優勝を争う大一番で王者に完敗…。でも、まだ次があるさ。

 

 さあ、大一番がやってきた。2001年のJ12ndステージもあれよあれよという間に日程の半ばを過ぎ、はや9試合目だ。この時点で、FC東京と首位ジュビロ磐田との勝ち点はわずか「4」。そして、いよいよ今節、磐田との直接対決となったわけである。昇格1年目の昨年も両ステージ序盤の連勝で首位にたったことはあったがいずれも一瞬の事であったし、今年の1stステージは降格の恐怖さえ味わった。そうしたことを考えれば今が出来すぎと思えなくもないが、しかしいつまでも気後れしていては東京が不動の「強豪」とみなされる日は果てしなく先になってしまうだろう。まだ2年目だろうが何だろうがここはズバリ優勝をとってもらいたいし、その過程をしっかり目に焼き付けるぜ!というわけで、小雨の降る水曜日、国立競技場に駆けつけた。

 

 千駄ヶ谷駅から何故か反対側ゲートまで誘導されたため、到着したのはキックオフ10分前。バックスタンドにつれが確保してくれていた席に着き、合羽をかぶってからあわてて夕食のモスバーガーにかぶりつく。落ち着いたところで場内を見渡してみると、スタンドはすでに3分の1ほどが埋まり、さらに続々とお客さんが入場してくる。最終的には2万2千人の入り。昨年の磐田戦(同じように水曜日国立開催で雨模様)より1万人も増えているのだから本当にありがたいことだし、これも最近の東京の戦いぶりが熱いからだろうと思う。磐田側のゴール裏も人気球団らしく多くのサポーターが来ているのだが、昨年に比べるといささか応援の声が太く低いように思えた。名波(怪我)と奥(出場停止)の不在でナナギャル・オクギャル(笑)は来てなかったんですかね。

 今回は清水戦に続いて、名古屋在住フットボール賢人森末潤一氏と一緒に観戦。森末さんは磐田ファンとのことなので、まずは名波不在の影響を尋ねる。「いや、そんなには……」との答え。「僕は藤田の方が大事だと思ってるから。名波は、良い時と悪い時の差が激しすぎるから…」。ふんふん、なるほど。つーことは……やっぱ強いんすね(笑)。

 

 キックオフ。予想通りというか、開始直後から完全なジュビロペースで試合が進む。東京は浅利が藤田にぴったりと付き、2トップは小峯・サンドロがセンターでケア。ただ、中でDFが1枚余らない守備陣形のためにどうしてもサイドバックが中へしぼり気味にならざるを得ず、両サイドにはスペースが生まれてしまう。事前の指示なのか両ウイングハーフ、特に福田が縦を切らないため、西や福西に裏のスペースを使われてヒヤヒヤさせられた(ちなみに福田はサイドチェンジのトラップをミスしたりボールを持ってもフリーのフォロワーを見つけられなかったりして、この日はイマイチな印象)。10分から15分にかけては特に東京陣での一方的な波状攻撃が続いて危ない場面が多く、西・金沢・福西らのシュートが次々と東京ゴールを襲った。ただでさえスリッピーな難しいコンディションの中、土肥ちゃんはキャッチやパンチングに大忙しである。

 そこから後もジュビロの時間が続く。「とにかく手強い」という先入観もあるせいか、ジュビロの3バック+2ボランチは適切な距離を保ち、スキを見つけるのには苦労しそうな印象を受けた。最近絶好調の藤田は浅利のマンマークのためかそれとも両サイドに生きのいい若手がいるためか、いつもに比べて前線に飛び出す頻度が低く、服部とともにパスの出し手に徹しているようにも見えた。浅利が藤田に付いていくことで福西あたりのケアが甘くはなるが、まあこれは仕方なかっただろう。この時間帯失点しなかったのはひとえにDF+GKの頑張り、特に藤山の超人的な危機察知能力による。

 前半半ばになると東京もようやくチャンスをつくれるようになってきた。突破口は、やはり右だった。23分、アマラオが右に大きくはたいた球をタイミング良く上がってきた由紀彦が持ち上がり、ペナルティエリアに入ったところでシュート。これはGKヴァン・ズワムのセーブにあったが、ここからはジュビロのボール支配は変わらずとも東京DFが慣れてきたせいか、戦いぶりが安定していく。そして31分、右サイドケリー・由紀彦・文丈のパスワークからケリーがゴールエリア脇に抜け出し、グラウンダーのセンタリング。アマが飛び込んでヴァン・ズワムと接触しながらも一瞬早く触り、ボールはゴールの中へ。沸くスタンド、そして両手をあげて喜ぶアマラオ。しかし、なぜかレフェリーはセンターサークルを指さず、FKのジェスチャー。先にボールに触ったのは間違いなく、ファウルプレーには見えなかったのだが…。確かにヴァン・ズワムにダメージはあったし、スパイクの底を見せた「危険なプレー」ということだったのだろうか。難解な判定だった。

 ここで先制点を信じていた東京側スタンドはやや険悪な雰囲気に。「殺せ!」コールが起こり、退場するヴァン・ズワムや倒れた大岩にはブーイングが浴びせられる。うーん、別にジュビロの選手が汚いプレーをしていたわけじゃあるまいし、自分たちの収まらない気持ちをそういう形で発散しようとするのは、端的にみっともないと思うぞ。

 ただ、納得いかない判定にヒートアップしたのか、東京の選手もここから目に見えて積極的になり、試合の流れは一気に東京側に傾く。ドリブルのキレるケリーのところでタメができるようになり、DF・ボランチの攻撃参加も増えた。それに反比例するかのように、代表遠征と連戦の疲れが出たかジュビロの選手の動きが重くなっていく。40分を過ぎると、東京側の波状攻撃となり、由紀彦のビューティフルクロスが連続で上がる。42分には福田の、続くCKではアマの強烈なヘッドが枠へ飛ぶが、交代で入っていた大神が鋭い反応で防ぐ(大神という男は「外れれば大ポカ、当たれば神懸かり」というGKであったが、どうもこの日は当たりだったようだ)。44分にはケリーのシュートがサイドネットのボトルを飛ばす。結局、東京優勢のまま前半終了。あそこまで行ったら1点欲しかったのも事実だが、後半に大きな期待が持てそうな雰囲気だった。つれとも、「ジュビロおかしいね」などと話す。

 

 ハーフタイム、森末さんのコメント。「両チームとも連戦で疲れてるんだね。中盤が広い。打ち合いになるのかな」「東京は前期は2−1とか1−0の試合が多かったけど、最近は3−2とか、派手だよね」「東京の右サイドはすごい。もうみーんな(そこから来ることが)わかってるのに、いいクロスが3〜4本は上がっていた」。そこで笑って、「ここで何か言うと前部書かれちゃうからなー。前回のとか見ると、僕、やなヤツじゃない」と付け加える。笑ってやりすごし(結局、書いちゃうんですけどね(笑))、前半でイエローをもらってしまった浅利の代わりの守備的な選手がサブに入っていない事などを話す。「ぜひ打ち合いになってほしいですね」なんて言っちゃったりして。実を言うとこの時は内心、前半終わり頃の様子から「1点先に取れば勝ち」などとほくそ笑んでいたのだった(甘かった)。

 

 後半立ち上がり、パッとしない前田に代わり清水を投入したジュビロは、明らかに飛ばし気味に入っていった。これはペースを取り戻すための定石と言えようが、疲労度などから長い戦いは不利と判断したようにも見えた(これも、私の見立てが甘かったかも)。ところが、前半の終盤とは逆に、今度は東京の選手の動きが重い。アタッカーと後ろの選手との距離が非常に大きくなり、広大な中盤を浅利一人でカバーしきれるはずもなく、再び試合はジュビロのペースとなった。服部からいい球が供給されて清水に渡り、福西も前へ飛び出して行く。東京のDFがシューターに群がって何とか止め続けるが、しかし「このままではやられてしまう」との雰囲気は確実に膨らんでいた。

 しかしやはりサッカーとはわからない。9分、右サイドで伊藤→ケリー→由紀彦と縦につないで後半初めての良い形。一旦ははね返されるが、文丈がクリアを拾って伊藤に戻し、浮き球がペナルティライン中央付近で待ちかまえるアマラオ目がけて飛ぶ。アマラオは頭でペナルティエリア内に流し込み、ポストに入ったケリーが横に落としたところ、猛然と走り込んできた文丈が大岩との接触にもめげず右足でゲット。のどから手が出るほど欲しかった先制点。文丈と福田、そしてアマラオがしっかりと抱き合う。スタンドはもちろん「東京ブギウギ」の大合唱。1−0。

 その後数分は超ルーズになった中盤で両チームのアタッカーvsDFが交互に繰り返されたが、14分、ペナルティエリア正面でボディコンタクトに過敏な太田主審がジュビロにFKを与える。先日見た大興奮のW杯予選を思い出し「ベッカムなら左隅に決めるよなあ」とか思ってみていたら、藤田のシュートが本当にゴールマウス左側に飛ぶ。土肥ちゃんが横っ飛びでファインセーブを決めたが、これを機に試合は三度ジュビロのペースに。得意の速いパスワークで中盤を制し、渦巻きのように動きながら相手をゴール方向に追い込んでいく。19分、ゆっくりとパス回しをした後で右サイドの西が逆サイドの中山へ大きなクロス。中山が胸で落としたところ、突如スピードを上げた金沢が後ろから走り込み、強烈なシュートをゴールネットに突き刺した。東京DFは数は揃っていたのだが、ジュビロらしい緩急のつけ方に対応できず。1−1。

 なおもジュビロの中盤支配は続く。東京側はアマラオがすでに足元が怪しく、頼みの由紀彦・ケリーも磐田鋼鉄の3バックの前になかなか前進できない。シュートの数では比べものにならないくらいジュビロが上回っていた。そして27分、東京陣深くでのスローイン。やや集中力が低下したように東京DFが棒立ち気味になったところ、やはり突如フルスピードに入った藤田がペナルティエリア内に走り込むと浅利も付ききれず、センタリングを清水が押しこんで逆転。耐えてきたところでのセットプレーからの失点、東京は大事な時間に悪い癖が出てしまった。1−2。リードしたジュビロはバックラインも含めてゆっくり大きいパス回しを意識的に続ける。チャンピオンらしい、余裕の試合運びであった。

 ここで東京は勝負に出る。まず失点直後に加賀見を投入(福田OUT)、続いて浅利を外して喜名を入れ、さらに小峯に代えて山尾を入れてきた。大熊監督にしては珍しい、短時間での、15分残した段階での3人一挙交代。この試合は、とにかく勝つしかないのである。藤田を抑えることも放棄し、東京は攻撃態勢に入った。そして2人のMF、特に喜名の投入は非常に大きい効果を生んだ。持ち味の高いキープ力と正確なパスで、一時的にせよ中盤の劣勢を挽回したのである。活気づく東京の攻め。そして34分、ハーフウェー付近右サイドでボールを受けた喜名は前方の由紀彦に渡してからダッシュ。ライン際の由紀彦はDFを充分引きつけてから内寄りに走り込む喜名にパスを通し、喜名は慌てて追いすがるDFを後目に一気にペナルティエリアに進入、マイナスのセンタリングを加賀見が懐の深い独特のフォームでゴール右上に叩き込んでゲット。2−2。総立ちになるスタンド。「行ける!逆転だ!!」。いつもの「東京ブギウギ」もなしに攻撃を後押しする応援が続く。我々東京サポーターがこの時、とても心地よい前向きな気分になりきっていたのは疑いようもないだろう。

 しかし、それも一瞬のことだった。36分、西からの何でもないグラウンダーのクロスをサンドロがカットしそこね、弾んだ球はターゲットとなっていた清水の体に当たり、よりによってゴール方向へこぼれた。前にいるのは土肥ちゃんのみ。2ndステージでシュートを外しまくってジュビロファンのため息を誘っていたはずの清水は正確に土肥の脇の下を抜き、あっという間に勝ち越しゴール。暗転。2−3。

 東京は最後の力を振り絞って反撃に出る。攻守のバランスを思いっきり崩して前がかりになった。39分、喜名・伊藤・ケリー・由紀彦がダイレクトパスを鮮やかにつないで由紀彦のクロスにかけるが、山尾のヘッドはわずかに届かずノーゴール。逆に後ろを突かれ、41分、河村のロングシュートを横っ飛びで止めに入った土肥の手からボールがこぼれ落ち、見違えるような嗅覚を見せる清水が詰めて押し込んでハットトリック達成。2−4。東京イレブンの幾人かはグラウンドに座り込み、バックスタンドでは客が席を立ちはじめた。そう、ここで勝敗は決したのだ。もはや東京DFの足はジュビロの攻撃について行かず、さらに42分、サンドロと土肥のコンビネーションミスでこぼれたボールを河村が拾い、速いグラウンダーのクロスをファーサイドにいた中山が決めて駄目押しの駄目押し。2−5。

 それでも、3点差になっても、ホイッスルが鳴るまで闘う心を失わず、東京は攻め続けた。意地とプライドをかけて。チャレンジャーであるがゆえに。最後まで。そしてロスタイム、由紀彦のクロスに飛び込むサンドロの足に当たったボールがゴール左に逸れ、DFライン裏に飛び出したアマのプレーにオフサイドフラッグが上がって東京の挑戦は終わった。

 

 試合後、森末さんのコメント。「少なくとも2−2のところまでは、今年僕が見た中でのベストゲーム。東京が一気に3人代えたとき、この試合だけでなく、シーズンとして勝ちに行ったように見えた。選手もそれをよくわかっていて、思いっきり前がかりになり、結果としてやられてしまった。実にゲームらしいゲームで、双方の駆け引きや勝負のあやが良く出た」。まったくその通りだと思う。「僕が来ると東京が負けちゃう(前回の清水戦もVゴール負け)。疫病神なのかなあ」。そんなことはないと思いますよ(笑)。

 しかし、月並みな表現になってしまうが、ジュビロ磐田はやはり強かった。決してコンディションは良くなかったのだろうが、肝心なところで持っている力を発揮した。これは経験のたまもの、というしかないだろう。ユニットで見ると、中盤と守備ラインが特に強力。大岩が入ったことで、構成力で成長を見せる服部が心おきなく前に出れるようになったのが大きい。前の方の選手が何人かいなくなっても力を維持できるのは、ジュビロの真の強さがこの3バック+2ボランチにあるからに他ならないだろう。攻撃に関しては、選手個々の能力はもちろん高いが、むしろ緩急のつけ方にやられた印象が高い。速攻と遅攻が高いレベルで調和しているのはうらやましい限りだ。鈴木監督の「こういう内容でも勝たなければいけないのがジュビロ」というコメントもすごいし、これでベストメンバー・ベストコンディションになったら一体どうなってしまうというのか。

 東京は、後半30分の時点で勝負をかけたのは決して間違いではない。しかし、同点に追いついたところまでで精一杯というのも確かなのだろう。先制点を除く失点はいずれもミスがらみだったが、最後の3点は全体として前がかりになってDFに過大な負担がかかっていたことを考えると、どの選手どのユニットというより、チーム力全体の問題と考えるべきだろう。まだ、力は足りないのだ。ただ、だからといってマゾヒズムやペシミズムに陥るべきではない。ジュビロだって初めからこんなに強いチームだったのではなく、昇格当初はいいところまで行きながら大事な試合で鹿島ら既存の強豪に敗れ、大きな壁にはね返され続けていたのだ。失望せず、あきらめず、上を目指して戦い続けることでしか階段は上れない。

 

 繰り返しになるが、もう一度この試合についてまとめよう。東京はよく戦った。しかし、肝心な所で集中力を失った。経験が浅かった。そして何より、実力が違っていた。その結果としての完敗。でも、いいじゃないか、と思う。僕たちの東京が、誰もが認める「今の」チャンピオンと覇を競うところまで到達し、あの慎重な大熊さんがスタイルを崩してまで勝負をかけたのだ。あと数歩届かなかったのは残念だが、それでも東京は最後まで精一杯戦ってから力尽きたのだ。彼らの戦う姿は美しかったと思う。だから、今はひたすら彼らを応援し続けよう。近い将来の幸運を、あるいは彼らが「次の」「未来の」チャンピオンとなることを信じて。

 試合後、スタンドで歌われる「You’ll Never Walk Alone」はいつまでも止まらなかった。青赤のマフラーは掲げられ続けた。そして雨の降りしきる中、私は言葉を失い、ただ立ちつくしていた。

 

 

2001年10月17日 国立競技場

Jリーグセカンドステージ第9節

 

FC東京 2−5 ジュビロ磐田

 


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