フィールドの中に、いろんな奴がいる 2


 先日、コラム(「フィールドの中に、いろんな奴がいる」)を書いていて、ふと思い出した雑誌の記事がある。それは、『Number』386号(1996年2月26日発行)に掲載された「夢のジャパン選択会議」というタイトルの特集だ。当時は前年の第3回W杯で日本代表がNZオールブラックスに17−145で敗れ、さらにはサッカー人気を受けた競技人口低下も始まった時期で、日本ラグビー界にはかつてない危機感が漂っていた。代表監督交代・協会強化委員会の組織替えが行われ、さらに高校レベルでのラグビー未経験者も含む人材発掘を目的とした「平尾プロジェクト」も開始。この記事も同様の問題意識の下、かつて代表を率いてスコットランドを撃破した名将・宿沢宏朗氏(現日本協会強化委員長)に他競技の一流アスリートから15人を選抜してもらい、「夢のジャパン」を編成してみようという企画である。

 当時宿沢さんが選んだフィフティーンを以下に列挙してみよう。

1 プロップ(PR) 武双山正士(大相撲)
2 フッカー(HO) 若乃花勝(大相撲)
3 プロップ(PR) 土佐ノ海敏生(大相撲)
4 ロック(LO) 中垣内祐一(バレーボール)
5 ロック(LO) 貴ノ浪貞博(大相撲)
6 フランカー(FL) 松井秀喜(プロ野球)
7 フランカー(FL) 渡辺康幸(陸上)
8 ナンバーエイト(NO8) 貴乃花光司(大相撲)
9 スクラムハーフ(SH) 飯田哲也(プロ野球)
10 スタンドオフ(SO) イチロー(プロ野球)
11 ウイング(WTB) 井上悟(陸上)
12 センター(CTB) 前園真聖(Jリーグ)
13 センター(CTB) 佐々木主浩(プロ野球)
14 ウイング(WTB) 室伏広治(陸上)
15 フルバック(FB) 川口能活(Jリーグ)

 どうです?なかなかワクワクしてくるようなメンツでしょ?

 どこがいいかと言えば、もちろん第一には、豪華すぎるくらいのビッグネームが揃っているところだ。なかには引退したり「どこ行ったの?」なんて人もいないではないが(笑)、少なくとも6年前の時点での日本スポーツ界のトップアスリートが結集していることには違いない。横綱あり、盗塁王あり、本塁打王あり、日本記録保持者あり。その後の大リーガーも2人いるし、昨年世界選手権で銀メダルをとった選手も、フランスW杯の正ゴールキーパーもいる。どんな競技であれ、彼らが一堂に会すればピッチの上はまぶしいばかりのオーラに包まれるに違いない。

 しかしそれ以上に「オオッ」と思わせるのは、ラグビー界きっての知性派・宿沢さんが選んだだけに、ちゃんと各ポジションの特性に合ったジャンルの(あるいはそういう特徴ある能力を持った)選手をセレクトしていることだ。スクラムでの押しの強さが要求される第一列には力士、なかでも巧緻性が要求されるHOには器用そうな若乃花を、LOの1人はラインアウトのジャンパーとして中垣内、もう1人は密集の核になるボールハンターとして技巧派力士の貴ノ浪。走り屋のオープンサイドFLには長距離走の渡辺を配し、ブラインド側には強いゴジラ松井。で、総合力が要求されるNO8には貴乃花(ちなみに、キャプテンは彼だそうな。横綱だから(笑))。すばしっこくクレバーであるべきスクラムハーフには飯田、スマートさが求められるSOはイチロー。抜く力が必要なインサイドCTBはドリブラーの前園で、強さがほしいアウトサイドCTBは大魔神佐々木。WTBは抜群のスピードの100mスペシャリスト井上と、速さ・強さの揃った室伏。そしてFBは、キャッチングと全体を見渡す視野の広さ、さらに前へ出る攻撃性を買って川口能活。どれも適性にぴったり、理にかなっている。ぱっと見、みな即戦力になりそうだし、この15人を集めて鍛えたら本当にものすごいチームができあがるのではないかとさえ思ってしまう。

 まあ、実際には各自その競技で長年キャリアを積んでいるのだからラグビーへの転向は容易ではないだろうし、現実的な話ではない。しかし上のような空想ができてしまうこと自体、ポジション分化の進んだラグビーフットボールというスポーツの大きな魅力だと言えないだろうか。ラグビーのことをよく知らない人でも、現に今あるラグビーチームをよく観察してみると、ポジションごとに特性がはっきりしているのがよく分かるだろう。力士タイプも「山椒は小粒で〜」タイプも腕力タイプも脚力タイプも、各々に課せられた異なる役割を実行し、その積み重ねが全体としてチームプレイとなり、さらにそのぶつかり合いが「ゲーム」を構成しているのだ。前々回のコラムでも書いたとおり、そうしたチーム内の多様性があればあるほど、見ていて楽しいし集団競技としての魅力は増していく、と思う。あるいは、上に書いたようなポジション等の「原則」を外れて、小柄な選手がFWとして活躍していたり(イングランド代表にはニール・バックという170cm台の凄いFWがいる)FWのような体格のバックスがいたり(関東学院→三洋電機の角濱選手とか)することもあり、それはそれで「例外」としてまた楽しみを増やしてくれるのである。

 ちびもでぶものっぽもいて、彼らが様々なことをピッチ上で行うからフットボールは面白い。「高いレベルで同質なフィフティーン」なんて、いくら能力に優れていようがまっぴら御免だ。僕は最近つくづくそう思うようになったし、これからフットボールを見ていこうという人はそういう視点でもポジションとか個々の選手とかを捉えると、より豊かに観戦できるのではないだろうか。

 

2002年2月19日


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