ワールドカップ予選の最中にて
道を歩いていて頬に当たる風もだいぶ冷たくなり、季節はもうすっかり「スポーツの秋」だ。
秋に入り、松井が「ミスタープロ野球」のセコセコ敬遠援護にもかかわらずタイトルを逃したり、武蔵丸が相変わらずの勝負弱さを見せつけたり、サクラローレル・マヤノトップガンが故障引退したり、プロ野球選手の大規模な脱税が発覚したり、Jリーグから脱落しそうな企業が出そうだったり、長野オリンピック滑降のスタート地点が未だに決まらなかったり、という具合にネガティヴな話題には事欠かないスポーツ界だが、最もネガティヴな印象を与えた出来事と言えばなんといってもサッカー日本代表の絶不調と加茂監督の更迭だろう。
僕は加茂監督の就任時には手を叩いて賛成した人間であるし(あの頃は俺も若かったなあ)、今回の予選に関しても「なんだかんだ言って、何とか1位で突破できるのではないか」と、はっきり言ってたかをくくっていた。うーむ、まさかこんなことになるとは。ファンも選手も含めてサッカー関係者は皆ちょっと自信過剰であり、韓国やカザフスタンを見くびり過ぎていたようだ。僕も自分の見識不足を素直に反省します。ごめんなさい(別に誰かに謝まらなきゃいけないことは無いけど)。なんとか予選を突破して、一連のゴダゴダが全て笑い話になってくれるといいのだが。
それにしても、オリンピックや他の競技の世界大会の時と同様、今回もマスコミの過剰な楽観論と悲観論の繰り返しが目につく。例えば緒戦で日本はウズベキスタンに圧勝したが、試合前日に来日した時差ボケチーム相手に楽勝するのは当たり前、試合運びの稚拙さを考えれば決して合格点の与えられる出来ではなかった。それなのに翌日のスポーツ紙はカズを初めとする日本攻撃陣への称賛(というか過大評価)の記事で埋め尽くされていた。プレッシャーに押し潰された加茂監督の判断ミスは既にあの試合から(いや、もっと前から)顕著だったのだが‥‥。また、韓国に負けたときだって、確かにグループ1位突破のためには痛かったし精神的ショックはあったが、まだまだ挽回のチャンスはあったし、それで「サッカー界の危機」と騒ぐほどの事でもなかったろう。今この原稿を書いているのはアウェーのウズベキ戦前だが、現在でも冷静に考えれば、苦しいもののパニックに陥る程のことはない。よく観ている人ならわかるだろうが、実力どおりの結果がなかなか出ないのがサッカーという競技だ(だって、日本がブラジルに勝ったりするんだよ)。勝った時の楽観もいかんが負ける度にいちいち悲観に陥ってたら、はっきり言って身がもたない。過去の反省を踏まえつつ、常に前向きに次を見据えることが何よりも大事だ。もういい加減に、楽観と悲観の繰り返しで余裕・自信の欠如やスポーツ報道の底の浅さをさらけ出すのはやめよう。熱くなるのはサポーターだけで十分だ。もっと冷静になろうよ‥‥などといいつつ一番冷静でいられないのは僕だったりするのだが(笑)。
ショートカット94号掲載(1997年10月15日)
(注)この後、さらに冷静でいられない状況になったのは、ご存じの通り。