判断による苦戦、判断による勝利。そして魔法の左足。

 

 

 最初の注目は、何といっても先発メンバーの顔ぶれだった。2ndステージに入っての由紀彦の復活、そして彼と入れ替わるようにU21代表選出でチームを離れていた石川もようやく復帰。タイプの異なる両ウイングハーフのそろい踏みに期待したファンは多かったのではないだろうか。しかし、いざ発表されてみると、右サイドには石川が入って左はいつものように戸田。由紀彦はサブにも入らず、攻撃陣は数試合前のメンツに戻ってしまった風。むしろDFの方で、ここのところ体調不良などもあった伊藤に代わってCBに茂庭が入り、ボランチで浅利が先発するという変化があった。一方のヴィッセルは川勝時代と違って4バックにし、シジクレイをCBからボランチに上げた布陣。カズや岡野の不在がいささか寂しいが、それでも平野・望月・播戸・城(控え)と並ぶメンバーはけっこう豪華であった。

 

 キックオフ。雨の降り注ぐ悪コンディションの中両チームともに中盤で強い当たりを見せるが、立ち上がりの東京は素早いパスワークからきっちりシュートまでつなげていく。1分に左サイドのカウンターから戸田が折り返して石川がシュート(GK掛川キャッチ)。5分には加地のヘディングに反応した石川が右サイドで裏へ抜け、中央からチェックに来るDFをかわしてペナルティエリア内へ進入、クロスからアマラオのシュートに至る(DFブロック)。さらに16分にも石川がDFラインの前を横切るようなドリブルからミドルシュート。ここまでは快調だった。

 しかし15分頃から、神戸の素早いプレッシングと押し上げが功を奏し始める。DFラインを高く保ってアタッカーに前を向かせずボールをカット、攻撃陣が瞬時に反応して仕掛ける。攻撃は直線的でいささかひねりに欠けるきらいはあったが、それでも東京は次第に押し込まれてCKやペナルティエリア付近での守備が増えていった。18分には茂庭の不用意なクリアミスをFWオゼアスに拾われ、シジクレイがつないで走り込んだDF北本がシュート。20分には左からのシジクレイのクロスをファーのオゼアスが落とし、CB2人の間を播戸が抜けるピンチ(土肥飛び出してセーブ)。東京もパスをつないで反撃を試みるも、緩やかにビルドアップしようとする余りアタッカーの動きが鈍り、失敗が続く。この時間帯はボールを追い越していく動きがほとんどなく、東京お家芸の速攻はどこへやら、であった。

 試合が動いたのは25分。神戸は右(東京の左)サイドにボールをはたいてキープ、藤山がつられたところでCBとの間にギャップができ、そこへ後方からボランチ佐伯が走り込んでパスを受け、茂庭の寄せも間に合わずグラウンダーのクロスがゴール前へ。ボールはDFの間をスルスルと抜けて行き、やはり後ろから走り込んだMF望月が押し込んでヴィッセル先制。タイミングの良いフォローが続いての、見事な得点。東京の攻撃が全くと言っていいほど機能していなかったことを考えると、背中に重くのしかかる1点だった。

 ところが、拍子抜けするほどあっさりと同点機は訪れた。28分、神戸陣で浅利から右サイドライン際の加地にパスが通り、そこから折り返してペナルティエリア角付近のケリーへ。ケリーがターンしてゴール方向を向こうとした瞬間に肩を押すような形で佐伯が接触、ケリーがもんどりうって倒れ、PKの笛が鳴った。アマラオが決めて1−1の同点。遠目にはやや微妙な判定にも見え、ゴール裏からは「ごっつぁんアマラオ!」の合唱が(笑)。ともあれこれで東京は勢いにのり、攻撃のスピードが一気に3倍速くらい(笑)にアップした。31分にはケリーと交差する形で中寄りに入ってきた石川から絶妙のスルーパスが出、戸田がDFライン裏へ抜け出してシュート、間一髪掛川が飛び出してセーブした。

 続く34分には前半最大のチャンスが東京に訪れる。加地からのロングボールにドンピシャのタイミングで反応した戸田が左サイドから斜めに飛び出してDFラインを置き去りにし、あっという間にGKと一対一に。戸田はよく落ち着いてGKの動きを見た上でシュート!………ドカーン!、とバー直撃(笑)。スタンドでは「んな強いシュートいらねえよ!」という声が飛んでいたのだが、リプレイで確認したら戸田はちゃんと力を抜いて狙っていた(でも外れたのだけど(笑))。とにかく「東京の時間」はこの逸機をもって終わってしまい、前半の残りは均衡した攻防に。41分にはゴールライン方向への競り合いでオゼアスに勝った茂庭が突き飛ばされて転倒、芝のない所まで転がってムチャクチャ痛そうなそぶりを見せる。マッチデイプログラムのインタビュー以来「痛がり」のイメージが定着してしまった彼に対して「痛くない、痛くない(笑)」の声も飛ぶが、ありゃあ本当に痛えだろ、いくら何でも(笑)。終了間際のアリソンの弾丸FKは、土肥ちゃんが無理せず両手パンチでCKに逃げ、結局1−1のまま前半終了。

 

 後半立ち上がり、たて続けに播戸がミドルシュートを放つなど「また悪い時間帯に戻ったか?」との予感もよぎったが、しかし先手をとったのは東京だった。4分、神戸陣右サイドで後方からの浮き球をDFと併走しながらうまく処理(彼のトラップ技術にはホント舌を巻かされる)した石川が、一旦中へ切り込んでから逆サイドフリーで待ちかまえる戸田へ。戸田はDFが寄せてくる前にノートラップでシュートを放ち、惜しくも横っ飛びの掛川に弾かれるが、CKをジャーンが掛川と交錯しながらジャーン(笑)!と叩き込む。ゴール内でDFがブロックに入ったため入ったかどうかよく見えなかったのだが、真横で見ていた副審が大きなジェスチャーでハーフウェー方向を指して、見事ゴール認定!「ありがと副審!」コールも出たが、リプレイで確認すると完全にゴールイン。よく見てくれました(注1)。

 で、「さあまたこちらの時間だ!」とスタンドは意気上がったのだけれど、東京はそんなムードに水を差すようにすぐ追いつかれてしまう。7分、自陣でチェックに入ってきた相手選手を切り返して抜こうとした加地が、もう1人詰めていた選手にボールを奪われて神戸の攻勢に。中央で縦に入ってきたグラウンダーをDF陣はカットできず、アリソンがペナルティエリア内の播戸めがけてボールをはたいてで混戦になり、こぼれ球がオゼアスの足下にこぼれてズドン!と同点ゴール。2−2。加地のつなごうとした意図はよく分かったのだけれども、濡れたピッチ状態と得点状況を考えると安全第一に行くべき場面だったと思う。しかし、両チームとも点とっちゃあすぐとられ、まるで「ゲーム運び下手さ競争」の様相であった。

 この得点を機に、しばらくヴィッセルペースが続く。8分にはタッチライン際からの茂庭のバックパスに神戸アタッカーが詰めて冷や汗をかき、12分にはシジクレイのパスを受けた播戸がペナルティエリア内でシュート、ボールは横っ飛びの土肥ちゃんの手の先を抜け、わずかに枠外へ。15分には好サポートしたDF菅原のクロスでアリソンがヘディングシュートを放つ。試合を通じてシジクレイはとにかく攻守にききまくりで、守備時には中盤で強さを見せて東京アタッカーを制圧、攻撃時には広く前後左右に動き回って味方FWをしっかり支える。昨年東スタでの試合でも神出鬼没の動きを見せられ、「いったいシジクレイは何人いるんだ!」と叫びそうになったのを思い出した。「ヤツ1人で、1個師団に相当する戦力」とか、そういうレベルである。

 しかし、さすがに後半も半ばになると神戸プレーヤーの足も止まり始め、東京もまたチャンスを作れるようになった。18分、前半は自重していたように見えた加地が斜めに切れ上がるドリブルを見せ、ファーで待つケリーへラストパス。4分とほぼ同様の場面ではあったが、ケリーは切り返して打とうとしてDFに寄せられてしまい、逸機(戸田とケリーのスタイルの違いを見たような)。19分には左へ回った石川から絶妙のアーリークロスが上がるも、必死に飛び込む戸田わずかに届かず。21分には早い寄せでボールを奪ったケリーが自分で持ち上がり、DFをかわしつつ強烈なシュートを放って掛川が横っ飛びセーブ。

 東京はいい流れのうちに一気にケリをつけるべく、23分に福田を投入(戸田OUT)し、FW専業選手の数を増やす。が、なかなか相手守備を崩しきれず、一進一退の攻防へ。24分、東京陣深くで茂庭がオゼアスに裏をとられ、ペナルティエリア内でのクロスを許す(ジャーンクリア)。28分には平野の弾丸グラウンダーFKを土肥がガッチリとキャッチ。ゴール裏からは「がんばれ福田!」の合唱。32分には加地のアーリークロスを福田が頭に当て、拾ったケリーがトリッキーな脚さばきで右に走り込む石川へパス、並行方向のクロスに福田が走り込むもわずかに合わせることができない。そして36分、ケリー→アマラオ→加地とダイレクトパスがつながり、加地は立ちふさがるDFの横を抜けるお得意の弾道のクロス、ゴール前でケリーがボレーで合わせて「すわ!勝ち越しか!!」と思った瞬間……「カーン!」とまたしてもバーを叩く音が響いてボールはゴール裏へ。39分にはFKにシジクレイがどフリーで合わせて(マークはどうなってたんだ?)心臓が一瞬停止するが、なぜか外してくれて命拾い。46分には後方からパスを受けてターンした播戸にジャーンがきれいに裏をとられ、そのままドリブルでゴール前まで運ばれるピンチ。目をつぶりたくなるような場面だったが、しかし逆サイドからすっ飛んできた茂庭が数メートルを滑る豪快なスライディングタックルで防ぐ!!結局、同点のまま90分が終了した。

 

 延長前半、早い決着を望んだのか、互いが自分たちのサポーターの方向に攻め合う形に。東京ゴール裏からは、理由は全くわからないのだが、久々に「ルパン3世」のテーマが流れる。突如始まったノリノリの音楽に「こんなのいきなり流して、最近のファンは何がなんだかわからないんじゃないの?」(笑)と笑い転げていたら、開始早々東京が猛攻を見せた。早めかつ積極的にゴール前へボールを入れようとする姿勢がありありのプレーぶり。そして開始1分もたたないうち、藤山のアーリークロスに対する神戸DFのクリアがアマラオに当たり、アマがキープしようとして混戦に。何とか土屋が足に当ててペナルティエリアの外に出したボールはぽっかりと空いたスペースに落ち、例の「三段跳びのような」大きなストライドで走り込んできた宮沢が左足を振り抜くと、シュートはきれいに転がってDFの間を抜け、掛川の横っ飛びも届かずゴール右スミへ。ちょうどゴール裏が「ひとすじーのながれーぼーしー!!」と歌い終わったその瞬間ネットが揺れ(注2)、スタンドでは様々な音色の叫び声が爆発した。宮沢の魔法の左足。ホームでの久々の勝ち星は、この上なく劇的な形で決まったのだった。

 

 試合後、選手たちはもはや恒例となった「看板越え」の挨拶。スタンドからは、横浜への復帰話も聞こえてくる石川へのコール、お約束のアマラオの「シャ〜!」、そしてなぜか(笑)茂庭の名前が連呼される。このひとときが、我々にとっては至福の時間だったりするのだ。そして気がつくと、試合前から降り続いていた雨はすっかり上がっていた。

 

 数年続いた川勝体制が終わり、ヴィッセル神戸は今ちょうど生まれ変わりつつあるところだろうか。川勝時代には昨年までの守備重視にせよ今季前半の攻撃重視にせよ、「一対一で負けない」個人勝負という側面が強かった印象があるのだが、この日はコンパクトな中盤での素早いアプローチの守備やフォローで互いを補い合う攻撃が目立ち、いわゆる「組織サッカー」というヤツに移行しているようである。流れをつかんだ時間帯における攻守の切りかえの早さは「おおっ!」と唸らされるものがあり、現在の監督はなかなかいい仕事をしているようだ。気になるのは、最終ラインがそんなに強くないことかな。攻守の要はやはりシジクレイで、全体のバランスを考えれば彼をボランチに上げたのは正解だろう。望月の復帰も大きく、今三つどもえの残留争いをしている柏・広島と比べてもここが落ちそうという感じは全くしない(優位という感じもしないが)。後は、残り6試合の相手関係だろうか。

 

 FC東京は、前節札幌を大破したとはいえ、ここしばらくやりきれない(笑)負け方が続いていたので、ホームで勝てたことはまことに喜ばしい。試合全体としては、「判断」の難しさ・重要さを考えさせられる内容だった。判断の悪さが苦戦を呼び、判断の良さが勝利を招いたというか。「悪い判断」の多くはDF陣のプレーに見られ、加地の自陣での不用意な切り返しと茂庭の不注意なクリアからピンチとなり、藤山は度々パスをカットされ、ジャーンも前に出て播戸に裏をとられた。もっと状況とピッチコンディションに見合ったプレーをしていかなければならないだろう。他方、「良い判断」とは延長での宮沢のシュートのこと。混戦からのこぼれ球に対して慌てて思い切り蹴るようなことをせず、コントロールショットで枠のスミを撃ち抜いたVゴールにはシビれた。

 はっきり不満に思えたのは、前半中頃の攻撃のだらしなさか。選手の能力が上がってボールを「持てる」せいか、どうも時間をかけすぎるきらいがある。カウンターサッカーだろうが攻撃サッカーだろうが基本は「速攻」であって、だらだら球を回し続たり、追い越さずに様子を見たりしていては点などそうは入らない。そうできないほど相手がガッチリ守りを固めてしまって初めて、「遅攻」云々という話になるのではないか。何度でも言うが、昔からの大切な武器を放棄してはいけない。

 石川は右サイドで大暴れし、もはや攻撃に欠かせない存在であることを示した。来季のことを考えれば横浜は当然復帰を希望するだろうが、本人の意思はどうなんだろう。そして、そんな石川の大活躍の陰で気になるのは、メンバーから外れた由紀彦についてだ。石川ほどの派手さはないにせよ、あれ程正確なクロスを上げられるプレイヤー、Jで他にはそうは見あたらない。何とかメンバーの中に組み込めないものかと思うのだが……石川との共存は無理なのか?また、この試合戸田は左サイドからゴール前へのタイミングの良い飛び出しで度々神戸DFを脅かした。ウイングハーフとしては物足りないが、右サイドから攻め上がる時の「逆サイドアタッカー」としての動きは抜群。ただし、それだけにあのシュートは決めてもらいたかった。アマとケリーは問題ない出来で、守備陣は既述のように課題を残した。福田は頑張っている。土肥は悪条件の下、ノーミスで通した。そして、この試合何だかんだいって苦しい時間帯にもDF(の組織)に大穴が空かなかったのは、浅利のバランス感覚が大きく貢献しているのだろう。

 この日は原監督の誕生日。重用している宮沢の決勝点は、何よりのプレゼントになったことだろう。このままノッて行きたい。

 

 

2002年10月19日 国立競技場

Jリーグセカンドステージ第9節

 

FC東京 3(V)−2 ヴィッセル神戸

 

[注1]
 ここでは喝采を浴びていた副審だが、後半44分に土屋と福田が接触して福田にイエローカードが出た場面ではファウルをアピール、一転罵声を浴びることになった。この場面、イーブンボールに2人が飛び込んで勢い余った土屋が自爆したように見えたため、「何もしてねえ選手にイエローなんて、サッカーできねえよ!」と叫んでいた者(←私)もいたのだが、後でビデオで見直したら……福田、スパイクの裏で踏んでるわ(笑)。スマンかった。
 それと、もう一つ審判で気になったのは、松崎レフェリーのカードの出し方が曖昧で、誰に警告が出たのかスタンドで見ていて分からなかったこと。それじゃあカード使ってる意味がないだろっての。

 

[注2]
 できすぎのような気もするが、本当の話である。もみあげをもうちっと伸ばせばルパン風の宮沢クン、ルパンのように賢く動き、次元のマグナムのような弾丸シュートを放ち、五右衛門の斬鉄剣のような鋭いパスを駆使するプレーヤーになってほしいものである。ついでに不二子ちゃんのセクシーさも備われば無敵(笑)。

 


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