1999Jリーグ開幕にあたって


 3月6日は待ちに待ったJリーグの開幕戦であった。長いオフもついに明け、いよいよファンにとって至福の時期、これから数ヶ月にわたって繰り広げられる数々のゲームに思いを馳せれば、胸は期待で膨らむばかりだ。と言いたいところだが、実のところここ2,3年は開幕を迎えても喜びと共に不安やら怒りやらが沸いてきて素直にはしゃげないのである。我が日本サッカー界は昨年のフリューゲルス騒動に象徴されるように、近年非常に難しい局面に立たされているからだ。ここでは全てを語りきれないが、いくつか問題点を取り上げてみよう。

 まずはJリーグに関するマスコミの取り上げ方。情報量の少なさ自体は、もうある程度は仕方がないと諦めた。マスコミで大きな影響力を持つプロ野球一辺倒の世代が退場せねば情報過少は変わらないだろうし、今はインターネットのような新しいメディアもある。だが、偏った見方や歪んだ伝え方をするのはやめてくれないだろうか?例を挙げよう。3月7日の「朝日新聞」に「開幕戦の平均観客数は昨年より減少」という記事が出ており、それによればJリーグ開幕戦の平均観客数が昨年に比べて2千5百人ほど減少したそうである。確かにそれは事実だろう。だが、こんな数字に何の意味があるのか。一口にJリーグと言っても、浦和×鹿島から市原×福岡までカードも会場の収容人数もピンからキリまでだ。そして年ごとに開幕カードは異なる(昨年は横浜ダービーマッチというドル箱があった)。そんな中、開幕戦という任意の一試合だけを取り上げて比較しても意味がないばかりか、リーグに対する偏見を助長することになるのではないか。この例に限らず、最近のTVや新聞のJリーグ報道はまず初めに「Jリーグ斜陽」とのイメージがあって、それを補強するような情報だけが好んで取り上げられているように思う。一昨年より昨年の方が平均観客数が増えている事実などはあまり伝えられない。中田やカズではしゃいだりフリューゲルス問題でお涙頂戴する前に、もうちょっと考えてくれよ。

 次に、Jリーグを運営・経営する人々に危機感が足りないこと。野球と比べて人気で劣るくせに、サッカーはTVCMの一つも流さなくて大丈夫なのか?今年はW杯もオリンピックもないんだぞ。2月も3月もマスコミはプロ野球一色だった。Jリーグも昨年あたりから「身の丈経営」とか言いだしており、その方向性自体は間違っていないと思うが、だからといって世間に忘れ去られているようではプロスポーツとは言えんぞ。サポーターの自発的努力ばかりに任せるのでは限界がある。ともかく、日韓W杯やサッカーくじなんぞに期待するのはやめて今打てる手は全て打つべきだ(例えば、開催日程の見直しや代表に関する報道規制の緩和)。「百年構想」という遠大な理想を掲げても、来年潰れてしまったら意味がないのだ。ま、だからといってヴェルディみたいに「一試合シュート20本ノルマ」なんてファンを馬鹿にするようなことをされても困るのだが。

 もう一つ、気になる話を。昨今何かと話題の横浜市でもサッカーの市民大会が行われているが、99年度に入った現在でもまだ97年度分(!)の未消化試合が残っているのだという。理由は簡単、グラウンドが足りないからだ。Jリーグ発足以後市民チームが爆発的に増えたものの行政の無理解もあって施設は微増にとどまっており、横浜サッカー協会では必要施設の40%程しか確保できないのだそうだ。同種の問題は他の地域でも生じていることだろう。野球でも何でもそうだが、様々な理由により、中核ファンの多くを占めるのはそのスポーツのプレーを体験したことのある人々である。もちろん競技人口の多寡はプロレベルでの選手層の厚さやそのスポーツに対する社会的支援を左右することは言うまでもない。公式戦の消化もままならないのでは自然と市民レベルでの競技熱は冷め、それはサッカー自体の衰退へと直結する。Jリーグの「不振」なんぞよりこちらの方がよほど大きな危機ではないか?こういった状況に関しても報道はほとんどないし、サッカー協会会長やJリーグチェアマンが積極的に行動しているという話も聞かない。施設不足は日本スポーツ界共通の課題なのだから、ラグビー等とも一致団結してもっと市民にも呼びかけるべきだ。サッカーをやりたい人が自由にできないような国がW杯開催なんてチャンチャラおかしいぞ。これは基本的人権にも関わる問題なのだ。

 

 僕は3月6日に横浜×平塚戦を観に行ったのだが、事前の予想に反してお客さんがたくさん(3万6千人)入っていたのに驚いた。もうFマリノスはファンに見放されていると思っていたのだが、ホントに横浜の人々は暖かい。日産時代からのファンの僕も昨年の騒動にはほとほと呆れ果てたけど、この地元ファンと選手たち(特に元フリューゲルスの連中)の頑張りを見て、少しは救われる気がした。いつか、何の心配も怒りもなく心穏やかに開幕を迎えられるようになれば良いのだが。

 

ショートカット116号掲載(1999年4月1日)


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