二強譲らず。屈指の好カードはスコアレスドローの決着に。

 

 

 毎年のように位置づけが物議をかもし、見直しが叫ばれるラグビー日本選手権。今年も案の定大学4チームが揃って大敗を喫し、大会自体の権威さえも揺らぎつつあるように見える。しかし幸いと言うべきか、決勝戦の組み合わせは今現在最もファンの関心を呼ぶであろうカードとなった。片や、萩本ヘッドによるチーム改造を経て昨季復活を遂げ、今季も接戦続きの社会人選手権を制した王者神戸製鋼。そして対するは、土田ヘッドの導入した豪州流継続ラグビーにより数年来の不調から立ち直ったサントリー。ともに日本代表級を数多く揃えるスター軍団であり、また戦術的にバックスの展開を得意とする両チームでもある。さらに、社会人選手権の対戦ではサントリーが神鋼をあと一歩という所まで追いつめながら、ロスタイムに再逆転を許して涙をのんだことも記憶に新しい。「リベンジ」という言葉はもはや手垢が付いた感もあるが、好ゲームの予感は確かに試合前から漂っていた。

 前半立ち上がりは、神鋼の動きの良さが目立った。2分、左サイドのモールから右へ展開、CTB元木が縦にゲインを切って捕まった後、素早い球出しからSOミラー→CTB大畑と渡り、大畑がディフェンスをはね飛ばしながら右中間にトライ。さらに連続攻撃で押しこみ続け、12分にはサントリー陣でのターンオーバーから左ブラインド、タッチライン際をWTB平尾が華麗にステップを切って抜け、ゴール前で倒されたもののフォローしたSH苑田がトライ。この時点で12−0。非常にあっさりと得点した印象。サントリーはいつも通りラック連取からの展開で相手ディフェンスに穴を作ろうとするが、神鋼のDFライン構築は速くかつ隙がなく、結局人数不足からターンオーバーをくらうという悪循環に陥り、守備時にも浮き足だってオフサイドが目立った。一方神鋼は強風のためかラインアウトでミスが続いたものの密集のうまさは相変わらずで、安定したボール出しでバックスの攻撃力を生かすラグビー。ここまでの様子は全く前回対戦時と同じで、少なくともフィットネスに問題のない前半のうちは神鋼がひたすらトライを重ねていくかに思えた。

 しかしここからは、社会人選手権とは全く異なるゲーム展開になっていく。15分を過ぎたあたりからサントリーはなかなかゲインを切れないじれったい展開にも我慢して球を出し続けられるようになり、17分、SO沢木が切り込んで作ったポイント脇、相手チャージをHO坂田がセービング。SH永友が持ち出してパスダミーで相手DFを振り回しつつWTB北條に回し、左隅にトライ。12−5とし、反撃開始。その後しばらくは両チームとも相手ディフェンスを突破できず一進一退の攻防が続いたが、31〜32分、サントリーは自陣ゴール前のピンチからもしぶとくボールを継続させてハーフウェー付近までじりじりと前進、根負けしたように密集近場で神鋼DFラインに空いた穴から永友が抜け出し、きっちりとDFを引きつけた上でフォローのWTB福田にパスして左中間にトライ。12−12。いかにも今季のサントリーらしい粘り強い攻撃が実を結んだこと、また疲労から神鋼DFラインにほころびが見え始めたことで試合のペースは俄然サントリーに傾いたように思えた。37分には神鋼陣でのマイボールスクラムからの左展開でCTBウルイナヤウ・坂田がゲインを切ってたて続けにアタッキングラックを形成、さらに展開し神鋼DFが慌てて順目へ流れたところで沢木が方向転換、脇に走り込んできた北條がDFラインにぽっかり空いた穴を駆け抜けて独走トライ。12−19。前半終了間際は一方的なサントリーペースで、後半風上、しかもフィットネスでは完全に上回るサントリーの圧勝の雰囲気さえ漂ったまま、ハーフタイムに突入した。

 ところが、後半の展開もまた、社会人選手権とはまったく異なる様相を呈したのだった。神鋼はそれまでのバックスのユニット・スキルを中心とした大人びた戦術をガラリと転換し、長いパスでボールをとにかく早く大外・逆サイドへ運んでいく戦術を徹底してきた。これがピタリとはまり、神鋼は立ち上がりから完全にペースをつかむ。確かに、整然とグラウンドの幅全てを覆う神鋼のDFラインに比べてサントリーの守備網は苑田・ミラーへの警戒から近場に厚い印象で、この戦術転換は実に理に適っていたと言えよう。まずは4分、サントリー陣中央付近のラックから右へ展開、完全に余ったと思われたバックス攻撃はトライには至らなかったもののそこから今度は左サイドへ大きく展開し、元木からの飛ばしパスが大畑に渡ったところでサントリーがたまらずオフサイド。PGをミラーが蹴り込んで15−19。続いて次のキックオフ、得たボールを神鋼は左サイドから右→左→右→左→中央→左と何度もサイドを変えて大きく振り回し、平尾・ミラー・アングレッシーの突破を交えてゴールラインまで一気に前進、最後はミラーからフォローの八ッ橋に渡って左隅にトライ。見るからに大胆な揺さぶりから神鋼が逆転し、20−19。一連の攻撃は決して華麗ではなかったが、多少の乱れも構わずパスで相手を振り回そうとする意図が徹底され、神鋼の「チームとしての力」が明確に感じられて印象的だった。

 次のキックオフからの連続攻撃で得た好機を神鋼がコラプシングの反則で逃し、一時的に試合の流れが均衡。20分にサントリーが永友のPGで22−20と再逆転するも、両チームに疲労とミスが目立ちはじめ、サントリーも前半のようには攻撃を連続できない。そんな膠着状態を破ったのはやはり神鋼で、30分、サントリー陣わずかに入ったところの左スクラムから右へ展開、ミラー→元木→逆サイドからライン参加した増保とテンポ良くパスが渡ってゲイン突破。ラックからの右展開でタイミング良くライン参加した八ッ橋が抜けて右中間にトライ。神鋼の再々逆転で、27−22。さすがは神鋼、前半のバテバテぶりからは想像もつかない集中攻撃で再びリード。後半になってからの神鋼のペースづくりの鮮やかさ、そして両チームの経験値の差からしてここで点差以上の傾きがあったように僕には見えたし、試合を見ていた多くの人がそう思ったんじゃないだろうか。実際、サントリーも30分を過ぎたあたりから苦し紛れのキックなど消極的なプレーが目立ち始め、三度の逆転は非常に困難に思えた。勝負あったか?

 しかし、勝負とは実に分からないもの。36分、神鋼陣10m付近でサントリーが右に展開。人数は余っておらず、頼みのウルイナヤウもプレッシャーを受ける前にあっさりとFB吉田にボールを渡してしまいチャンスが潰えるかに見えたその瞬間、吉田のトイメンはなんとPR中道。吉田は迷わず勝負し、スピード充分のスワーブで中道を抜き去ってトライ。27−27。後から考えてみればウルイナヤウのパスは神鋼DFの配置をよく見た上での判断だったのだろう。それにしても、この場面でよくああいうマッチングになったもんだ。ラグビーの神様も実に面白いことをするものである。この後、サントリーが怒濤の攻めを見せるも、神鋼が粘って粘ってしのぎきり、43分に永友が単独優勝の夢をのせて狙ったPGが右へそれ、タイムアップ。「因縁の」対決、現代日本ラグビーの頂上決戦は引き分けの両チーム優勝という結果に終わったのだった。

 サントリーは、前回の対戦および社会人選手権全般の課題をよく修正して試合に臨んできた。1月には「ただCTBに球を渡すだけの人」だったSO沢木は自らの突破にも意欲を見せるようになり、相手DFを引きつけてバックス攻撃の有効性を増した。ミラー・苑田の突破には十分な注意を払って近場のDFを厚くし、容易に縦突破を許さなかった。また、キックもそれなりに用いて「馬鹿の一つ覚え」的継続戦法からも脱皮したように見える。この1ヶ月間で熟成度はグッと増し、選手権を争うによりふさわしいチームとなったように見えた。この日は後半途中から思うような継続ラグビーが出来なかったが、神鋼相手に前半からとことん競った試合であったことを思えば、チーム作り1年目としては仕方がない部分もあるだろう。それよりも単独優勝できなかった要因としては、「決定力」の無さが挙げられる。今のようにトライを取る得意の型がない状態ではフィットネスで相手をねじ伏せるしかないわけだが、それでは神鋼のような老かいなチームを相手にした時には決定的な優位に立ち得ない。サントリーラグビーのプロトタイプであるACTブランビーズにはラーカムという「世界一抜ける」SOがおり、決定力に大いに貢献しているわけだが、果たしてサントリーはどうするのか。神鋼のようにバックスのユニットとしてのスキルをより磨いて行くのか、それともウルイナヤウや大久保・坂田のような突破力ある選手をより効果的に使っていくのか。別に二者択一というわけではないだろうが、来季は慶応から栗原・浦田が加入することを考えると、後者に偏って強化していくのも面白いように思える。

 神鋼は、相変わらずの強さだ。特に、ここぞというところでの集中力・攻撃技術の精度は抜群で、後半になって攻撃の狙いを大外に絞って徹底してくるなどの対応力もさすがである。元々WTBの大畑をラグビーの性質の変化に応じてCTBに持ってきた策も、攻撃力の向上に大いに役立っており、萩本ヘッドコーチの眼力の確かさがうかがえる。単独優勝できなかった要因はやはりフィットネスで、特にFWのそれで劣ったことが挙げられるだろう。ボール保有率はともかく、目に見えて圧倒されたのは前半および後半のラスト10分程度だけであった。惜しいとも言えるし、逆に言えば、その割に(前回の反省を踏まえて)うまくペース配分し最後まで切れずに引き分けに持ち込んだとも言える。ともあれ、フィットネスを除けば試合運びの卓越性等、チームとして完成しつつあるように見えるのだが、これから伸びしろがあるのかどうかは問題だ。さて、来年はどうするのだろう。

 この試合、両チームともにそれなりのミスはあったし、技術的に最高の試合とも思えない。しかしながら、私はあえて「いい試合だった」と断言してしまいたい。それは、もちろん単に接戦だったとか徹底したランニングゲームが見れたとかいうこともあるのだが、両チームが社会人選手権での対戦や試合そのものの状況を踏まえて勝つための修正を施し、対応策を立ててゲームに臨んだことが明白で、それがまれに見るシーソーゲームをもたらしたように思えたからだ。「試合→反省(試合からのフィードバック)→修正・改善」というサイクルこそはチームを強くし競技レベルを向上させていく上での基本である。しかしながら日本ではトップレベルのチームでも試合数は非常に少なく、上記のサイクルの作動する機会が限定されてしまっている。そうした状況の中で、この日の2チームが1月の対戦時に比べてもより進歩したゲームを見せてくれたのは、大いなる喜びだった。こうして考えてみると、「再戦の意義」というものは非常に大きく、その機会をできるだけ増やすためにも社会人選手権の他に日本選手権を設けることには意味があるように思える。やはり日本選手権は、改善しつつも断じて続けるべきだ。個人的には、より規模を大きくして(学生も社会人Bクラスとの対戦からスタートさせることにより挑戦の場を維持する)サッカー天皇杯方式をとり、高いレベルでの対戦を増やして日本ラグビーのレベルアップを図ってほしいと思う。

 

 

2001年2月25日 国立競技場

ラグビー日本選手権決勝

 

神戸製鋼 27−27 サントリー

 


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