どうして?なんで??ホーム勝率3割の謎。
さて、敵地札幌でコンサドーレを粉砕し、FC東京が本拠東京スタジアムに帰ってきた。今季、これまでホームで行われた9試合のうち勝ったのはわずか3試合(ナビスコ杯含む)。アウェイ・中立地(丸亀)では6割近い勝率を残しているだけに、もったいないというか、歯がゆいというか、せっかく東京スタジアムが完成して平均2万人以上ものお客さんが来てくれているだけに、とにかく現状には不満が残る。今回の相手は1stステージ最終節にアウェイでVゴール勝ちしている清水エスパルス。今度こそホームの大観衆にスカッとした勝利を見せたいところだ。
試合開始45分ほど前に到着。パッと見意外とお客さんが少ない印象で、「いかん、早くも飽きられたか。新スタジアム効果も切れてしまったのだろうか」と不安になるが、キックオフ直前には1階席の半分以上が埋まり、ホッと一安心(最終的には2万1千の入り)。アウェイ側ゴール裏は清水戦らしくオレンジ一色で、大勢が揃ってリズミカルに踊る応援に東京側からも拍手が上がる。おととしの最終節の横浜国際、エスパルスがサッカーでも応援でもFマリノスを圧倒しまくってステージ優勝を決めたことを思い出す。しかし、いつも思うことだがナイトゲームで試合が終わった後、彼らはどうやって清水まで帰るのかね?またバスを延々連ねて東名高速だろうか。どうもご苦労様ではある。
バックスタンド2階席で、別な用事のついでに観戦に来てくれた愛知県在住のフットボール愛好仲間(と勝手に言って良いのだろうか)森末氏と合流。さっそく東スタについての感想を尋ねると、「いや、見やすいと思いますよ」とのお答え。そう言ってもらえると我が事のように嬉しい。森末さんからも「今日の見所はどうですか」と質問を受け、「東京は内藤を放出してしまったので、右サイドの守備がやや手薄です。アレックスを抑えきれるかどうか。また、東京は攻撃面でも右ウイングハーフの佐藤からいいセンタリングが上がるかどうかが重要。いずれにしても右サイドが鍵ですね」と答えておく。結果として予想外の展開になるのだが、まあ東京サポーターならほとんど皆私と同様に考えてはいただろう。あと、清水の大応援団と東京のゴール裏を比べて「負けてますね」と言われてしまったのはちと残念であった。
キックオフ。澤登を欠く清水は、何と市川を右SBに下げて4バックフォーメーションにしてきた。事前につれから「4バックかもしれないってよ」と聞いてはいたものの、実際やってきたのには少々驚いた。エスパルスと言えば「J屈指の両翼(市川・アレックス)のスピードと技術を生かしたダイナミックなサッカー」というイメージが頭の中に定着していたし、体調不良と伝えられていたMF戸田が結局出ていたこともあって、「たかが東京(って私が言っちゃいかんが)相手に自分の良いところを消すかあ?」と突っ込みを入れたくもなった。2ndの開幕戦で負けてるし、それだけ危機感が強まっているということなのだろうか。
いつものごとく立ち上がりからボール支配率で清水が上回り、東京陣で試合が進むことに。しかし東京側が浅利・文丈と両SBでサイドのアレックス・平松を警戒しているため「横へ開いて突破してから中へ」というパターンでは前進できず、無理矢理FWのバロンや久保山にボールを入れたところで行き詰まってペナルティエリア外から可能性の薄いシュート、という場面が目立った。戸田の不調も影響したか、「実はコイツが一番怖い」と思っていたMF伊東の効果的な上がりも少なく、エスパルス相手にしては安心して見ていられた。
一方東京は相変わらず由紀彦が好調で、明らかにサイド攻撃を警戒されていたにも関わらず、トイメンの古賀と勝負してはチャンスを作る。いきなり開始2分、アマラオがはたいたボールを受けて右サイドライン際を駆け上がり、中へ切り込んでからセンタリング(FWがオフサイド)。11分にもカウンターから由紀彦が古賀の裏へ出て好クロスを供給、GK羽田がパンチしたこぼれ球をケリーが拾ってゴール前フリーの小林に渡るが、DF森岡粘りのチェックでシュートできず。14分には小峯のアーリークロスからケリーがヘディングシュート、さらに18分にはFKのこぼれ球に小林が詰めるが、一歩及ばずノーゴール。
ところがそうしたチャンスを生かせないでいるうち、東京の攻撃も次第にトーンダウン。カウンターの態勢になるといつも通りアマラオ・ケリーに素早くボールが入るのだが、さすがにもう清水DFも分かっていてそこから右サイドへはたこうかというところを抑えにかかる。この日はサイドへのケアからか文丈の上がりがいつもより少なく、また左の小林に市川の裏を突くほどのキレがないため必然的にアマ・ケリーのドリブルに頼ることになる。で、結局カットされて「あ〜あ」となって、試合が膠着していくのだ。「サイドが鍵」とは両チームとも予想していたところであろうし、その対策の結果が0−0のすくみ合いであった。
それでも東京は39分、中盤で巧みに球をつないでアマのミドルシュートにつなげ、42分にはカウンターから久しぶりに由紀彦がラインの裏をとり、グラウンダーで中央へ折り返すがDF斉藤の必死の戻りでカットされる。44分にはアレックスのヒールパスから伊東に深く侵入されるが東京DFは複数で囲い込んでCKに逃れ、結局両チーム無得点のまま前半が終了した。
ハーフタイム、再び森末さんに感想を尋ねる。「このスタジアムは観客のプレーへのリアクションなんかを見ていても、『よくわかってる』感じで、いいと思いますよ」とのこと。うーん、そう言われるとやっぱり嬉しい。「後半、東京はどういうオプションがありますか?」という質問には「このまま無得点で行くと、攻撃的にするために浅利に代えて喜名。あと小林が足の調子が悪いので加賀見が出てくるのではないでしょうか」と答える。これは、前日の練習見学で見ていたフォーメーションでもあり、後半実際その通りになった(というか、他にオプションがない)。「清水の4バックは機能していない」という森末さんの言葉には大きく頷いて同意。
キックオフ前、東京サポーター側に来た清水GKの羽田(「はだ」、と読むそうな)に対しゴール裏から「はねだ!」とか「こっち向け!」とかからかいコールが起こる。後半が始まってからも羽田の不安定気味なプレーが誘発(笑)したこともあってコールは延々と続き、ゴールキックの際にはうなり声でプレッシャーをかける。若い子をあんまりいじめちゃいかんよ(笑)。
後半開始直後、ゴール正面でバロンを倒していきなり直接FKのピンチ。アレックスの放った強烈なシュートはバーを叩いて難を逃れる。その直後の2分には東京がCKから左へ展開、ケリーのクロスに小林が頭で合わせるが僅かにバーを越えた。8分には相手DFのブロックしたはね返りを続けて拾い、文丈から右へ開いて由紀彦がクロスをアマに合わせるが、ヘッドで放ったシュートはこれまたバーを越えた。10分には今度はバロンがペナルティエリア内でシュートを放つ(浅利ブロック)など、このあたりやはり暑さのせいなのか両チームとも中盤での防御が甘くなり、互いのゴール前を行ったり来たりするバスケットボールみたいな展開が続いた。
19分、東京は流れを変えるべく浅利に代えて喜名を投入。21分には左サイドでアマ→小林→藤山とつないだところペナルティエリア内で倒されたが、残念なことに笛は鳴らず。東京は交代以後喜名とFW・両サイドが前がかりに、そして文丈以下が慎重に引いて前と後ろが離れた形になり、バランスが悪くなったように見えた。しかしサッカーとは分からないもので、そんな時でも点が入ってしまうこともあるのだった。
25分、ルーズボールを拾った文丈がいきなりペナルティエリア目がけて突進、ケリーがこぼれ球を右に開いた由紀彦に渡してセンタリング。逆サイドでジャンプしたアマラオが頭で折り返し、真ん中で待ち受けたケリーが頭で押し込むと、ボールはゆっくりゴール右上隅に吸い込まれていった。前半にいい形を作って決められず、後半行き詰まりかけたところでゴールが入るのは昨年の川崎F戦でもあったケースだが、その時は追加点を奪って逃げ切っている。この日も東京は先制点を奪ってから一時攻撃が活性化、喜名を中心にボール回しがスムーズになり、ボールをとるやスピードに乗って敵陣に攻め入れるようになる。ただ、勢いづく攻撃陣に対し守備陣は相変わらず位置どりもラインを押し上げるスピードも慎重で、全体的にちぐはぐな感じがしたのも確かであった。
清水は久保山に代えて山崎、バロンに代えて横山と2トップを入れ替えて反撃を図る。この交代は功を奏し、31分、東京ゴール前で混戦になったところ清水は拾ってはアレックス・斉藤と立て続けにシュートを放ち続け、最後は横山が右ボレーで押し込んで同点。この場面まるでけまりのように中途半端な高さの空中でゆっくりボールが飛び交い、「ああ、クリアしろ、そこでクリア、クリアしてくれ!クリアしなきゃだめだ!ああああああ、入っちゃったー!!」というじれったさの末のゴールで、観ている側も尾を引きそうな失点だった。
逆に勢いに乗ったエスパルスは市川が「おまっとさん!」という感じで上がってきて、東京ゴールを攻めたてる。36分には再びゴール正面での直接FKをゲットし、アレックスのシュートがまたしてもバーを叩いた。東京も38分に小林に代わって加賀見を投入、39分にはケリーがDFラインの裏に抜けるチャンスを得るが、フォローが続かずシュートはGK正面に。40分にはCKから続くエスパルスの波状攻撃を東京DFが体を張った懸命のブロックで防ぐ。45分には東京が相手陣で攻勢に出るが喜名のパスがカットされ、カウンターをくらったところアレックスを倒して三度目の直接FKのピンチ。今度もアレックスのシュートがバーの上僅かに外れ(FKの度に清水サポーターも「もう少し、もう少し、落ちれば!」てな感じで悔しがったのだろうな)、結局両チームとも決定的な1点を入れられずタイムアップ。せめてナイトゲームの時だけでもやめてほしい延長戦に突入した。
延長突入時、森末さん曰く「アレックスも三度外してるから、次は入りそうですね」。一瞬何とイヤなことを言うのだろうと思ったが、実は私も同じ事を考えていた(笑)。で、さらに森末さんは「点の入り方がいかにもサッカーらしくて面白いです。東京は喜名を入れて攻撃的になったとたんに点をとって、先制した東京が守りに入ろうかどうしようか曖昧なうちに清水が横山を入れて同点に追いついてしまった」と言う。「もう東京も清水もこれ以上のオプションはなし」と二人の意見が一致したところで延長戦が始まった。
ところが延長戦、東京は交代を行うことなく、ちょっと驚くようなオプションを見せる。藤山が右SBの位置に入り、伊藤が左へ。初めはセットプレーの後の流れでそうなったのかと思ったのだが、よく見るとそのままのポジションでプレーを続けている。前日の練習で試していたかどうかよく見ていなかったのだが(まあ練習なしにいきなりはやらないだろうが)、あれはどういう意図だったのだろう。市川のオーバーラップを警戒して伊藤を左に置きたかったのか……謎だ。
東京のポジションチェンジの影響があったのかなかったのかはわからなかったが、延長戦開始直後は終盤の流れのまま清水の攻勢が続き、波状攻撃。ここは、土肥ちゃんのファインセーブで切り抜ける。東京側では、相変わらず途中出場の喜名の調子が良い。キレのあるフェイントを交えたドリブルで清水の中盤を翻弄し、3分には自らゴール前に切り込んでシュートを放つ。彼の生き生きとした動きは追いつかれた東京にとって、勝利の希望を抱かせてくれる好材料であった。
しかし試合の終わりは、かつて使われた「サドンデス」の言葉通り突然に訪れた。9分、東京が攻め込んでCKの場面、こぼれたボールを拾ってエスパルスがカウンター攻撃。貴重なチャンスに思いっきり前がかりになっていた東京の選手の戻りは遅く、アレックスが悠々とドリブルしてフィールドの真ん中を持ち上がり、右サイドどフリーの山崎へ。山崎がノープレッシャーでペナルティエリア横まで持ち上がって中を見ると、数的にも東京DFより清水アタッカーが多い。「やばい!」と思った次の瞬間、東京DFの頭を越す弾道でクロスが上がり、判断良くファーサイドに走り込んでいた市川が倒れ込みながら足先に引っかけ、サイドネットに突き刺した。あっけないVゴール。オレンジ色のスタンドから大きな歓声が上がり、FC東京は選手も、スタッフも、サポーターも、皆が立ちつくす負け方であった。
清水サポーターの歓喜の声が鳴り響く中、私は東京の選手に拍手を送り、森末さんに軽く挨拶してからそそくさとスタンドを後にした。負け試合の後のスタジアムは、つくづく空しい。
エスパルスは優勝を狙うためには絶対連敗はできないという気持ちがあったのだろう、なりふり構わぬ4バック戦術を採ってまで東京の良いところを消そうとしてきた。結局4バックはあまり機能しなかったのだが、敵地で勝ち点2を拾えたのだからゼムノビッチ監督としてはまあまあの結果が出せたというところだろう。ただ、清水サポーターとしてはいつものダイナミックなサッカーが見られないのは不満だろうし、私から見てもあの両サイドの破壊力を捨ててまで相手に合わせる必要があるのか?という気がする。長いシーズン、勝負所では「これがうちのサッカーだ」と信じて貫けるものが必要な気もするが…どうなんだろう。戦術変更が澤登不在の緊急事態に合わせた一時的なものなのか、それとも今後同様のケースがあるのか、リーグ戦の行方を占う上でもポイントになるかもしれない。
FC東京は清水側の消極性にも助けられて前半は優位に試合を進めることができたが、そこで1点もとれなかったのは痛かった。後半になるとさすがにエスパルスも盛り返してきたし、延長の最後の場面ではもういっぱいいっぱいという感じでさえあった。どこかに欠点があったというよりも、得点力・フィジカルといった部分で力負けしてしまった印象が強い。戦術云々のことは置いておいて、それなりに攻守のバランスを保ちつつ試合を進めるチームになるには、まだまだ力をつけていかなければならないということなのだろう。試合後の由紀彦のコメントを見ると、逆転負けにも関わらず「やることははっきりしてるし、調子はいい」と前向きであったのが好材料ではある。
それにしても、東京はホームで勝てない。これで今季、3勝6敗1分け。本拠地で勝率3割というのは降格争いをしていてもおかしくない数字ではないだろうか。アウェイではそれなりの戦いぶりと戦績を残し、安定して中位にいることから考えても異常ですらある。特に理由も思い浮かばないところがまたもどかしい。優勝するにはちょっとまだ力が足りないようであるし、逆に今のところ降格を心配するほどの成績でないとなれば、サポーターの望むことは自ずと限られてくる。目の前で良いサッカーを見せてくれ!ホームで勝ってくれ!!選手も監督もそんなことは分かり切ってるだろうけど、でもつい愚痴りたくなってしまうのだ。ホント、頼むよ。
2001年8月25日 東京スタジアム
Jリーグセカンドステージ第3節
FC東京 1−2 清水エスパルス