やるやらないは彼らが決める


 1月19日、ヴァンフォーレ甲府の存続問題についてついに川淵チェアマンが山梨県知事に支援要請を行った。昨年12月のヴァンフォーレによる県への支援要請が発端となったこの問題、天野知事は各方面の反応を検討した上で「とりあえず今年1年は存続させる」という方針で臨むそうだ。まあ、結局のところとりあえずはJ1昇格を目標から外して、今よりも身の丈にあった規模で(アマチュア選手を増やすとか)細々と存続していくしかないのだろう。現在、山梨県のWebサイトに「県民フォーラム〜ヴァンフォーレ甲府の経営危機について〜」と題されたコーナーが設けられている。ここではヴァンフォーレの現状に関する統計・分析・関係者談話が掲載されており、その情報量から山梨県の情報提供の熱心さには感心させられるのだが、しかしその内容を見ればヴァンフォーレの今後の見通しに関しては暗いとしか言いようがない。ホームゲームの入場者数はここ数年毎年増加しているものの、それでも2000年度はわずか平均1800人。スポンサー料を合わせても、5億円程度の運営費をまかなえずに7千万近い赤字を計上している(何でも、会場使用料の支払いも滞っているとか)。さらに累積赤字もかなりの額に上り、県が大規模な支援を行うかよほどの切り詰めを行わない限り来年の今頃にはヴァンフォーレの名はこの世から消えていることだろう。しかし、このチームとあの浦和レッズが同じリーグで戦っていたとは…。

 今回もまた、横浜フリューゲルスの一件ほどではないにしても他チームのサポーターから支援の声が寄せられているようだし、署名運動もそれなりの盛り上がりを見せたようだ。例えば上記サイトの掲示板に寄せられた意見の内訳を見ると、県内では「存続賛成265否定27」であるのに対し、県外からは「賛成346否定3」であるという(1月11日現在)。何だか、ぱっと見県外の人間の方がよりヴァンフォーレの存続を望んでいるようにさえ見える。意地悪な言い方をすると、地元に居住せず無責任・無負担な「外部」の人間は気軽に存続賛成を述べ、地元の人間としてはクラブへの追加支援が税金で行われることや不人気ぶりを重く見て慎重な態度をとる人もいるということになるのだろう。

 「外部」の人間でもヴァンフォーレという(ライバル)クラブの存続を願うのは別に悪いことでも筋違いでもないし、むしろ日本サッカーの現状(トップレベルからのピラミッド構造が貧弱すぎる)を考えれば当然の態度とも言える。ただ、Jリーグが地域密着を旗印として掲げている以上あくまでJのクラブは地域の支持・支援の下に成立し、地域に対して様々な面で還元するという形を実現しているのが大前提のはず。極端な話、もしヴァンフォーレが全国的な人気を集めているチームであったとしても、山梨県の人間が「必要ない」「我々のものではない」と思えばそれまで、存続する意義はないということになる。観客動員が全てではないにしても、平均観衆1800人(浦和戦も含んでの数字だ)のJチームが果たして「地元に愛されている」「支持されている」とまで言えるのか?もしかして地元の大多数の人間が「必要ない」と思っているかもしれないクラブについて「外部」の人間が「何としても存続させろ!」と呼びかけることが、果たして正しいことなのだろうか?難しいところだと思う。

 また、少々気にかかるのは、ヴァンフォーレから真っ先に追加支援要請を受けたのが山梨県であり、加えてそもそも主要株主の中に甲府市だけでなく韮崎市の名前もあることだ。つまり甲府市だけではヴァンフォーレを支えていくことができず、財政的に強力な山梨県や隣接するサッカーどころも含めて広域的に支えていくクラブ、というコンセプトになっている(もしくはなっていく)のだろう。が、ならばなぜ、「ヴァンフォーレ山梨」という名称でないのだろう。例えば私は東京都の港区に住んでいるが、もし「FC渋谷」なるJチームがあるとして、近い場所にあるチームだからといって応援する気になるだろうか?ベルマーレ湘南の例を持ち出すまでもなく、広い地域からの支持を受けたいと思うのならば、それなりの配慮・措置が必要になるのは言うまでもない。再建策の第一歩は、ターゲットにしているファン層に合った名称を探るあたりから始めなければならないのかもしれない。

 とまあ、何だか方向を定めずにいちゃもんをつけるような形になってしまったが、私とてこの国のサッカーコスモロジーの豊かさ・多様さを維持発展させていくために、是非ともヴァンフォーレには存続してもらいたいと思うし、ヴァンフォーレサポーターのことは応援するつもりだ。ただ、ここで言いたいことは「ヴァンフォーレの存廃はあくまで甲府市民、もしくは山梨県民が決めること」であり、「第三者である我々他チームサポーター・一般サッカーファンは分をわきまえて発言・行動すべきだ」ということ。もし度を越してしまい、「サッカークラブは絶対に潰すべきではない」「行政もとにかく盲目的に支援すべき」などということになったら、それではまるで公共工事でできた地方の無駄な建築物(美術館とかテーマパークとか)みたいではないか。そういったあり方を認めることになれば、あるいは長期的にはサッカー界に対する非サッカーファンの偏見・敵意を増幅し、この国におけるサッカーの社会的位置・意義を不安定なものにしてしまう可能性さえ考えられる。それではいけないと思うのだ。それと、ヴァンフォーレのケースはフリューゲルスの時とはかなり異なると思うし、この手の問題が起こった時すぐに「チェアマンが悪い」「チームフロントが悪い」「行政が悪い」という物言いが無条件に(もちろんそうした物言いが当てはまる場合も多々あるが)広まってしまいがちな風潮にも、ここで釘をさしておきたい。

 もう一度繰り返す。ヴァンフォーレ甲府を存続させるか否かはあくまで山梨県の人々が決めることである。我々はただ激励や情報交換により勇気と知恵をヴァンフォーレサポーターに提供することができるだけであり、それ以上差し出がましいことは言うべきではない。決して、当事者の意志を軽視してはいけない。そういうことだと思う。

 

2001年1月22日


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