J1リーグセカンドステージ第12節 vsヴィッセル神戸 2003.11.9 味の素スタジアム

 

 

 「優勝争い」について深刻に考えすぎなければ(笑)、面白いことこの上ない試合だった。

 

 キックオフ直後、試合を優位に進めたのは神戸の方だった。フォーメーションは4−4−2、中盤でボールをとるとすぐにサイドへ流れたアタッカーへ開き、それをボランチの朴が追い越していく動きでチャンスを作る。ボランチ・SBの上がり方など見ていると決まり事がいくつかあるようで、「組織的」サッカーへの志向がうかがえた。ただし、「ワンマン・アーミー」シジクレイだけはボランチの位置から比較的自由に動けることになっているらしく、相変わらず攻守の重要な場面に顔を出す。一方の東京は浅い位置でのパスミスが多く、自陣からセンターライン付近でボールをとられては宮沢・文丈の周辺からサイドへ展開され、ピンチとなる場面が何度か見られた。6分のペナルティエリア正面のFK、シジクレイの強烈なシュートを土肥が横っ跳びではじき出す。10分にはSB松尾が左サイドからこれまた強烈なシュートをはなち、土肥ちゃん今度はパンチングでCKへ逃れる。14分にはペナルティエリア内へのロングボールをジャーンがクリアしそこね、拾ったカズにゴール至近距離でのシュートを許す(土肥キャッチ)。その他にもいくつか際どいクロスがあり、茂庭が強さを見せてクリアしてはいたものの、「これはまずいぞ」という立ち上がりだった。

 しかし、そんなムードを吹き飛ばしたのは宮沢の魔法の左足だった。16分、敵陣深いところ、右サイド加地のスローインを受けた宮沢は、自陣方向へ戻りながら思いきった反転クロス!絶妙の速さと弾道でDFライン裏に落ちたボールを詰めていたケリーが倒れながら押し込み、東京あっけなく先制。1−0。東京の方はぎくしゃくしたパス回しでなかなかリズムに乗れていなかっただけに、この「飛び道具」(用意していたムーヴだろう)による一発は大きかった。また、この時、喜んだ東京の選手たちがベンチ前に走り戻って来て全員自陣に入ってしまいそうになった(全員戻って審判が合図をすると、試合再開が可能になる)のだが、すぐに戸田がセンターサークルに入って神戸の早いキックオフを防いだ。当たり前とも言えるし目立たない動きだったが、ここは断固ナイスプレーと賞賛したいところである。さすが筑波大卒(笑)。

 これで一気に東京のムードが良くなった。17分、楔のボールを受けたケリーがDFを背負いながらオーバーヘッドシュート(GK掛川キャッチ)。19分にはケリーのヒールパスから戸田が小さなクロス、ペナルティエリア内に入った石川が落とし、走り込んだケリーがシュートを放ち(掛川セーブ)、さらにこぼれ球を拾った宮沢が右足で弾丸シュートを撃つ(掛川パンチングでCKへ)。たたみかける波状攻撃。「勢いに乗る」とはまさにこのことだろう。文丈・宮沢も右へ左へ動きまくり、序盤とは対照的にチャンス量産の基点となっていた。対するヴィッセルは一転受け身に回り、チェックにかかる地点もグッと下がって、攻撃に転じてもオゼアス・カズとフォローの選手が離れすぎる。結果として後ろの方でパスを出しあぐねる姿が目立つように。1点でこうも変わるか、という感じであった。21分には、ケリーが頭で落としたボールを走り込んで拾った戸田がそのままドリブルでペナルティエリアへ突入、シュートがバー(のしかも内側だったぞ)を叩く。28分には大きな左のスペースで金沢がパスを受け、弧を描いてDFライン裏へ曲がり込むパスを送るも、戸田わずかに届かず。ここら辺で、「シジクレイが動くのはいいが、もしかしてその後のスペースを埋める方策が講じられていないのでは?」という事に気づいた。

 2点目が入ったのは30分。ケリーが右サイドをドリブルで持ち上がって朴を振りきり、クロス。ファーサイドでフリーになっていた戸田が力強く頭で叩きこんでゴールネットを揺らした。2−0。これで東京のイケイケぶりは加速。33分、戸田→ケリー→アマ→石川と位置を入れ替えながらボールをつなぎ、左サイドから宮沢がクロス、アタッカー3人が飛び込むも惜しくもオフサイドとなった。このプレーでの流れるようなパス回しにはゴール裏も大いに沸き、「セクシー東京!!」のコールが飛ぶ。神戸も32分にビスマルクがFKから、34分には松尾が再び地を這う弾道でシュートを狙うが、いずれも土肥ちゃんがきっちりセーブする。

 そして36分、神戸陣右サイドやや距離のあるFK、宮沢が蹴った勢いのあるボールはDF・アタッカーが競り合うすれすれの高さを抜け、さらにタイミングを外された掛川の脇をも抜いてファーサイドのネットに突き刺さった。みやざーの不器用ガッツポーズが飛び出す。3−0。全くもって笑いが止まらない展開だった。44分にはさすがに油断が出たか波状攻撃を浴びるも、朴のシュートを土肥がはじき、さらにビスマルクの枠内シュートに皆がフリーズする(土肥ちゃんも動けず)中ジャーンが足を出してブロック。そしてロスタイム、ケリーからパスを受けたDFライン付近の戸田がなんと!(笑)ヒールで戻し、ケリーはダイレクトでペナルティエリア内の石川へ浮き球のパスを送る。石川は超どフリーで完全に1点もの場面のように見えたが、芝に引っかかったのかなんなのか、石川はシュートも撃てずすっ転んでしまう。大勝ちの際はこんな面白プレー(笑)も楽しいもので、腹を抱えてハーフタイムを迎えたのだった。

 

 後半、岡野投入を後目に、いきなり金沢が戸田・アマラオとのワンツー連発でペナルティエリア内まで突入。もうやりたい放題な感じである。何しろ、金沢の上がりは東京にとって「ノリノリバロメーター」であるのだから(と同時に「リードサレテヤバイバロメーター」でもあるが(笑))。神戸のDFラインは引きすぎで反応もにぶいわ、戸田にスピード負けするわ、パスミスが多くて東京アタッカーの勢いを増してしまうわ、いいところがほとんどなかった。8分、ドリブルで持ち上がるケリーから金沢→戸田とつないでシュート、DFにブロックされたはね返りを石川が拾って右足一閃!!ボールはゴール左隅に吸い込まれた。4−0。さらに9分、超面白プレー(笑)が飛び出す。キレキレの動きで持ち上がるケリーから戸田へのスルーが通り、ペナルティエリア内でシュート。これは掛川がはじくも、はねたボールがアマラオの目の前に上がり、ヘディングシュート。ボールは掛川の手に当たりバーに当たって入らず、もう一度アマがシュートを狙うがDFにブロックされ、さらに混戦になったこぼれ球を戸田が拾って流し宮沢がシュート!GK正面!!「そこまで行って入らんかい!!」、と心の中で叫んだ者が味スタ内に推定1万5千人はいたと思われる(笑)。

 神戸はチェックも甘くパスも精度は低くおまけにやる気も感じられない(笑)状態で、「これは得失点差を考えればあと2〜3点はとらねば」とさえ思えた(ホントに3点とったら7−0でエライことだが)。しかし、そういう気分になった時ほど案外入らないのがサッカーだったりするのである。18分、石川がペナルティエリア左からドリブルでシジクレイ・吉村を抜き去るが、肝心のクロスはあさっての方向へ。19分、戸田がサイドを抜けゴールライン付近へドリブル、中央のアマを狙ったクロスはわずかにブレて逸機。28分にはペナルティエリアを出た掛川のクリアを文丈が足下に入れて猛然と前進、パスを受けたケリーが前に出ていた掛川の頭越しにロングシュートを狙うが、惜しくもゴールネット上であった。さらに31分、加地の鮮やかなオーバーラップからクロスが上がるが、わずかにアマラオに合わず。得点というのはホントに難しいものだ

 24分、神戸は西谷・山口を投入し反撃の糸口を探る。対する東京は五輪代表で疲れているのか動きにキレのない石川を下げ、鈴木規郎投入。圧倒的な優勢だけに、規郎初ゴールを期待する雰囲気が高まった。さらに東京は33分に茂庭OUT藤山INの交代。余裕の温存策だが、「どうせならアマラオも温存してやれってば!!」と思ったのは私だけだろうか。

 終盤は東京もさすがにまったりムード。ボールホルダーへのチェックが甘くなり、攻撃も勢いがなくなる。せっかく入った規郎までなかなかボールが回らない。一方それと反比例するように、西谷の切れ味鋭いドリブルによって死に体だった神戸の攻撃は活性化していった。34分、西谷のドリブルからDFライン裏へ出た岡野へのパスが通るが、そこはやはり岡野、シュートは枠を大きく外れた。ゴール裏は「横浜負けてる!」途中経過を選手に速報(笑)し、「もっととれ!!」と煽るが、しかし選手は体と気力がそれに反応しない様子であった。そして39分、FKから西谷がチョロ出ししたボールへのDFの反応が思いっきり遅れ、フリーの朴がシュート。ボールは詰めていた土屋の足に当たってコースが変わり、土肥ちゃんも動けずゴールイン。ちょっと集中力が欠如したような、いかにも残念な失点だった。4−1。

 3点差ならば普通は大満足の点差のハズだが、この日はなにしろ途中までの流れがあまりに「大勝」に偏っていた。まだまだ満足できないサポーターはさらなる攻撃を要求。それに対して選手がどれだけ応えようとしていたかはわからないが、しかしようやく一矢報いた神戸が前がかりになるその後ろを突いて、チャンスは再び作れるようになっていく。41分、神戸陣左のスローイン、相手の集中が一瞬途切れたところでケリーがフリーのアマラオ目がけ投げ込む。アマラオはノートラップで反転してゴール目指すが、ボールが流れてしまい掛川キャッチ。43分にはカウンターの態勢で右サイド駆け上がるケリーから逆サイドどフリーのアマラオにパスが通るも、案の定というかやはりというか(笑)シュートは枠を外れた。この時間帯もうアマラオはヨタヨタ。さらにロスタイム、またもカウンターで二対一の場面、ドリブルで上がるケリーの脇にさらに超どフリーの規郎がフォローするが、ケリーは自分で撃ってシュートを掛川の正面に飛ばしてしまう。ケリーは規郎がお嫌いか(笑)?そんなこんなで、結局4−1のまま試合終了。ちょっと不完全燃焼の気分も残る終わり方だった。

 ヴィッセル神戸は、勝てばほぼJ1残留が確定する状況であえなく惨敗し、降格の危険が残ったままとなってしまった。戦いぶりは過渡期の中途半端さというか、川勝監督時代の「一人一殺」(笑)的なマンマークとフィジカルの強さを前面に出した守備戦術からよりスマートな「組織サッカー」へ移行を図っているようにうかがえた……というところまで書いて気づいたのだが、去年も全く同じ事書いてるやん(笑)。この1年間何をやっていたんだこのチームは。もうあと3試合しかないぞ。播戸が出ていなかった事もあるのだろうが、ちょっとチームの枠組の中で個々の選手の能力がスポイルされている印象である。神戸のDFラインって、戸田にあっさり走り負けるほどヘコい選手たちだったか?ビスマルクってあんなただの繋ぎ屋だったか?朴の怖い動きはどうして継続できなかったのか?一方、唯一シジクレイだけは相変わらず前後左右に暴れまくっていたけれども、彼の大きな動きが引き金になってチーム全体のバランスが崩れてしまうようにも見えた。戦術の枷がはまっている部分は萎縮しちゃって、枷のはまっていない部分がその他の部分を崩してしまう。それに加えてモチベーションもあまり高くなさそうだし、結局毎年お馴染みの下位に落ち着いてしまっている。うーむ。サブ(西谷・岡野)の頑張りや松尾の攻撃姿勢あたりはポジティブな要素ではあろうが…。

 FC東京は、前節に引き続き攻撃力が炸裂、スコア通り神戸を粉砕した。ここ2試合の攻撃の特徴としては、ポジショニング・動きの流動性があげられる。例えば、楔のボールを受けるのも決してアマラオに偏りすぎておらず、戸田やケリーがDFライン付近でボールをさばくシーンも多かった。また、試合の流れの中で宮沢は右へ左へ進出(それを見て文丈がバランスをとる位置取りをし)、石川・戸田も自分のサイドに拘りすぎずに相手DFの穴を突く動きをしていた。そうした中で流れるようなパス回しが生まれ、速攻と波状攻撃を織り交ぜつつ相手ゴールを陥れる。もちろん守備は前に出る「攻撃的」なもので、この試合はある意味原(攻撃)サッカーのモデルケースと言うことができるかもしれない(相手のだらしなさはとりあえず棚に上げるとして(笑))。これで2ndステージの総得点はJ1トップとなったわけで、数字の方でも攻撃サッカーが実現しつつあるのは本当に喜ばしい。とはいえ、一方で浦和との優勝争い(現在、勝点2・得失点3の差)のことを考えると、後半にあと1〜2点取れれば…という気持ちも拭い去れない。後半、あと1つあった交代枠を使ってもよかったのではないだろうか。アマラオは極力休ませるべきだし、ベンチには得点と出場機会に飢えているアベ狼がいたのだから。

 個々の選手では、土肥の守護神ぶりはいつも通り、DF陣は及第点。相手の左SB(松尾)が前がかりになっていた分加地の上がりは少なかったが、この試合ではオーバーラップの必要自体が少なかった。宮沢は「決定的な場面を演出できる」位置に積極的に顔を出したのが良かった。文丈はみやざーの黒子役としてよく働いてましたな。石川はちょっと体が重たかった印象で、対照的にケリーはもうキッレキレ(ヒーローインタビューは妥当だ)。戸田はいつからあんなに色々こなせる選手になったのか(日本代表も行けるかもよ、監督代われば(笑))、「素晴らしい」の一言である。アマラオは……シュート入らないのは仕方がないよね、アマラオだから(笑)。藤山はちょっと損な役回りだったかも。あと、この試合見ていて一番気がかりだったのは鈴木規郎で、あんな中途半端な動きしかできない選手だっけ?という感じである。ボールをとって味方が攻撃態勢に入っても、どこか上がりをセーブしているというか…終盤のカウンター時はケリーを追い越していかないとパスの受け手として認識してもらえないのに。もしかして、U−20でサイドハーフとかあるいはサイドバックをやらされているのが影響しているのだろうか?ペナルティエリア付近ないしその脇でドリブル勝負してこその選手だと思うのだけれど。

 ま、ともかく、これで東京は2位に浮上!!この時期にそんな順位になったことなど昇格以来一度もないものだから、当然サポーターとしては浮き足立つわけだが、首位浦和の好調さ・上位の混戦ぶりを考えれば勝点勘定などしている場合ではなく、残り3試合本気で全勝しに行かなければならない。これはノックアウト方式と同じだ。次はアウェイのガンバ戦、準々決勝だ


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