才能が破れ、経験と気迫が勝利。これは「番狂わせ」なのか?

 

 

 さて、2001年の「観戦始め」はラグビー大学選手権準決勝である。今年の準決勝は2年連続で早明の姿がなく、慶応・関東学院・同志社という自他共に認める「3強」にリーグ戦の雄法政が加わり、まさに現在の大学ラグビー界の勢力図をそのまま反映した組み合わせとなった。下馬評的には日本代表級の選手を多く抱える同志社・慶応を優勝候補に挙げる向きが多く、関東学院・法政の順でそれらに続くものとされた。ところがあにはからんや、事態は思わぬ方向に進み、観衆は驚きと戸惑いの中に放り込まれることになった。

 

 会場の国立競技場は7〜8分の入り。早明不在の選手権にしてはまずまずの入りと言えよう。スタンドに腰掛けて周りを見渡してみると、東京での試合なのに同志社の小旗を持つ人が多いように見受けられた。関西リーグを圧勝に次ぐ圧勝で制した今季は、16年ぶりの優勝に向けてさぞかし期待が集まっているのだろう(2回戦の花園も満員だったし)。第1試合前、相田真治氏がタッチジャッジとして紹介された時、同志社の学生らしき一団から不満の声が。「なんでいつも大事な試合で相田さんがタッチなんだよ。笛吹かせろよ!」。心の中で同意し、思わずニヤリ。

 

 第1試合は、関東学院と同志社の対戦。

 前半は風下に立った関東学院がキックを封印、自陣ゴール前でも蹴らずにラックを連続させ、じりじりと前進しては多くの時間同大陣で試合を進めた。が、オフサイドが多いことと、一旦FWで崩してからバックスに回すパターンのために逆にFWでゲインラインを切れなければ手詰まりになり、ゴール前まで攻め込んでもなかなかトライにまで至らない。FWが個々の当たりが非常に強い同大DFにきっちり止められて人数的に余らないのだ。同大DF網が整う前、ラックからすぐ遠目に回せばトライになりそうな場面でも一旦縦をついて余計な手数をかけることも多く、それなりに支配はしてるのだがブレイクできないままにハーフタイムを迎えることに。結局、前半関東学院のトライは相手パスの乱れからのカウンターで奪った1つのみにとどまった。一方の同大は大型FWの圧力を生かしてスクラムを起点に突破を狙い、実際にスクラムからの展開で2トライを奪うが、関東学院の「高くしつこい」粘着質のタックルによりノックオンも連発。WTB辻の個人技によりかろうじてリードを奪ったものの、こちらも力を出し切ったとはほど遠い内容だった。前半は8−12で終了。

 後半、風上になっても継続継続で攻め続ける関東学院がやはりペースを握る。前半の手詰まり感と風によるラインアウトの不安定さによるのだろう、関東学院はペナルティで、不利と思われるスクラムをあえて選択してまで状況の打開を図った。12分、FWのピック&ゴーで同大DFを押しこんだ後にCTB水田が抜ける理想的なトライで逆転。さらに18分にPGをSO今村が決めて18−12。この時、同大FWの多くが膝に手を当て、スタミナ切れがうかがえた。同大にしてみればこれほどしつこくタックルを受けて突破できないのは初めての経験だったに違いない。関東学院はこれまでの相手とはカバーディフェンスの厚みにおいて一線を画しており、コンタクトによる疲労もまた蓄積したのだろう。22分に今村がイージーなPGを外して6点差にとどまったあたりが、同大が流れを変えうる最後の時間帯だったに違いない。しかし直後のチャンスをまたしてもノックオンによって逃し、勝機を逃した。26分、32分と同大ゴール前の場面、今村が「人に強い」はずの同大DFを突き破ってゴールエリアに飛び込んだことで、勝敗は決まった。後は関東学院が追い風により伸びるキックを武器に同大の反撃を1トライに押さえ、最終スコアは33−19。終わってみれば関東学院の完勝であった。

 結局、同大は「思っていたほど強くなかった」ということになるのだろう。あらゆるスポーツで同じことが言えると思うが、レベルの低い(と言っては関西リーグに失礼かもしれないが)中での圧勝は実力評価においてあてにならないことがまたしても実証されてしまった。明治相手に苦戦した時点で、ある程度は見えていた結果とも言えるかもしれない。無論同大の選手達が大学ラグビー界有数の才能集団であることに疑いはなく、今回戦いぶりも別に批判を受ける類のものではない。特に当たりの場面、個々人の強さは明らかであった。ただ、「チームとしての」力を蓄積するための厳しい試合経験が足らなかったこともまた確かだし、「これほどの才能を集めたのだからもっと高いレベルに到達してほしかった」という感想もどうしても残ってしまうのだ。この敗戦は同大だけの問題ではなく、関西大学ラグビー界全体の問題として受けとめるべきなのかもしれない。

 一方の関東学院については今季あまり見ていなかったのだが、この日見た限りでは売りになるような「強いところ」が特に見あたらないチームであるように思えた。FWも飛び抜けるほど強くなく、ハーフ団もBKも輝きがそれほど感じられるわけではない。だが、とにかくオフェンスもディフェンスも「しつこい」ことは確かだ。粘り強く、大勝もしない代わりに決して大崩しないイメージ。ペナルティをとられた後きっちり10m下がる意識が浸透していることなど、ディシプリンもしっかりしている。惜しむらくは反則が多いことで、これはおそらく密集周りの巧さ・ずるさと紙一重のものなのだろうが、今や関東学院も押しも押されぬ大学ラグビー界の強豪なのだから、もっと志を高く持ってほしい。あとはハーフ団のコントロールがもう少しレベルアップしてくればいいのにと思う。特にSO今村は伏見工時代のフレアが影をひそめ、またキックに課題が見られるなどすっかり地味になってしまった印象だ。もっと積極的にチームを引っ張り、自分の動きで相手DFを引き裂くプレーが見たい。決勝は強力なシャローラインを武器とする法政が相手だけに、単にFWとバックスをリンクさせるだけではなかなかDFを破れまい。もう一皮むけることを願う。

 この試合、フルタイムの笛が鳴った直後、ちょっと気になる光景があった。喜びを爆発させる関東学院の選手に対し、うなだれる同大の選手。しかし同大フィフティーンはキャプテン大西を先頭に、おそらく握手を求めてだろう、関東学院の選手の輪へ歩み寄ろうとした。しかし関東学院側はそれに気づかず、バックスタンドへ走って応援へ挨拶、返しざまにメインスタンドに挨拶、同大の選手達は置いてけぼりになっていた。最後、退場する同大選手を関東学院の選手が列になって見送ったからまだ良かったが、大学ラグビーである以上、フルタイム(ノーサイド)になったらまず相手と握手して言葉を交わしてほしいと思うのは私だけだろうか。

 

 第2試合は連覇を狙う慶応と法政の対戦になったが、両軍合わせてシンビン4人が出る荒れた試合展開の中、法政の気迫と浅いラインからのストレートランによる強力DFが慶応の継続ラグビーをズダズダにし、あっと驚くアップセットになった。最終スコアは13−15。以下、感想。

 慶応は、全く自分達のやりたいラグビーが出来なかった。そもそも今季の慶応のラグビーはひたすらラックからの継続を徹底するものの、早稲田的な「展開・接近・連続」のうち「展開」と「連続」に重点を置いており、外に散らした後に「どう抜くか」についてはバックスの能力頼りだった。それは長年の蓄積の少なさを考えればある程度仕方のないことで少なくともその方向性は高く評価していたのだけれど、この日はそれ以前の問題。夏のオックスフォード戦からの一貫した課題でもあるが、とにかくFWに機動力がなさ過ぎる。ラックへの到着が遅れてターンオーバーをくらうことが前半からしばしば見られ、そうなればいかに能力の高いバックスを有していようと継続どころではない。攻撃が続かないことに焦ったのかバックスが遠くで無理に抜きに行くことが多くなり、結局孤立してまたターンオーバー(ないしノットリリースザボール)という悪循環にはまっていた。近頃豪州流(あるいはリーグ流)が国内でも主流になりつつあるため、「ラックに人数をかけてはいけない」とか「『集散』という言葉自体が時代遅れ」などということがよく言われる。それらは多くの状況で正しいのだけれど、この日のように法政DFが物凄い気迫でラックに飛び込んできてるのにFWがダッシュせず7分の力での移動を続けていては、試合の主導権など握れるわけがない。一言で言って、慶応は「頭でっかちのラグビー」に陥ってしまった。「継続」とは「走り勝つ」ことでもあったはずなのに。

 また、思った以上の法政DFの圧力を受けてチーム全体、特にハーフ団がパニックに陥ってしまったようにも見えた。前半風上に立ってキックを多用したのは必ずしも間違いとは言えないけれども、抜け出したSH牧野が相手の詰めに対してあっさり蹴ってボール所有権を手放してしまったように、苦し紛れのキックが多かったように思う。苦しい試合展開の中、いくら風下とはいえイージーなPGを狙わなかった後半立ち上がりの判断にも、首を傾げてしまう。ある意味、同大と同様にリーグでは「どのような勝ち方をするか」ばかりが焦点で、厳しい勝負を経験してこなかったツケなのだろうか。後半になると肝心な場面でノックオンを連発。今年は100周年をきっちり勝ちきった昨年のメンバーが多く残り、戦術面での質を飛躍的に高めようとする志の高さが見ている側にも伝わってきていただけに、最後がこんな形で終わって残念でならない。

 法政は下馬評も低く、挑戦者という立場の気楽さに加えて見返してやろうという気持ちもあったのだろう。気迫に溢れたプレーで慶応黄金バックスをわずか1トライに封じ込めた。DFが真っ直ぐにボールキャリアーに突き刺さっていくタックルは迫力満点で慶応はなかなかボールを外に振れず、内を固めた法政DFが破れたのはようやく後半40分になってからだった。攻撃面でもテンポの良いパス回しで果敢に挑み、ミスで度々チャンスを逃しながらも2トライをもぎ取った。後半33分のCTB渡辺のトライは相手DF数人をはね飛ばして飛び込んだもので、この試合における両チームの勢いの違いが端的に表れた場面だった。とにかく、戦う気持ちが全面に出ていた、褒め称えられるべき勝利だと思う。ただし、反則の多さとハイタックルはいただけない。ハイタックルに関してはいろいろと言い分もあるのかもしれないが、警告を受けた後のハイタックルはモラル的にも技術的にも最低のプレーで、それで3人もシンビンをくらったのだがら、そこはひたすら反省するしかあるまい。決勝はリーグで破れている関東学院が相手。またしても挑戦者の立場になるが、今度は思い切りよくかつ見ていて気持ちの良いラグビーで我々をあっと言わせられるか。

 これで決勝は関東学院と法政の対戦になったわけで、慶応と同志社の戦いを望んでいたファン(私のことだが)にとってはちょっと期待外れではある。ただ、近年の活躍を経てもなお地味な印象が拭えないリーグ戦同士の対戦になったことは、未だ早明中華思想のはびこったこの国のラグビー界にとってはいい刺激となるだろう。ぜひ、「ああ、やっぱりつまらなかったね」などと言われることのない、素晴らしいゲームをしてもらいたい。また、この日破れた2チームにしてしても、幸い日本選手権という汚名挽回の舞台が用意されている。試験日程の問題もあるにせよ、一方で準備期間もたっぷりとれるのだから、その才能を生かして金星を目指してほしいと思う。なにしろ彼らのような人材が、このまま終わっていいはずはないのだ。

 

 

2001年1月2日 国立競技場

ラグビー全国大学選手権準決勝

 

関東学院大学 33−19 同志社大学

法政大学 15−13 慶應義塾大学

 


戻る            ホームへ