キング健在。日立台の決闘、レイソルを下す!!
昨年初めて日立台のスタジアムで観戦した時は、本当に感激した。柏駅からのアクセスの良さ、サッカー専用スタジアムならではのピッチの近さ、「FC東京の選手・スタッフ・サポーターの皆さんを心から歓迎します!!」のアナウンス、両チームサポーター一歩も譲らぬ(笑)コールのかけ合い、そして何より実力伯仲ゆえの白熱した試合。当時は「2002年以降レイソルのホームゲームは全て柏の葉競技場」という発表がなされており、「何ともったいないことを」と思ったものだ。ところが、今季の日程が発表されてみると再び日立台での対戦。開幕前から楽しみでたまらない一戦であった。
キックオフ2時間ほど前に常磐線で柏駅に到着。同じ列車に乗ってきた東京サポーターが列をなし、駅前歩道橋の上で「た、た、か、え〜、俺の東京〜!」と歌い、「首都東京!!」と気勢をあげて人混みの中を行進して行く。地元のおばちゃんたちが遠巻きに見ながらひそひそ話をしていたが、「あれがテレビで言ってたフーリンガンてやつよ、きっと」とか言ってたんだろうか(笑)。まあ、久々に「東京サポーターここにあり!!」ってな光景でしたな。
開始40分ほど前にスタンドに到着すると、既に東京の選手が練習を始めていた。「皆さんを心から歓迎します!!」のアナウンスに続き、スタメン発表。東京は加地が足首痛でお休みということで、茂庭が先発。攻撃への影響が気にかかる。で、あとはいつも通り。連敗中の柏はサンパイオ・大野が出場停止ということもあってガラリとメンバーを代えてきた。前節動きの悪かった薩川に代えて森川。中盤には砂川・永井が入り、2トップは北嶋と加入したての元柏・現ブラジル代表エジウソン。加藤望が控えになっているのはよくわからないが(負傷か?)、永井を抜擢したあたり世代交代の意図もあるのかと思わせた。主審は岡田正義さん。バックスタンドに座った我々の目の前で何ものにも目をくれず、黙々とアップし集中力を高める姿は確かにプロフェッショナルの香りを漂わせていた。
ちなみにレイソルの選手紹介ではアナウンスが名を叫び、すかさずゴール裏が姓を呼ぶという完全分業制が行われていた。柏サポというとクラブと仲が悪いというイメージなのだが、最近はうまくやっているのだろうか。
で、お馴染みのゴール裏かけ合い勝負。今回柏側が仕込んできたネタは「二輪車事故多し!注意せよ」(笑)の横断幕(言うまでもなく、東京MF小林成のバイク事故をおちょくたもの)だった。それに対し「オレたちも大好き日立台」「移転反対」の横断幕を東京ゴール裏が出し、柏側から「ありがとう!ありがとう!」の連呼。そこで柏側が沈黙してしまったため東京側から「何かやれ!何かやれ!」。柏側がなかなか反応できないと「迷うな!迷うな!」(笑)「ぬーげ!ぬーげ!」(しかしこんなコールをせずとも、柏サポは試合が近づくとちゃんと脱ぐのであった(笑))。で、ついに柏ゴール裏から「ネタがない!!ネタがない!!」(素直な人たちだ(笑))。場内バカ受け。いや〜、楽しかった。両方ともちゃんと準備してきてるのが素晴らしすぎる。
キックオフ後、まず目についたのはエジウソンの速さ。パスを受けるタイミングで裏を狙うというよりもしっかり足下に収めてからドリブル勝負を挑むタイプのようで(昔のプレーは忘れた)、浦和のエメルソンほどの爆発力はなさそうだが、それでも元々スピードに不安のある東京DF陣(特に伊藤)だけに危なっかしい。いきなり5分には藤山が裏をとられてピンチに陥り、ペナルティエリア内の北嶋までボールが渡ったところで土肥が飛び出してようやく防ぐ。柏は1つ強いポイントができたことでそこから逆算したパス回しができるようになり、横浜戦前半のようなあてもなく延々つなぎ続けるサッカーとはひと味違った。一方の東京は、最近の傾向通り攻撃が右サイドに偏る。ケリー・石川のコンビで突破して攻め込むが、中央の厚い防御陣を前になかなかシュートを打てず、柏のDFラインがあまり高くないため戸田が裏を狙ってもGK吉田にキャッチされてしまう。攻撃になると戸田が中央に入って行き(さらに加地がいない分ケリーも右へ流れ)るため必然的に左サイドにスペースが生まれ、そこで藤山が2回ほどフリーでボールを受けてチャンスに。しかしフォローする選手が出てこないために藤山はFWめがけて可能性の低いパスを狙わざるをえず、いずれもカットされてしまった。
やや柏優位で試合は進む。17分には左FKから土肥がかぶるも、飛び込んだエジウソンが届かずノーゴール。20分にはチャンスからカウンターの体勢にもちこまれ、三対三の場面に。伊藤がスライディングタックルに入ってエジウソンに抜かれるが、シュートは土肥が何とかセーブ。22分には攻撃陣から伊藤へボールを戻したところでエジウソンにボールを奪われてピンチ。クロスをジャーンが必死のスライディングでカバーし、はね返ったところを再びエジウソンがセンタリング、砂川のシュートは土肥が正面でキャッチ。27分にはペナルティエリアすぐ外でアマラオがドリブルからFKを得るが、宮沢のキックが壁に当たって逸機した。エジウソンは東京ディフェンダーのボール回しにも果敢にプレッシャーをかけ、土肥にバックパスというスリリングなシーン(笑)が何度も見られた。
しかし30分を過ぎると柏も攻めあぐねはじめ、右に左に回して時間を浪費する「足下サッカー」が復活。吉田もパスを出しあぐねてボールをこねくり回し、東京ゴール裏から大きなブーイングを浴びる(途中からは「南!」コールも)。一方の東京は戸田がやや左に戻って両サイドに球を散らすが、ウイングハーフの2人は狙われ複数のディフェンダーに囲まれて苦戦。見ていてもう少し別のルートの攻撃、宮沢のあたりからいい展開が出ないと苦しいと思うのだが、カウンターのチャンスになっても宮沢は石川やケリーを追い越してはいけないというルールがあるのか、変にボールを落ち着かせて相手の守備陣に時間を与えてしまう。
そんな停滞を吹き飛ばしたのは、復活した千両役者だった。39分、右サイドに流れたケリーからアーリークロスが前線に上がる。柏DFラインは人数が揃っていたように見えたが、しかしアマラオは大きなステップでディフェンダーの間に走り込んで推定3mほどの大ジャンプ!頭で思いっきり叩きつけたボールはワンバウンドして横っ飛びした吉田の手のさらに横を抜け、ゴール左下スミに吸い込まれた。攻撃の行き詰まりが見えたところでの、この上もなく鮮やかなヘディングシュート。頼りになるのはやはり、まだまだ、依然として、「キング・オブ・トーキョー」なのであった。そのまま前半は1−0で終了。
開始早々ケリーが個人技でシュートまで持ち込み悪くない雰囲気で始まった後半だったが、しかしペースを握ったのはまたしても柏だった。ハーフタイムに指示があったのだろう、前半に比べて両サイドを広く使った攻撃が出るようになり、渡辺光・平山が積極的に突破を図る。5分にはエジウソンのシュートがバーをわずかに越え、7分にも渡辺から速いクロスが入って茂庭がかろうじてクリア。さらにその直後左サイドから入ったクロスをニアのエジウソンが頭ですらすと、エジウソンに引きつけられたディフェンダーの裏で北嶋がフリーになっており、北嶋は冷静にトラップするや左足の柔らかいシュートで土肥を抜いてゲットした。同点。さらに柏は両サイドからクロスを入れ続け、ある時は渡辺からのクロスを背丈のある平山が逆サイドで落とし、またある時は平山のDFラインとGKの間を狙った低いクロスに北嶋が飛び込む。が、勝ち越し点はなかなか奪えず、一時浮き足だったかに見えた東京の選手たちも再び落ち着いて攻守を組み立てるようになった。
15分を過ぎると両チームとも中盤が緩くなり始め、ボールをとると高い確率でチャンスが生まれるようになる。柏は両サイドとエジウソンのスピードでガンガン東京を押し込んで行き、東京は手数をかけない攻撃で逆襲を狙う。そんな18分、石川が右サイドでパスを受け、フォローに入りかけた茂庭と中の状況を見極めてからファーサイドへクロスを上げる。そこにいたアマラオは外へ流れながら再び信じがたい跳躍力でディフェンダーを振りきり、頭でニアを狙う。跳ぶ吉田の脇をボールが抜けていく。目の前の出来事に対して、静まりかえる柏ゴール裏。一瞬間を置いてから事態を把握し、両手を上げて飛び上がる東京サポーター。勝ち越し点は、またしてもシンプルかつワンダーなシュートで生まれた。2−1。ちなみに得点直後、東京のフィールドプレーヤーが集まって喜んでいる時、茂庭がいつもの何食わぬクールな顔でセンターサークル内に入っていたのが印象的だった。ああいう状態で、うっかりポジショニングする前に全員自陣に入った日にゃすぐリスタートされ、「キックオフ即ゴール」という間抜けな事態になりかねないのだ(センターサークルに相手選手が入っている間はキックオフは認められない)。とても20歳とは思えない(見た目もそうだが(笑))沈着なプレーだった。
25分、両チームのベンチが同時に動く。柏は全く目立っていなかった永井に代えて明神投入。東京は宮沢OUTで喜名IN。ともに中盤にフレッシュな選手を入れて機能させようという試みではあったが、成功したのはどちらかと言えば東京の方だった。明神は脚の具合も完調ではなかった様子だったし、そもそも本来ボールハンターとかバランサーといった存在であって、リードされた状況でチーム全体を攻撃的にする役目は不得手だろう。一方喜名の方は前後左右に動き回って攻守に活を入れ、東京は全体のバランスがグッと良くなった。31分には石川からDFラインのギャップに入った戸田にパスが渡り、戸田はダイレクトで右へはたく。そこへ走り込んでいたアマラオは角度のないところ、詰めてくる柏ディフェンダーをかわすようなモーションで豪快な右足シュート、ボールは吉田の手を弾いてゴールネットに突き刺さった。絶叫したくなるような(私は人目もはばからず叫んでしまった)一撃。まさかまさかのハットトリック!!上機嫌の東京ゴール裏からは立て続けにコールが飛ぶ。「かっしわ〜、かっしわ〜、東京から電車で1時間!」「首都東京!」「日本の中心!!」。
柏はさらに攻撃的にすべく砂川に代えて玉田を投入。平山とのコンビで突破を図り、全体的に柏の攻勢に。が、前半やられっぱなしだった伊藤はジャーンとうまく連携をとってエジウソンからボールを奪えるようになり、前線ではアマラオが右へ左へ動いてボールをキープし味方を助ける。決定機の数からすれば東京は互角以上に戦うことができた。40分、喜名のロングフィードを右でフリーになっていた石川が受け、中へ切り込んでシュート。GKが弾いたボールをさらにケリーがボレーで狙うが惜しくもバーの上に外れた。42分にはカウンターから戸田がディフェンダーの間に入ってシュートを放ち、僅か左に外れる。43分にペナルティエリアすぐ外から狙った玉田のFKは壁の脇を抜けゴール左スミを襲うも、土肥ちゃんが横っ飛びでファインセーブ。ロスタイム渡辺光の放った決定的なシュートもゴール左を抜け、結局3−1のまま試合終了のホイッスルが鳴った。静かにかつ速やかに家路につく柏のファン・サポーターとは全く対照的に、東京ゴール裏は元気に「移転反対!」「葉っぱはイヤだ!!」と叫んで柏サポを代弁し、さらにそこへヒーローインタビューを終えたアマラオが元気にジャンプしながら駆け寄って喜びを分かち合ったのだった。最高の夜だった。
柏レイソルは昨年西野長期政権からペリマン政権への移行という大改革を行ったのだが、ここに来ていささかチーム作りのコンセプトが混乱しているように思える。前節横浜戦の足下つなぎといい、今節のエジウソンのスピードを前面に出した戦法といい、やりたいサッカー像がよく伝わってこない。2試合とも後半敵防御にタイトさがなくなったところで両サイドを使った迫力ある攻撃が出て何とか勝負になっているのだが、ペリマンはそこのところをどう考えているのだろう。加藤望を出さなかったことといい、不可解さが残る戦いぶりだった。エジウソンはセレソンらしいドリブルのキレを見せていたが、まだ周りとのコンビネーションがとれていないので対処はそれほど難しくなかった(囲んでしまえばいい)。北嶋は相当に強くなっているので、2列目がもっとフォローに入ればポストプレーが生かせるのに、と思う。両サイド、特に平山は馬力もスピードも充分なのでもっと早い時間帯から前へ前へ行かせて武器にすべきだろう。中盤のプレーヤーは特に印象に残らなかった。DFラインは一昨年あたりに比べると相当もろい感じ。GKは……あの吉田に控えに追いやられているのだから、南は全く成長していないと見た。
FC東京は、今季初めての連勝。ここのところ3人の攻撃的MFばかりが目立っていた印象があるが、大黒柱に得点が出たのは好材料だ。それと中盤が機能しなくなったところで喜名を入れた采配はヒットだった。ベンチも含め、14人の枠で1試合を回す戦いができなければ夏場の連戦は乗り切れないだろう。守備陣も身体能力の高い相手に対してきちんと修正できるところを見せ、例えば2nd浦和戦などのことを考えると好材料だろう。ちょっと気になるのは、攻撃の方向がますます右サイドに偏っていたこと。加地の不在でケリーも右に寄りがちで、前半など全く球が散らず左サイドに広大なスペースが空いていてとてももったいない感じがしたものだ。あそこで宮沢がもう少し柔軟な位置どりでスペースを生かしてくれると助かるのだが……。
しかし、まさかまたアマラオのハットトリックをこの目で見られるとは思わなかった。最近はさすがに運動量も落ちていたし、前でボールをキープし展開する基点にはなっても得点に直接絡むことが少なくなっていた。決して言いたくはないが、「衰えたかな…」という感想は否めなかった。が、しかし。敵地で、しかも後半追いつかれる苦しい展開で3得点の大活躍。東京ファン・サポーターにとって至福の一戦だったと言えよう。石川・ケリーは相変わらずの個人技でチャンスを演出。戸田は逆サイドでチャンスになるとほぼ自動的にゴール前に現れるようになっているが、そろそろ相手ディフェンダーも読んでくるだろうから、一旦「消える」工夫が必要になってくるかもしれない。使えるスペースはいっぱいある。宮沢は……よく周りを見ているんだけど、いいタイミングで球を離せていないし、変にバランスに気をつかいすぎてピッチ中央付近から離れられない感じ。下平が後ろにいる時は前へ絡んでいって攻撃の選択肢を広げてほしい。伊藤は素晴らしい修正能力で、後半はエジウソンを抑えきった。さすがベテラン。そして、代役ながら大きく勝利に貢献したのが茂庭。脚の状態も良くなったようで終始動き回って攻守に絡み、攻めてはトリッキーな浮き球で、守ってはハードな当たりで活躍。柏の連続クロスも頭で弾き返し続けた。両足きちんと使えるし2点目の後のような冷静さも持ち合わせているし、もしかしたらとんでもない大器なのかもしれない。
帰り際、「もしかするとアマラオのハットトリックも、このスタジアムも見納めかな」と思うとちょっと去りがたくなった。柏の葉には行ったことがないが、どんなに新しく大きくてきれいなスタジアムであっても、実際にスタンドで観戦を楽しむファンの生身の感想に対しては説得力を持ち得ない。
私たちも、この素晴らしい日立台のサッカー場でずっと試合を見続けたい。
2002年8月3日 日立柏サッカー場
Jリーグファーストステージ第12節
柏レイソル 1−3 FC東京
[追記]
後半、セットプレー後のチャンスで茂庭が前に出ていた場面。代わりに石川が後ろに下がって平山をケアしていたのだが、彼らU21代表はお互いのことがよく分かっている様子でコンビネーションも良く、状況が落ち着いてポジションを元に戻す際には軽く握手。ああ、何と格好良いのだろう。2人とも今はレンタル移籍だが、先々もどーにかチームにとどまってほしいものだと切に願う。[追記2]
岡田レフェリー、プロの仕事。