J2がもたらす、高い頂


 今年も日本サッカー界にはいろいろな出来事があった。横浜フリューゲルスの劇的な天皇杯制覇と空しき消滅に始まり、「市民による、市民のための」横浜FCの立ち上げ、ユース代表が世界大会で快進撃、ジュビロ磐田の1stステージ圧勝、日本代表の南米選手権での惨敗、「史上最強」五輪代表シドニー行き切符を鮮やかに獲得、清水エスパルス2ndステージ快勝、川崎フロンターレとFC東京念願のJ1昇格、そして福岡・浦和・市原3チームの血で血を洗う残留争い…。11/24現在では年間総合優勝とJ2降格チームはまだ未決定なのだが、それにしても相変わらず、波乱万丈の1年ではあった。

 良いことも悪いこともそれなりにあった1999年だったが、しかし今振り返ってみると、サッカー界にとって非常に大きな収穫のあった1年だったように思える。もちろんそれはワールドユース準優勝だったりシドニー五輪出場権獲得だったりもするのだが、むしろそれらよりも大きかったと思うのはJリーグが全26チームに拡大したことだ。

 Jリーグが2部制を採用したことについて冷淡な見方をしている人も多い。やれ「素人経営のオンボロ球団が増えただけ」だの「チーム数が多すぎて覚えきれない。10チームくらいでいい」だの「レベルの低下した試合が増えるだけ」だのといった意見を耳にしたことがある。確かに、その手の意見にも一理ない訳ではない。プロである以上、メディアへの露出や華やかさ・試合の質が重要なのは当然なことで、チーム(それもマイナーな)が増えれば少ないパイの奪い合いにもなってしまう。僕の中にも、仙台や新潟や大分や大宮や甲府といった「マイナーな」チームを軽視する気持ちがなかったとは言えない。しかし、そういう見方をすること自体が、ある意味傲慢なのだとも思うのだ。

 先日、11/21に新潟に行ってきた。絶体絶命のピンチに陥ったFC東京の応援をするためだ。ところが、FC東京の劇的なJ1昇格シーンと同じくらい強く印象に残ったのは、新潟の人々のプロサッカーに対するひたむきな思いだった。むろん観客数はJ1とは比べ物にならない(シーズン最終戦というのにわずか6500人)。スポンサーだって、スタジアムの設備だって決して豊かではない。だが、アルビレックス新潟に関わり応援する人々は見るからに本気で、熱く、暖かい。年間18試合に及ぶホームゲームの運営は地元のボランティアも参加して行われており、スタジアムに詰め掛けた人々も若いサポーターばかりでなく、親子連れや中年夫婦・おばさんの団体といった「普通の」人々も多い。新潟の選手がいいプレーをするたびにスタンドからは惜しみない拍手が飛び、ピンチになれば耳をつんざく悲鳴が飛び交う。全国的には無名でもアルビレックスの選手は憧れの対象となり、試合後には出待ちのサポーターでゲートはごったがえし、地元誌もローカル面ではアルビレックスの近況とゲーム情報を詰め込んで支援、地元テレビ局も全国ネット番組の合間をぬって数少ない放送枠を確保するのだ。東京在住者の視点からすると、新潟と聞けば失礼ながら「サッカー不毛の地」という印象が強いのだが、いやいやおみそれしました。新潟にも、小規模ながらもプロサッカーが根付きつつあったのだった。

 そのような新潟の様子を見てしまうと、「チームの数が多すぎる」といった類のJリーグ批判は、やはり中央集権的な傲慢さに基づいているのではないかと思えてくる。確かに東京等の大都市に住んでいる者にとっては10チーム程度で行われる箱庭的なリーグの方が楽しみやすいだろう。しかし、それでは地方の人はどうなるというのか。地元の、心から声援を送れる「自分達の」チームを持つことなく、大都市球団のゲームのテレビ中継で我慢しろというのだろうか。

 以前にも書いたが、サッカーの魅力のかなりの部分は、その多様性と幅広さにある。今回Jリーグが26チームに増えたことで、新たな個性(チームも、個人も)がリーグに加わったと同時に、プロサッカーチームを身近なものとして捉えてサッカーを人生の喜びの一つとし得る人々の数は確実に増えたのではないだろうか。そして、そうした「末の広がり」が1部のチーム、さらには頂点たるJ1優勝チームに多大なステータスをもたらすことになるだろう。日本サッカーにおける喜び空間のポテンシャルを広げたことで、やはりJリーグの拡大・2部制導入は成功なのだ、と僕は思う。

 もちろん、トップレベルの選手層の厚さを保証するという意味でも、プロチームの数が増えるのは好ましいことだ。Jのチームには経営難に陥っているところも少なくないが、しかしほとんどのチームが何とか興行の世界に踏みとどまっている。そうしてプロリーグとしての試合数をキープしつづける限り、日本サッカーのレベルが急にダウンしてしまうことはないだろう。現五輪代表のレベルの高さだって、次第にプロチーム数が増えたことで優秀な選手が若い頃からトップレベルの試合に出場しやすくなったおかげとも言えるのだ(吉原宏太なんて2部の選手だし)。広い麓を持たぬ山は決して高い頂上を持つことはできない。華やかな舞台にばかり目を向けて、そのことを忘れてはならないと思う。

 

ショートカット123号掲載予定(1999年11月)


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