ここぞという場面ではモール・スクラム・そしてBKのムーヴで勝負。先発とベンチの力量にほとんど差がないのも大きかった。とにかく、この4年間積み重ねた努力が結実した印象を受けた。
そう、まだ本番初戦なんだけど、ある意味、南アフリカ戦はエディー・ジャパンの集大成だったのだ。
前半は南アがボール支配する時間も長く、日本の健闘を見ても「2トライ差以内に抑えられるかも」くらいの感想だった。だが、ハーフタイム明けの南アの選手たちの表情が硬いのを見て「おっ」と思わされ、後半半ばを過ぎてまだ生き生きしてる日本に対して南アが焦燥の表情を浮かべているのを見て「行けるかも」と。そして70分過ぎのゴール前PK、南アがショットしたのを見て「行ける!」と確信した。
なんというか、一つの試合の中でジャパンの格がどんどん上がっていったというか。健闘しているうちに地元の観客も日本の味方につき、南アも最初は余裕があったのがムキになってモールトライやPGを狙うようになって、終盤には恐れさえ抱きだした印象であった。72分のPKも、タッチからトライを狙われた方が絶対に嫌だった。逆に、日本の選手たちはどんどん自信を増していくように見えたもんなあ。
日本の3つのトライはいずれも素晴らしく、特に68分のトライは鮮やかだった。左ラインアウトから早く速く囮を交えて展開、立川のパスから小野がノールックで折り返したところに後方から松島が斜めに走りこんでDFの間を抜け、最後は五郎丸の怒涛の突進で仕留めた場面。拍手喝采、会心のサインプレー。攻撃面ではあれこそ「ジャパン・ウェイ」と言っていいだろう。「どうだ、見たか!」という感じであった。
終了間際の場面、僕は「勝点を考えたら引き分けを狙っても良いのでは」とも思ったんだけど、選手たちは躊躇なくトライをとりに行って見事に勝ち切った。スクラムを選択した瞬間には胸が熱くなった。スクラム戦は時間が経つにつれ優位になっていたとはいえ……イタリア戦でスクラムで逃げ切った時と同様、実に気持ちが良かった。そして、最後も日本らしいパス攻撃からヘスケスのサヨナラトライ。
いや、ホント、間違いなく僕が見た中では日本代表最高の試合だった。感動した。
個々の選手では……と言ってもこの試合のジャパンは全員が集中して力を発揮してとにかく素晴らしかったと思うんだけど、特に目に付いたのはリーチ マイケルの頑張りだろうか。80分間当たって立ち上がって走って当たってまた走って……という繰り返しで「体を張る」とはこういうことを言うんだな、と。本当に素晴らしいキャプテンだと思った。エディー・ジャパンはリーチ組でもあるんだよな。
マレ・サウと松島はビッグタックル連発で何度味方の危機を救っただろう。山田もボールを持つ場面は少なかったけれど、慶應魂が目覚めたのか守備で大きく貢献。五郎丸と田中は大黒柱にふさわしい堂々たるプレーぶり。心を揺さぶられたのはCTBに入った立川の活躍で、ランにパスにタックルに獅子奮迅の働きでしかもポカは皆無。試合中「今日の立川はいい」と何度つぶやいたことだろう。
FWでは、第一列は2セットともその時間帯で最善のプレーぶりだった。堀江と畠山は4年前のリベンジを見事に果たしたね。ルーク トンプソンと大野の勇気あるプレーぶりには涙が出そうだった。真壁は流血しながら笑ってプレーしていたので南アにとっては気味が悪かったろうな、と(笑)。そして、エディーさんが「贈り物」と呼んでいたマフィは、その通りの決定的な仕事ぶりだった。
もちろんジョーンズHCにとっても会心の試合だったに違いない。苦い思い出もあるW杯の舞台で、前々回の優勝時にはアドバイザーを務めた南ア相手に、世界に名を轟かすアップセット。パーツごとに強化して最後に統合してみせた手腕といい、まるで最後のトライから逆算したかのような選手起用といい、本当に凄いコーチである。日本にとってはまさに彼こそが「贈り物」だったということだろう。
ということで、あまりの感動ぶりに一気に書いてしまったのだが、よく考えたらまだたった1試合終わって1勝しただけなんだよな(笑)。もちろんこの上なく価値の高い勝利なのは間違いないんだけれど。
正直、大会前は「南アに勝つのは無理。残り3チームに2勝できれば大成功、1勝でも御の字」と考えていたのだが、こうなってくると欲が出てくるわな。中3日のスコットランド戦はコンディション的に厳しいことが予想される。でも、何とか善戦して決勝トーナメント進出に期待を持たせてほしいと思う。「まずは1勝」が「いきなり1勝」になったんだから、もう行けるとこまでで行ってほしいよね。
とにかく、24年間続いた「W杯で勝てないジャパン」の歴史は一旦幕を閉じることになった。この1勝で歴史が変わり、これから日本ラグビーの関係者やファンの目に見える風景も変わってくるかもしれない、とさえ思う。もっとも、この1勝を生かすも殺すもこれからの頑張り次第なのだ。24年前の轍を踏まないよう、僕たちは日本ラグビーの行き先をしっかり見据えて応援していく必要があるだろう。それが、これまで長年に渡って悪戦苦闘してきたジャパンの選手やスタッフたちの努力に報いる道でもある。
さあ、次の1勝はどこが相手になるのだろうか。
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