これでいいのかスポーツ新聞


 先日8/3、東京ドームにおいてアメリカンフットボールの国際試合が行われ、日本代表が39−7で見事強豪フィンランド代表を撃破した。日本のアメフト界は60年以上の歴史がありながらも長年の鎖国体制・関西優位主義によって近年は停滞しており、逆に後発のヨーロッパではプロリーグも発足、毎年欧州選手権も開催されていて充実振りが著しい。来年にはイタリアで第一回ワールドカップも予定されている。そのような状況の中で、初めて組まれた日本代表がホームとはいえ欧州選手権3連覇中のフィンランドに大勝した今回の試合は、まさに歴史的一戦といえよう。また、この勝利は日本が体格で遥かに勝るヨーロッパの強国に勝ったということで、アメフトに限らず日本人が行う球技全般に関わる大きな教訓を残してくれた。能力で上回る相手はこちらに対し油断しがちであること、体格で上回る相手と戦うには練りに練った戦術で対さなければならないこと、情報量で優位に立つことが戦術的利点と同時に精神的余裕も与えてくれること、個々人の能力で下回りながらもチームワークを固めることにより集団として相手に勝ち得ること、そして何より「やればできる」こと。一見当たり前の事ながら実行するのは困難なことばかりだが、そのような「当たり前のこと」を完璧にやり遂げたチームスタッフには心から敬意を表したい。…と、ここまでなら全く「良かったね」で終わるところだが、問題は試合以外のところにあった。この試合のマスコミにおける扱いの小ささである。

 テレビ中継が生中継でなく、後日の深夜に録画中継となったのは、現在の日本におけるアメフト人気を考えれば仕方のないところだろう。当日夜のスポーツニュースの幾つかで試合の模様は映像付きで流れていたし。しかし納得がいかんのは翌日のスポーツ新聞の取り上げ方だ。期待して朝一番で買いに行った僕は思わずずっこけたぞ。だって、殆どの新聞で5面以降、スペースもエロ小説より小さいんぐらいなんだもん、なんじゃあそりゃ。そんなスペースじゃ試合結果と監督のコメント載せたら終わりじゃないか。上でも述べたように、今回の試合は日本球技界全体が注目すべき意義を有する一戦だったと思われるのだが、スポーツ新聞の連中はそんなことお構いなしに「アメフトだから隅の方でいーや」となったんだろうな。そんなの「報道」じゃねーよ「新聞」じゃねーよ。かりにも「スポーツ新聞」を名乗るのなら、たとえややマイナーなスポーツでもその重要な試合だけでも詳細に伝え、解説して欲しいと思うのは僕だけだろうか。今時、1つのスポーツだけに興味がある人には速報ならインターネット等があるし、詳細な情報なら専門紙を読めばいい。スポーツ新聞の存在意義は「前の日1日にあったスポーツに関する出来事を包括的に伝え、解説する」ことに尽きるのではないだろうか。現在のスポーツ新聞はどうも野球・サッカー・競馬の3ジャンルに片寄り過ぎているような気がする。「長嶋丸坊主」なんてのを1面トップにするくらいなら他にもっと伝えることがあるだろうに。

 まあ、「たかがスポーツ新聞。嫌なら読まなければいいし、内容がどうあれほっとけばいい」という考え方もあるだろうが、僕はどうもそう割り切れないのだ。なぜなら、もっと多くの人にもっと色々なスポーツの魅力を知ってもらいたいと思うから。今ほとんどの人はスポーツに関する情報をテレビか新聞で手に入れるはずだ。その2つのうちでスポーツについてより深く「説明」「解説」できるのは文字情報である新聞の方だろう。スポーツの快感は映像による視覚的なものだけ出なく、意味を付与したり仮定を置いて想像したりといった知的な部分にもある筈で、そういう領域においてスポーツ新聞の持つ影響力は大きい。スポーツ新聞がその気になればより多くの人を多様なスポーツの世界へ導ける筈だ。ああ、それなのに、それなのに…。いまのスポーツ新聞ときたら、目に入った中で一番魅力的に見えるものしか追いかけない、まるで街角のナンパ高校生のようだ(ちょっと違うか)。おまけに、ちょっと飽きるとゴミのように捨てるんだから(ラグビーやF1の例を見よ!)、タチが悪いスポーツ新聞の記者は「読者のニーズに合った紙面作り」なんていうが、読者のニーズ自体を掘り起こすぐらいの気概を見せんかい!今サッカーサッカーと騒いでいるが、Jリーグの理念はサッカーのみならずスポーツ全体の振興にあるんだぞ。競馬人気も陰りがさしてきた。野球人気も同様。サッカーだって2002年が終わったらどうなるかわからない。もしこれらの人気スポーツがそろってこけた時に、スポーツ界全体の底上げをしてパイを広げておかなかったらどうなるのか。別にスポーツ新聞がつぶれたってどうでもいいが、スポーツ観戦は僕の最大の趣味だ。僕が困る。他にも困る人はたくさんいるんじゃないか。多分。

 

ショートカット108号掲載(1998年8月15日)


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