未来予想図


 8/19のテレビ朝日「ニュースステーション」で面白い特集をやっていた。複数の若者と中年サラリーマンに街角(前者は渋谷後者は新橋)でインタビューして各人が持つ21世紀についてのイメージを話してもらうという企画だったのだが、何が面白かったかというと、若者と中年のオジサンとでは「未来」のイメージが全く異なっていたことだ。例えばオジサンが「鉄腕アトムの世界」とか「新エネルギーの開発」とかいったポジティヴなイメージを挙げていたのに対し、若者は「地球環境の悪化」や「人付き合いがなくなる」といったネガティヴなイメージを挙げていた。うーん、わかりやすい(無論、取材者がわかりやすい例を積極的に取り上げていたこともあるのだろうが)。

 確かに今の若者は「未来」に余り大きなものを託していない。生まれ育った時代がすでに右肩上がりの時代が終わった後であることが大きいのだろう。現在のティーンエイジャーは小学校を出た頃にはもうポストバブルだったんだから、そりゃあ「今日より明日の方がいいだろう」なんて思わないわな。逆に今の中年世代は子供の頃に「バラ色の未来」を刷り込まれている人や20代にバブル期でおいしい思いをした(と思いこんでいる)人が多い。当然苦しい今よりも未来に期待したくなるだろう。この「若者悲観×年寄り楽観」という構図は、色々な問題に応用できそうだな。

 僕は石油ショック時の1974年に生まれ、94年に大学生になった時にはバブルはとっくの昔に崩壊していた世代であるから、当然(といったら言い過ぎか?)未来に対しては悲観的だ。悲観的というとちょっと違うかもしれないが、現在より未来の方がいろいろな意味で豊かであるのが当たり前、とは思わない。そういう人間の目から今回の特集でのオジサン達の答えを見ると、「お気楽だなあ」もしくは「アホか」と思ってしまう。よく学校などで校長なんかが子供に「大きな期待と希望を持って生きていきましょう」などと説教したりしているが、いったいどうやったら今の日本でそんなに大きな期待と希望をもてるというのだろう。高齢化は進み、社会問題は数限りなく、自然環境は地球規模で破壊され、税金は重く、政治家も官僚も企業も文化人も腐り果て、福祉制度も破綻寸前で、ウソつきが偉そうにしている。未来予想図がかなりブルーなものになるのも当然だ。また、問題はマクロなものだけではなく、個々の状況においても、硬直化した日本のシステムが自由な行動を阻む。システム自体を変えようと思っても、それには人々の意識から変えていかねばならないから、途方もなく時間と手間がかかる。個人ではできることに限界がある。と、そうこうしているうちに「未来」なんてものを考えること自体が面倒くさくなっていくのだ。そうした中で自分を保っていくためには、「今」をまったりと生きるというのは確かに賢い一つの生き方だと思う。

 そういえば僕の専門は政治学だが、政治家は周知の通り老人が多い。だから最近の若者の政治的無関心も政治家(老人)と若者の未来イメージないしは視線の違いによる所が大きいのではないだろうか、などと思ったりもする。実際、政治家って過剰に「未来」を語りたがる所がある。「私どもが明るい明日の日本を作ります」みたいな。今度の総理も同じ様なことを言ってたな。彼らはまだ世の中右肩上がりだと思ってるのかな。また、政治家にとっての理想の若者像は、期待に胸膨らませた「清く正しく美しい」「青年の主張」(笑)的なものだったりする。若者にしてみれば、やたら「未来」を語り、自らの理想像を押し付けるくせに一方で将来世代に負担を押し付けまくる政治家など不信の対象でしかないのだろう。将来どうなっても良い訳ではないが、不透明な「未来」を語るよりは今日をいかに楽しく生きるかの方が重要ということでしょう、要するに。

 まあこんなことを言いつつも、僕はけっこう社会改良的な方向に関心が強かったりする。未来が明るいとは限らずむしろ暗い可能性が大きいのかもしれないけれど、とりあえず世の中を良くするためにできることはしておきましょうか、みたいな。元気ハツラツ油ギラギラなオジサン(理念型)には「おめーには理想がねーのか」と言われるかもしれないけれど、明日の百歩よりも今日の一歩。一人一人の心がけの変化がじわじわと世の中を変えて行くのさ。本当かよ(笑)。

 これを読んでる皆さんは、どんな未来イメージをお持ちでしょうか。カッターの人たちの未来イメージなんて、興味あるなあ。今度アンケートでもしてみようかな。カッターといっても色々な人がいるから千差万別になるかもしれないが、もしかしたら共通の傾向が見いだせるかもしれない。ショートカット別冊「未来予想図」なんてのも面白そうだ。もちろん、発行は2001年1月(笑)。

 

ショートカット109号掲載(1998年9月1日)

 

 

(注)これを書いた時点では2001年1月はまだ先のことだったんだなあ。


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