ジョニー黒木を生観戦!痺れた、惚れた!!いいぞマリーンズ!!!

 

 

 GWまっただ中の5月4日、「GWくらい外出しなきゃ」という日本人的強迫観念と「メッセで行われている『ペット博』に行きたい」という我が連れの強い希望に背中を押され、幕張に出かけた。で、はるばる幕張まで行ってただわんこにゃんこを見るだけではもったいない、ということで急遽千葉マリンスタジアムでプロ野球を観戦することに。カードは千葉ロッテ×オリックス。ここ数年夏はサッカー冬はラグビーという生活を続けている私にとって、数年ぶりの野球生観戦である。確か最後に見に行ったのが東京ドームの日本ハム×オリックス戦で、イチローが連続無三振記録を作った試合、と言えばわかる人にはわかってもらえるだろう。

 前日、パ・リーグの公式サイトで予告先発をチェック。「ロッテ 黒木」の表示。よしよし、大当たり。どうせロッテを見に行くのなら、そりゃあジョニーが見たいよね。ロッテの他のピッチャー、誰がいるのか知らないし。この予告先発のシステム、ファンにとって観戦予定を立てる上で便利なのはもちろん、チーム側にとっても集客力のある投手の時に確実に客を呼べるという意味でまことにありがたいシステムのように思える。どうしてセ・リーグではやらないのだろう。いつもほぼ満員の巨人等には関係ない、ということなのか。

 試合当日、新木場から急行「マリンドリーム号」に乗って海浜幕張駅へ。駅前にはロッテリアとマリーンズオフィシャルショップがあり、往年の名選手の写真やオリオンズ時代の優勝フラッグが飾ってあった。「三冠王 落合博満」なんて、私の世代にとっては涙が出るほど懐かしくも輝かしいオリオンズの記憶である。午前中幕張メッセで『ペット博』を楽しんだ後、徒歩で球場に向かう。チケットおよび席の確保に関しては「ガラガラだろう」「のんびり海の見える所を選ぼうか」などとたかをくくっていたのだが、我々を追い越していくシャトルバスにぎっしり人が詰め込まれているのを見てちょっと焦る。メッセのすぐ裏、だだっ広く長い直線道路(ずっと先に「ザウス」が見える)を渡ったところで球場の姿が見えたが、今度は係員の女の子がマイクで「内野指定席売り切れ」「外野席ライト側満席」と叫ぶ声が聞こえてきた。むちゃくちゃ焦り、自然と早足になる。どうも馬鹿にしすぎていたらしい。まあGWでしかも黒木なのだから客が入るのも当然と言えば当然なのだが、何しろパ・リーグと言えば1人で2〜3個の席を占有して悠々観戦した記憶が抜けなくて…。

 三塁側内野自由席のチケットを買い、13番ゲートから入場。ライトスタンドはレプリカユニフォームを着込んだロッテファンで既に真っ白だ。野球の応援団と言えば少数のハッピを着た人たちが音頭をとってあとは同じ色のメガホンをみんなで振って…という光景を思い出すが、ロッテのファンは鳴り物もあまり使っていないようだし、どちらかと言えばサッカーのサポーターに近いような印象を受けた。一階席後方ポール近くに席を確保し、球場全体を見渡してみる。千葉マリンスタジアムは約3万人収容で東京ドームに比べると規模が小さく、実際に見た感じもコンパクトだ。グラウンドは両翼99.5mで公認野球規則の条件を満たす広さだが、ファウルグラウンドが狭くスタンドの傾斜を急にしてあるため選手のプレーは近くで行われ、とても見やすい。急傾斜のグラウンドは球場内を外部から遮断して独特の雰囲気を作りだす効果もあり、観るスポーツとしての野球をはっきり意識した構造になっているようであった。そうした観察をしている間にも続々とお客は入場し、プレーボール直前にはほぼ満員になった。

 事前の調査でマリーンズの試合日には「ジョニ黒弁当」なるものが販売されるとの情報を得ており、是非とも入手すべくスタンド下の売店に走ったのだが、売り切れなのかたまたまこの日販売されていなかったのか三塁側には置いていないのか、残念ながら実物を確認することはできなかった。情報によればこの弁当、黒木の顔写真入りパッケージで中身は「剛速球をイメージしたうずら」「折れたバットをイメージしたウインナー」など非常に凝ったものらしい。これは、もう一度この球場に足を運んでこの目この舌で確かめてみねばなるまい。

 スタメン発表。うーむ、実に地味なメンバーだ、両チームとも。ロッテは1番小坂3番福浦6番初芝など渋いと言えば渋いメンツなのだが、8番立川あたりになると「?」。9番サブローもちょっと浮いていてイタい。オリックスも大島や田口はおなじみだが、7番五島、8番相川、9番日高。うーむ。イチローが抜けた後最も有名な選手が谷だもんな…。まあそれでも世間一般的に見ればFC東京イレブンほどの「それ誰?」度ではないだろうが、プロ野球界の貧富の格差について考えさせられる瞬間であった。

 プレイボール。黒木はいきなり先頭の大島にセンター前ヒットを打たれたものの、続く塩崎の送りバントを冷静に捌いて二封。以後、ぐんぐん調子を上げてオリックス打線を寄せつけない。スピード的にはストレートが140キロちょいで大したことないのだが、バッターが「手が出ない」という感じで見送ってストライクになることが多い。おそらく球離れが遅いということなのだろう、ボールが終始低い弾道を保ったまま伸びてミットに吸い込まれていく。時たま投げるカーブも速度差があって効果的。そして何より、黒木の持つ独特の雰囲気。味方の攻撃が終わると小走りに守備につくナインの最後方をゆっくり歩いてマウンドに上がり、投球間隔短くしかしゆったりとしたフォームで投げ込んでいく。田口の大飛球(僅かにファウルでフェンスオーバー)にも、気にするそぶりは全くなし。賑やかな球場も、ジョニーの周りだけは静寂になっているようだ。「これぞエース」といたく感心させられた。つーか、惚れた。一方、オリックスの先発小倉も好調。1回に福浦のタイムリーで1点を失ったものの以後は連打を許さず健闘、投手戦に持ち込んだ。

 それにしても、ロッテファンの声援は熱い。ライトスタンドのみならず三塁側も含めて球場全体がマリーンズびいきで、オリックスファンはレフトスタンドのさらに片隅に押し込まれている。はっきりとホームスタジアムの雰囲気。「国民的球団」などとほざいている某球団の東京ドームでの試合でもこうはいかない。いいぞ、千葉県民。ライトスタンドのレプリカ軍団も、変なラッパを吹いたりせず声で勝負しており、好印象だ。一時期メディアでもてはやされた白いタオルを振り回す応援は見られなかったが、やはり某在京球団の応援団にパクられたので恥ずかしくなってやめたのだろうか。賢明な判断である。

 また、さすがプロ野球だけあって観客を楽しませることには心を砕いているようで、お約束の小学生による始球式に加え、5回終了後のグラウンド整備時にはおなじみの『ヤングマン』が流れ、マスコットと一緒に「Y〜、M、C、A!」の踊り。そして7回裏の攻撃前には、出ました『Take me out to the ball game』の合唱(歌詞の一部をさりげなく「マリーンズ」と変えてあった)!そしてみんなでジェット風船を空へ放とう!!「何だ、大リーグと阪神のマネじゃねえか」などと言ってはいけない。良いものを取り入れて楽しんでもらおうという主催者の姿勢こそが大事なのである。あと、マリンスタジアムのスピードガン(バックスクリーンの大型ビジョンに表示)、これが面白かった。確か昔の神宮球場などでは「145km ストレート」と「球速+球種」の表示だったが、ここでは「球速+ロッテ製品の広告」になっていて「123km キシリートルガム」「141km お口すっきり!!」「150km コアラのマーチ」といった表示が妙に笑えた。

 好投の両投手はそのまま6回まで相譲らず、1−0の局面が続いた。いわゆるスミイチというやつである。黒木は怪我明け久しぶりの登板でスタミナには不安がある。一方のオリックスは仰木監督だけに接戦・継投になると強そうだ。せっかくの雰囲気を台無しにしないためにも頼むぞロッテ打線……と思っていたら、6回裏、突如ボーリックがセンター方向に強打。私の席からはギリギリ届かないように見えたのだが、上空を巻く風にも乗ったかボールは意外に伸びてフェンスを僅かに越えた。大歓声。今シーズン第7号のホームランで、2−0。黒木にも他のナインにも心理的な余裕をもたらす意味で、このホームランは大きかった。オリックスはその後山口(剛速球は150キロを記録)→田村(印象なし)とつないでそれ以上の追加点は許さなかったが、ロッテも黒木が終盤コントロールに苦しみながらも勝負所で集中力を見せて8回を零封。最後ストッパーの小林を出して逃げ切り、ゲームセット。マリーンズが地元の大観衆に応える結果になった。個人的には(おそらく多くのロッテファンも同様だろうが)黒木の完封を見たかった気もするが、さすがのジョニーも7回からは明らかに球が高く浮くようになっており、復帰戦であることを考えれば妥当な継投だろう。

 帰り道、球場の外へ出ると駐輪場に大量の自転車が並んでいた。地元の人が休日に気軽な気持ちで「おらがチーム」の応援に来る、これこそが地域密着の証か。移転から10年かけて、千葉ロッテを取り巻く現実は少しずつ理想と理念に近づいているのだろうか。正直なところ千葉ロッテマリーンズと言えば、バレンタイン監督・山本監督のおかげでやや改善していたとはいえ、「ガラガラの球場」「万年最下位」「つまらない野球」というイメージだった。実際に自分の目で見ると、そうしたものの多くが先入観に過ぎないことがよくわかる。少なくともこの日、千葉マリンスタジアムは地元ファンの熱気のおかげで他のどのエンターテイメントにも劣らない魅力的な空間になっていた。近頃メディア上では「巨人が強すぎてプロ野球がつまらない」という意見をよく聞くが、そうしたものの見方こそ巨人中心主義の産物に他ならない。湾岸幕張では、プロ野球の、パ・リーグの灯は消えていない。千葉ロッテも球団としてはスター不在に赤字経営と苦しいことは確かなのだろうが、ぜひともこの日のような喜びの場を維持し、いつか大輪の花を咲かせてもらいたいと思う。東京都民の私だが、これからも心の中でマリーンズを応援させてもらうことにしよう。

 

2001年5月4日 千葉マリンスタジアム

プロ野球パシフィックリーグ

 

千葉ロッテマリーンズ 2−0 オリックスブルーウェーブ

 


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