総合力の関東学院が「格の違い」を見せつけ大学王者に。
正直言って、会場に到着するまでは観客の入りが心配だったのだ。早明が2年連続で正月を迎えられず、下馬評では二強とも言われた慶応・同志社も準決勝で敗退し、初の関東リーグ勢同士の決勝となった今大会。大学ラグビーの勢力図の変化が如実に表われており興味深いといえば興味深いのだが、リーグ戦はラグビー界の中でも「地味」な存在とされているだけに、世間的な注目度は「?」という感じだった。だが、前座の高校東西対抗が終わる頃から入るわ入るわ次々とスタンドへ観客が流れ込んできて、結局6〜7分の入りに。校歌演奏時には無数のフラッグがうち振られ、決勝に相応しい熱気に溢れた雰囲気となった。割合としては法政の(特に学生の)応援が圧倒的に多く、強敵慶応を倒して久々のファイナル進出を決めた前戦の余韻は未ださめやらぬ様子。早慶明同抜きでもそれなりに盛り上がれることに、何だかほっとした。
両軍ともに動きが硬く蹴り合いになった立ち上がりから、先に得点したのは関東学院。FW・バックス一体となった連続攻撃から最後は身長158cmのSH春口が大男の脇の下をかいくぐるようにしてゴール左中間へ飛び込み、荒牧のコンバージョン成功で7−0。意外と呆気ない先制点。しかしその後は、法政が得意の浅いラインからのハードタックルでペースをつかむ。慶応戦と同様、鋭く突き刺さる防御がスムーズな連続攻撃を許さず、ターンオーバーからのカウンターで得点を狙う。対して関東学院は法政DFラインを下げるべくSO今村が深いキックとハイパントを多用して前進を図るが、キック時に法政のプレッシャーがきついことからあまり効果は得られず。法政側にラインアウトミスが続いたことで得点自体は動かなかったが、前半半ばまではほぼ互角の展開であった。リーグ戦でも敗れている法政側はリベンジのモチベーションも高く、ばしばしと鋭いタックルが突き刺さるたびに再びのアップセットを期待させる雰囲気が確かに高まっていった。
ところが、前半20分を過ぎると次第に関東学院のバックス攻撃が切れを増していく。25分、ラック・モール織り交ぜた縦方向の攻撃と相手の反則で法政陣深く攻め込んだチャンス。アウトサイドCTBをおとりに逆サイドWTB・FBがライン参加する必殺ムーヴは失敗したものの、その後の混乱状況でしぶとく球をつなぎ、最後は今村の飛ばしパス→WTB水野DF2人を引きつけて左パス→フリーで走り込んできたCTB水田がトライ。続いて29分にもペナルティで法政陣深くに攻め込んで右タッチのラインアウトから展開、ゴール前中央にアタッキングラックを形成して順目(左サイド)に法政DFが集まったところ、ラックの後ろを横切る今村へのパスによる鮮やかな方向転換から右サイドに広く展開し、最後はHO蔵が右隅に飛び込んだ。この時間帯、関東学院の攻撃は正確かつダイナミックでさすがの法政DFも前後左右に振り回されて打つ手がなく、両チームの力量差がはっきりと明らかになったように見えた。
この後法政にとって幸運だったのは、蔵の負傷というアクシデントにより関東学院のペースが鈍ったこと。押せ押せムードに水を差された関東学院は集中力に欠けたプレーを見せるようになり、37分法政は関東ボールのラインアウトを奪って展開。CTB渡辺がDFを引きずりながら20mほど前進し、ラックからSH浅田が抜けて左中間へトライ。コンバージョンも成功して一気に反撃ムードが高まった。そこから前半終了まで法政は攻め続け、トライこそ奪えなかったものの10点差で折り返し。法政にすればそれなりの手応えを感じて後半へ臨めたことだろう。ハーフタイム後も、先にピッチへ出てきた関東学院が相当時間待たされ、集中力云々の面では法政が一気に優位に立ちそうな状況もあった。
両チームに力量差があったこの試合、法政に勝機があったとすれば、おそらく流れが傾いていたこのハーフタイム前後の時間で得点を奪い関東学院の焦りを誘うしかなかっただろう。が、しかし。法政は後半のキックオフ後、自陣ゴール前での最初のパスでいきなりスローフォワードのミスを犯してしまう。これで、つかみかけた流れは一気に逆方向へ傾いた。試合巧者関東学院がこのチャンスを逃すはずもなく、直後の1分、ゴール前左サイドのラックから今村が絶妙のグラバーキック。タッチラインとDFの間ちょうど人一人分のスペースに転がったボールはバウンドも味方して真っ直ぐ走り込んだWTB水野の胸に収まり、そのまま左隅に倒れ込んで22−7。さらに4分、ロングキックで法政陣に深く入ったところラックのターンオーバーでボールを奪取、それを見て後方から弾丸のような勢いで上がってきた水野に春口からボールが渡り、水野は一瞬足の止まったDF数人の間をあっという間に駆け抜けてトライ。29−7。さらに法政がPGで3点を返した後の12分、法政陣10mライン付近からFWのサイドアタックの連続で一気に前進、法政DFを引きずりまくった上で1年生HO山本がゴールラインを越えてトライ。36−10。ここで、勝敗は決まった。
残りの時間は、両チームともに反則とミスの多いじれったい展開に。それでも関東学院はFWのサイドアタックと敵陣に入るキックを軸に手堅いゲーム運びを続けて法政の勢いを削ぎ、PGで6点を追加。対して法政はハンドリングミスの多さもあって、渡辺の個人技によるトライで5点を返すにとどまった。最終スコアは42−15。総合力・完成度の高さを見せつけた関東学院の圧勝であった。
関東学院は、シーズンの最も大事な試合でベスト・ゲームを披露した。飛び抜けた部分はないものの、FWの突破力とキープ力、ハーフ団のゲームコントロール、バックスのスピード・展開力のどれもが高いレベルでバランスがとれており、まさに大学ラグビーというカテゴリーのチャンピオンに相応しいと言える。特に、地味ではあるがFWの8人はボディコントロールに優れ、一気に突破はできなくとも常に少ない人数かつ良い体勢で球を出し、バックスの得点力に結びつけた。攻守ともに「ねちっこさ」が目立つのもこのチームの特徴だ。選手個人で目立ったのはハーフ団の2人とWTB水野。SH春口は同志社戦では密集周りでの動きの悪さが目に付いたのだが、この日はマークが今村に集中したこともあって小気味よい動きを見せ、先制トライもマーク。もう少しパスのスピードを上げられると良いと思うのだが、まあとりあえずは合格点。春口監督の面目も立ったことだろう。SO今村も、法政DFの厳しいプレッシャーにも関わらず冷静な判断力を見せた。この日はマークが集中したために自分で持ってDFを切り裂くような場面はなかったが、ボールを放すタイミングが良くかつパスも正確で、スピードあるバックス陣を存分に生かすプレーを見せた。WTB水野は1年生ながらスピード勝負と割り切った思い切りの良い動きでしばしばDF網を突破し、決定力を発揮した。コンタクトの場面でも足腰の強さを見せ、これからが実に楽しみな選手だと思う。関東学院のバックス陣はCTB水田を除いて全員3年生以下。対抗戦・関西リーグ有力校の状況を考えると、コーチングにより今年と同じレベルのFWを作り上げることができれば、連覇(むちゃくちゃ気の早い話だが)は近いところにあるようにさえ思える。
法政は、慶応戦と変わらぬ浅いラインからきついプレッシャーをかけるディフェンスで前半健闘した。後半も最後まで切れたプレーは見せず、点差の割には引き締まった試合を見せてくれた。足りなかったのは、守備時のカバーディフェンスと、攻撃時の継続に向けた意識・手法だろう。相手の一次攻撃において鋭いタックルで確実に止め、あわよくばターンオーバー、悪くとも球出しを遅らせてもう一度DFラインを整備するのが基本パターンだが、多くの場合ラックから直接バックスに展開して近場の攻めも限られていた(ムーヴは持っていたが効果的に使えなかった)準決勝の慶応に比べ、近場を丹念についてからバックスで勝負する関東学院は法政DFも前掛かりになりづらく、また一度突破されると手品のようにボールをつなげるバックス・少ない人数で球を出せる(ターンオーバーは困難)FWを前に、統制された二次防御ができない場面がしばしば発生してしまった。ボールをとっても攻め手は少なく、関東学院のしつこいDFに手間取っているうちにラインアウト等の反則・ミスを犯してしまい、勝負をかけるところまで行かなかった。とにかく、気持ちと体の強さ、そしてディフェンスという武器を持っているだけに、反則とミスの多さは見ていて実にもったいない。流れを自ら手放すようでは優勝は遠い。関東学院と同じく4年生の少ないメンバー構成だけに、来シーズンは今シーズンと同じように熱く、そして今シーズン以上に正確なプレーをしてもらいたいと思う。
これで関東学院は4年連続の決勝進出で3回の優勝。まさに20世紀末から21世紀初頭にかけての大学ラグビーを代表する存在と言えよう。ただ、そうなってくるともう大学で一番強いのは分かった、では他のカテゴリーと比べてどの程度強いのか、という気になってくる。具体的には、社会人相手にどのような戦いを見せるのかが非常に気になるのだ。関東学院は2〜3年前に大学選手権を連覇した際にも日本選手権では全く歯が立たず、昨年の慶応、一昨年の早稲田あたりに比べてもだらしない戦いぶりを見せていた。もし今のチーム力で「さらに上」を目指して万全の準備をし(試験日程とかいろいろ言いたいことはあるだろうが)、それでいて社会人4位のチームに見せ場なく惨敗してしまうとすれば、もはや学生が社会人に挑戦する(少なくとも、今のシステムのように学生と社会人が巴がけの組み合わせで対戦するノックアウト方式の)日本選手権など、それこそ意味がないのではないか。関東学院の圧勝は、それこそ2月に行われる日本選手権に向けて、むしろ大学ラグビー界に重い課題を突きつけているようにも思えるのだ。
2001年1月13日 国立競技場
ラグビー全国大学選手権決勝
関東学院大学 42−15 法政大学