日本、ブラジル相手に惜敗も、決勝トーナメント進出決定!!

 

 

 「史上最強」との前評判を受けてシドニーに乗り込み、順調に南ア・スロヴァキアに連勝した日本五輪代表。決勝トーナメント進出は確実かに思われたが、ブラジルが南アに予想外の敗北を喫したことから、状況は日本にとって俄然厳しいものになった。最終戦のブラジル戦は、もし予選D組のもう1試合で南アがスロヴァキアに勝った場合、日本は敗北すれば即アウト、勝つか引き分けるしかない状況である。ブラジルは王国の意地にかけてもここで負けて予選敗退するわけには行かず、また日本に対してはアトランタ五輪の雪辱という意味合いもある。日本にとっては、まさに正念場の一戦であった。

 

 この日の日本は相手がブラジルということもあってか立ち上がりから動きが硬く、前半はおおむねブラジルペース。スロヴァキア戦では修正されていたように見えた3バックの弱点=サイド攻撃を受けた際の逆サイドのスペース、は埋められず、5分の先制点も日本右サイドからファーサイドへのクロスを三浦・中田浩がカバーしきれなかったもの。緊張していたのか、それとも戦闘意欲が強すぎて守備の意識が薄かったのか、まだ地に足がついてない時間帯の失点だけに悔やまれるところではあった。その後も先制したブラジルは一方的に押し込むまでには至らないものの素早いプレスから中盤で日本ボールを奪い、逆サイドへのクロス・ロングパスに加えて身体能力にやや不安のある宮本の裏を狙ったスルーパスも見せ、しばしば日本ゴールを脅かした。結局前半はブラジル9本のシュートに対し、日本はたったの2本。ただし、それでも日本DF必死のカバーリングの甲斐もあり1点しか失わず、充分勝負の範囲内であったことで、日本の選手達は逆に自信をつけたようにも見えた。

 

 後半は一転日本のペース。ブラジルは守りきろうという気持ちが出たのか動きが落ち始めて受け身にまわり、逆に日本は中盤から前にパスがつながるようになり、俊輔から柳沢へのくさびのパス、あるいは三浦・酒井のオーバーラップからチャンスが生まれ、ペナルティエリア内で高原がドッグファイトを挑む姿や稲本の前線への飛び出しが目立つようになった。若いブラジル代表は焦りからか俊輔らにファウルを繰り返し、セットプレーのチャンスも度々得、その度に得点の期待が高まる。ま、結局この時間帯で点が入らないことで敗れてはしまうのだが、稲本のペナルティエリア内での切り返しからのシュートと中沢の飛び込み、ヘッドの競り合いからボールがゴールポストを叩いたシーンなどはまさに紙一重で、ブラジル相手に一歩も引かず攻めまくる日本イレブンの姿には、正直胸が熱くなった。守備陣も前半に比べればたて直し、宮本がバランスに気を遣ってDFラインの動揺を防ぐ一方で中沢が得意のヘッドでロングパス・クロスをことごとくはね返し、攻撃につなげた。

 あと一歩で同点に追いつけるかに見えた展開だったが、80分あたりからは疲労から(中2日で3試合目、そりゃ疲れるわな)日本選手の動きも落ち、0−1でタイムアップ。一方、中継でしばしば途中経過が入っていた南ア−スロヴァキア戦も1−2で終了し(後半半ばに0−2の表示が画面に出た時にはテレビの前で思わずガッツポーズ!)、めでたく予選突破が決まったのだった。試合前にはどうなることかと思っていたのだが、いや、助かった。ありがとうスロヴァキア、としか言いようがない展開だ。

 

 敗れたものの、この日の日本はよく戦ったと思うし、4年前より確実にレベルアップしていることもよくわかった。アトランタでは終始相手にボールを支配され、日本の選手・スタッフにも一部を除いて相手が格上(というか「雲の上の人」?)という意識が確かにあった。しかし今日の選手達はプレーでもほとんどひけをとらず、また試合中の態度も全く同等の相手と戦っているようにしか見えなかった。中沢とか松田なんて相手にガン飛ばしまくりケンカ売りまくりで、頼もしいことこの上ない(笑)、というのは冗談だが、選手達のプレー一つ一つから戦う姿勢がにじみ出ていて全く素晴らしかったとしか言いようがない。後半などはブラジル側が相当追いつめられているような雰囲気で、悪質なファウルを連発(中田浩が負傷したプレーなど、本当なら一発退場だ)、引きつったブラジリアンたちの顔が印象的であり、それはある意味愉快な光景でもあった。これで惜しいシュートのどれかが決まっていればなあ…。まあ、それは次の楽しみか。

 選手個人としては、中沢がとても良かったように思う。南ア戦ではズダズダにされていたがこの日は腰を低くして良くついていき、ヘッドでは競り勝ちまくり、日本側に流れを引き寄せた。特に後半相手ゴール前に上がって小競り合いをしてからはいい意味でキレたようで、この上なく思い切りの良いディフェンスでスペクタクルを満喫(笑)させてくれた。その反動からか運動量の落ちた終盤にはちぎられかけるシーンもあったが、あの程度はいいでしょう。

 あと、トルシエについて。僕はこれまでアンチトルシエを公言していたし、今でも(そしておそらくこれからも)批判的な立場は変わらない。しかし、今回の決勝トーナメント進出はスロヴァキアに助けられたとはいえ当初のもくろみ通り2勝をあげた結果であって、環境・状況の違いを考慮しても、前回アトランタで西野ジャパンが成し遂げたことと同等程度の偉業だと評価して良いだろう。そして、今回は試合前日のコメントも良かった。「明日、死ぬのなら偉大なブラジルと対戦し、わたしの哲学とやり方で死にたい」(nikkannsuports.comより)。開き直りと言ってしまえばそれまでだが、少なくともこれまでさんざん見せてきたような言い訳がましさはなかった。「哲学とやり方」とは、「攻撃サッカー」を貫く、ということだろうか。

 トルシエはおそらく、「『特定の型』を持たない攻撃サッカー」をやりたいのだろう。それはしばしば彼の言動の中に表れてるし、採用している戦術にも窺える。問題は、その構想を、結果として表れるものも含めた確固たるスタイルとして確立できるかどうか、だ(この場合の「スタイル」とは「型」とは違う)。1年半以上煮え切らないサッカーを続けたことで、僕はトルシエのサッカーをスタイルが欠如しているものと見なしてきた。だが、今回、この大舞台でブラジル相手にやり方を変えなかったことで、そしてその結果善戦したことで、トルシエサッカーはそのスタイル確立に向けてある程度前進したようにも思える。あとは、誰にも文句を言わせない実績を上げ、若い才能溢れる選手達を「別の地平」へ導いてやることだ。それができるかどうかが、彼が2002年にふさわしい監督であるかどうか、ということにもつながるだろう。ただ、彼に関しては、どうしても試合中の指揮能力がな…。平瀬と本山の投入時間・順序が逆だったら結果も違っていたような気もするんだよなあ。ああ、私自身の態度がはっきりしなくなってきた。

 いずれにせよ見事予選リーグを突破した日本代表、次の相手はアメリカだ。アメリカはグループ1位での決勝トーナメント進出だが、日本はグループ1位になっていればカメルーンと当たることになり、そちらよりはやりやすい相手であったと思う。そしてアメリカに勝てば、その次はイタリアか?ブラジルとほぼ互角に戦い、ブラジルを破った南アに勝利した日本にとって、恐れるものはもはや何もないはず。決勝トーナメント進出、あるいは(次勝ったとして)銅メダル獲得などで満足せず、ひたすら上を目指してがんばって欲しい。そう願うのみである。

 

 

2000年9月20日

シドニーオリンピック 男子サッカー予選リーグD組

 

  日本 0−1 ブラジル

 


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