テレビ局スポーツ中継番付(地上波キー局編)2000年版
近頃は地上波だけでなくBS・CSやケーブルTV等も加わり、我々が目にすることのできるスポーツ中継の数は年々増える一方だ。基本的には喜ばしいことなのだが、あまりに増えすぎて(特にCSなんか入れてると)よほどのヒマ人でない限り見たい中継の全てをカバーすることは不可能になりつつあり、そうなると見るものを厳選することが必要になってくる。もちろん基本的にはスポーツの種類・カードの優先度で決める(例えば僕なら「サッカー優先」「FC東京優先」という風に)ことになるが、判断基準はそれだけには限られない。スポーツ中継もテレビ番組である以上、「番組としての」出来不出来という要素が意外と重要になってくるのだ。これを読んでいる皆さんにはうなずいてもらえると思うが、素晴らしい感動的なゲームもど下手な実況で台無しにされてしまうこともあるし、逆に平凡な試合が優れたカメラ割りや演出によって見応えあるゲームになることもある。という訳で、今回はスポーツ中継の上手さについて各テレビ局を順位付けてみたい。対象はNHKおよび民放のキー局計6局(僕が東京在住なものですから)。実況、解説、演出、中継技術などから総合的に(というかほとんど印象で)順位を付けてみた。ではさっそく。
1位 NHK
2位 フジテレビ
3位 テレビ東京
4位 日本テレビ
5位 TBS
6位 テレビ朝日
というところでどうだろうか。え、当たり前すぎてつまらないって?いやいや、個人的には3位にテレ東を持ってきたあたりを強調したいところなんだが…。あと、ここではずらっと1位から6位まで並べているが、1〜4位と5・6位の間には大きな大きな差がついていることも付け加えておこう。
以下、各局について簡単に述べる。
1位はNHK。ダントツ。アナウンサーの平均的な質の高さ、確かな中継技術、カバーしている競技の種類の豊富さ、Jリーグチャンピオンシップやラグビー日本選手権および大学選手権・プロ野球日本シリーズ・ゴルフ日本オープンなどのビッグマッチを決して手放さないどん欲さと政治力、派手さは無いが大物揃いの解説陣等どこをとっても隙がなく、他局を圧倒していると言えるだろう。近年スポーツ中継の数自体は減っている気もするが、それはBSに多くの中継(特に海外物)を回した結果であって、力自体はは全く衰えておらずむしろ厚みを増している。「NHKの放送」と聞いただけで小馬鹿にするガキがしばしばいるように、派手さがない分イメージ的には損をしているのだが、民放で耳障りな絶叫実況・目障りなタレント起用・無理矢理なドラマ化が目立つのに対してむしろ余計なものがないだけでもずっとまし、スポーツ本来の魅力を浮き立たせる伝え方をすることが多い。サッカーにおける山本アナ(メキシコW杯でのマラドーナ5人抜き)、長野五輪における和田アナ(原田起死回生の大ジャンプ)など、名実況も多い。
2位はフジテレビ。ここはNHKとは逆に「軽い」イメージが定着しているのだが、本来お得意のバラエティー番組に翳りが見えるのに対し、スポーツ中継に関してはかなりの実力を維持している。フジの強みは実況。エース三宅アナ(92年モナコGPはF1中継史上最高の名実況だ)を筆頭に、関西テレビの馬場アナ、福井アナ、塩原アナなど実力派が揃う。絶叫系の実況であるため嫌われることもあるが、ここの絶叫は演出と言うよりもアナウンサー自身が試合に入り込んで興奮した結果であることが多いため、テレ朝あたりの絶叫実況に比べて嫌味は少ない。また、競馬・F1・K−1グランプリ・キッチンスタジアム(笑)等の他局が持っていないソフトを開拓・独占しているのも大きい。欠点は、ブームを追いかけすぎるきらいがあることとタレントさんの起用が多いことか。前者に関してはJリーグバブルの時にさんざん中継していたくせに人気が翳るとほとんど放送しなくなり、しかし日本代表戦の放映権はちゃっかり獲得して「フジ無敗神話」とか訳のわからんことを堂々と言う無節操さがイヤだ(K−1だって、いつまでやるかねえ)。が、一方で自分が開拓したモータースポーツや競馬はブームが過ぎ去ってもしっかりフォローするという面もある。タレント起用に関しては…。まあ個人的には許せないのだが、F1の世良正則・K−1の長嶋一茂等、そのスポーツが本当に好きそうな人を呼ぶことが多いからまだいい。もっと酷い局はある。
3位はテレビ東京。別に我がFC東京の株主だから誉める訳ではない。ここ、意外といいっすよ。何より、他の局でやらないようなマイナースポーツをやってくれることが嬉しい。93年の2輪GP中継で原田哲也の劇的なチャンピオン決定の瞬間を放映できたことはスーパーヒットだったと今でも思うし、最近ではアメフト日本代表の試合なんてのも中継している。中継技術・アナの質も意外と高く、土曜競馬中継は競馬好きにとってはフジの日曜の中継を上回るクオリティーを誇っている。ただ、金がないんだよなあ(だからマイナーな中継に偏っているとも言える)。
4位は日本テレビ。フジテレビと肩を並べる民放の雄。無駄な演出も少なく、タレント起用もあまりない。中継にかける金も多くてアナウンサーの技術は民放では高い方。いいことずくめのようなのにあえて4位としたのは、盛り上げが下手なのとあまりにも巨人偏重だからだ。日テレのアナはミスの少なさ、伝え方の正確さでは民放ナンバーワン。でも、良く理由はわからないがフジなどに比べて盛り上がりに欠けるような気がしてしまう。あまりにオーソドックス過ぎるというか、教育が行き届きすぎてしまっているのか、フジのアナのような試合の中にガーッと入っていく感じに欠けるのだ。だからいわゆる名実況も少なく、サッカー中継などで「ゴーーーーール!」と叫んでも不自然さばかりが目立ってしまう。あと、巨人偏重はちょっといい加減にしてもらいたい気がする。同じ読売グループなのだから応援するのは当然なのだろうが、「巨人・長嶋こそが王道」という意識が強すぎて他チームを貶めるような言い方が時折鼻につくことがある(広島出身の山本浩二でさえも巨人びいきの解説をするのは何故だ)。ヴェルディなんかはスター選手の放出とかいう以前に、そうした雰囲気がマイナスに作用して人気を失ったのだと思うのだが。
5位はTBS。僕個人としては「世界の」松下アナは嫌いではないのだが、陸上世界選手権の司会に織田裕二を起用した時点でもうダメ。今年のバレーボール五輪予選でのタレント起用も、安易というか何というか…。タレントさんたちだけではしゃぎまくって、視聴者置いてけぼり。フジがV6や嵐で成功(?)したのを思い切りパクッてモーニング娘出してるし。自分たちの頭で考える力はないのかね?サッカー中継も最近はバラエティ風の企画を盛り込もうとしては空振りを繰り返している。ともかく、スポーツファンは競技それ自体にこそ魅力を感じるのであって、テレビタレントごときが「感動」を強要すればするほどシラけるのだ、ということは言っておきたい。
6位はテレビ朝日。最大の勘違いテレビ局。その勘違いぶりは、野球中継を見れば一目瞭然だ。解説者を紹介する時に「ズバリ解説」だの「ホット解説」(ここらへんうろ覚えですが)だのといちいち意味不明の形容詞を付けることに、何の意味があるのか?論理的な日本語を喋れない落合博満を重宝して、中継のクオリティーが上がると本気で思っているのか?さらにアナウンサーもど下手(この局は専門アナの重要性を明らかに軽視している)、解説の陣容も無惨なものだ。サッカーでもラグビーでも状況は似たり寄ったり。テレ朝が2008年までのアジアサッカー連盟主要大会の放映権を独占獲得したと聞いたときには、冗談抜きで目の前が暗くなった(その後、NHKBSも放映権を得ていることが判明。救われた!)。「いい」と言えるのはゴルフの全英オープンくらいだろうか。
とまあ、いろいろとテキトーに述べてみたが、テレビ中継の善し悪しなんてのは主観によるところが多いので、人によって順位付けはかなり異なってくるとは思う。異論・反論がある人は僕のホームページ(アドレス:http://www3.ocn.ne.jp/~yoji2/)の掲示板にでも書き込みしてみて下さい。それでは、失礼。
ショートカット別冊『sportsmix』掲載(2000年9月10日)
[追記]
これも、「楽し都、FC東京のある生活」と同様に昨年シドニー五輪前、ショートカットのスポーツ特集別冊に書いたもの。日テレの記述の中で「不自然なサッカー絶叫実況」にふれていたことが、シドニーでの船越アナの「ゴール28連発」を予期していた、と言えなくもない、かな(笑)。今もこの文章でつけた番付の順位に変動はないのだが、1年たった時点での変化2つについて付け加えておきたい。一つは、民放のスポーツ中継のクオリティが輪をかけて低下していること。これは今年、世界水泳(テレ朝)と世界陸上(TBS)を見て嫌というほど思い知らされた。さすが番付5位と6位だけあって、両局とも「ど素人タレント起用」(織田とか、ナンチャンとか、川平とか)、「下手くそ絶叫実況」(両局とも揃って古館伊知郎を起用したのには笑った)、「競技の趣旨とは無関係な企画」(日本新記録でお金のプレゼント?それ「だから」応援するのってスポーツ好きとは違うよね)、「選手への空疎極まるキャラ付加」(これまた両局揃って寺川綾=「何とかのビジュアルクイーン」だとか外国の走り高跳びの人=「空飛ぶスーパーモデル」だとか訳のわからんニックネーム連発)と、駄目駄目スポーツ中継のツボを完璧なまでに押さえていた。日テレも巨人戦中継において「8時の男」とかファンにとってどうでもいい企画を始めたようだが、来るべき(来つつある?)多チャンネル時代においてこれらの局がファンにそっぽを向かれるのは火を見るより明らかだろう。
もう一つは、意味することは上とほどんど同じ事だが、BS(この場合NHKとWOWWOW)・CSがより一層発展の兆しを見せていること。この1年に限っても野球ではイチロー・新庄が、サッカーでは小野・稲本・高原が新たに海外チームに移籍。これらスターの進出は当然彼らの所属する海外リーグへの関心を高めるのだが、そうした試合を中継するとなれば多チャンネルのCS・番組編成に融通の利くBSが有利になってくる。特にCSは多チャンネルゆえの各番組の専門性という特徴を存分に生かし、必要な情報のみを凝集する番組づくり・競技に精通したアナウンサー起用を行って着々とコアなファン層を引きつけている。さらにBS・CSで利用される海外テレビ局の映像の多くは国内の中継に比べて「勘どころ」を抑えたもので、一度見れば「なぜ日本のテレビ局ではこれができないか」と疑問をもってしまうものだ。スポーツ番組としてのクオリティでは、もはや地上波民放とCSとでは比べものにならない。
というわけで結論としては「これからもスカパーに加入し続けるためにしっかりお金稼がなきゃ」ということになるわけだが(笑)、まあ最後に一つだけ、上記本文の中で一番力のこもっていた部分を抜き出して付け加えておこう。
「スポーツファンは競技それ自体にこそ魅力を感じるのであって、テレビタレントごときが「感動」を強要すればするほどシラけるのだ」。
だって、そうでしょう?テレビ局の皆さん。
2001年9月10日