川口の気迫、俊輔の芸術。

 

 

 ずっと、マリノスのこんな試合を見たかった。

 

 GW初日、快晴の横浜国際競技場。絶好の位置につけて首位をうかがう横浜Fマリノスと今季不調ながら五輪代表3名を揃えたガンバ大阪の対戦。一昨年までなら絶対に横浜に駆けつけて生観戦したであろうカードだが(私村田は木村・水沼時代以来の日産ファンであった)、昨年私はFC東京サポーターに移籍(笑)したためにテレビ観戦となった。

 画面で見たところ、客の入りに関しては1階席は半分ほど、2階席はガラガラという見慣れた光景であった(1万8千人ちょっと)。人気球団のGWの試合にしては寂しい入りとも言えるが、今年のマリノスは城・井原を失ったせいかそれとも開幕からもたついたせいか観客動員に苦しんでおり、一番の目玉カードである磐田戦も2万人ほどであったことを考えればまあまあという感じか。

 

 キックオフ後、まずは横浜ペースで試合は進んだ。マリノスは上野を起点にバランス良い体型から巧みなパス回しで攻めたてる。バックラインのパス回しも危なげなく、東京戦や磐田戦に比べれば選手が自分の役割についてだいぶ理解してきたようで、チームは着実に完成に近づいている印象を受けた。一方ガンバは相変わらずおとなしい、「きっちりした」サッカーであった。パス回しの意識ばかりが高く、ボールが前へなかなか進まない。相手へのプレスもあまりかかっておらず、「お前ら戦術が大事なんか。それともボールを奪って前へ運んでゴールするのが大事なんか。どっちや」と言いたくなるような、意図のよくわからない中途半端なプレーが続く。

 11分、ショートコーナーから個人技でフリーになった中村俊輔が相手DF2人を引きつけた上でファーサイドにクロスを上げ、「オフェンシブDF」小村が落としたところを柳相鉄が韓国人プレイヤーらしく豪快に叩き込んでマリノス先制。さらに14分には三浦の放ったFKが壁に当たり、コースが変わってゴールイン。ハツラツとしたマリノスと、対照的に元気のないガンバ。この時点でほとんどの観戦者は勝負あったと思ったことだろう。

 しかし、21分にイレギュラーバウンドしたボールを追って抜け出しかけた小島を、ペナルティエリア外で波戸が後ろから引き倒して一発退場。Jリーグの審判には得点機会阻止に対してもなかなかレッドを出さない人も多いが、ソウザ主審は毅然としてレッド。そのまま走れば確実にGKと一対一になった場面であり、波戸は後ろから襟をつかみ袖をつかみ肩に腕をかけ、と好き放題やっていたのだからこの退場は当然であった。しかしここ数試合のマリノスは警告も減ってたのに、しかも勝ち試合で、波戸も馬鹿なことをやったものである。鹿島戦でも同様のプレーで退場になったのだが、その教訓が全く生かされていない。スピード豊かで今や小村よりずっと頼りになるプレーヤーだと思うのだが、果たしてアルディレスが許すかどうか。もったいない。

 一人少なくなったマリノスだが、さすが10人で戦うのには慣れているのか(笑)、川口の好セーブでFKのピンチをしのぐと三浦をストッパーに入れてカウンター主体に切り替え、大きなほころびを見せない。一方ガンバは相変わらず攻撃に手数・時間ともにかかり過ぎ、人数の多さを全く生かせない。「攻め込む→ペナルティエリアの外でいったん止まり、横パスを始める→小島(あるいは稲本)がしびれをきらしてドリブルで斬り込む→あっさりボールをとられる」というパターンを繰り返すばかりであった。ペナルティエリアの中で3回もパスをつないだあげくにシュートが枠に飛ばないシーンには笑った。逆にマリノスは柳(すっかりFWらしくなった。凄い!)がキレを見せ、俊輔や上野からのパスをシュートまで持っていく。

 32分には松田の縦パスに走り込んだエジミウソンが好トラップでシュート、岡中がはじいたところを柳が決めて3−0。完全に決着ムード。しかしこの場面で柳がシュートを放つ際に宮本と接触して負傷退場。マリノスは急遽予定外の永井投入を強いられた。普通ならここで相手側としては「勝負だ!」と意気込んで動くところだが、なぜかガンバはFWの松波に代えてMF森下を投入。意図はよくわからなかった。大量得点で追いつくためには、松波のポストプレーは大きな武器になるはずだったのだが…。ガンバはDFラインも積極的に押し上げることはせず、攻撃に人数をかけない。結局、前半はそのまま何事もなく終了。ガンバ、これじゃあ勝てないよな。

 

 後半、ガンバは木場・二川に代えて橋本、さらには切り札のアントラジーニャを投入、ようやく本格的な攻撃態勢に入る。少しずつ少しずつではあるがガンバは次第に押しこみ始め、シュートの数も増加した。しかしマリノスは巧みなカウンターと前線からの守備で一方的な展開にはさせず、ゲームは膠着状態となる。リードは3点。横浜サポーターは落ち着いて、チームのピンチを楽しむ余裕さえあったのではないか。

 ところが後半20分、ゲームの雰囲気が一変した。サッカーの神様はどうしてもこの試合が面白くならなくては気が済まないらしく(笑)、新井場のペナルティエリア内での当たり損ねシュートを松田が手で弾いて一発退場。圧倒的優位の試合で、悪夢としか言いようのないアクシデントが次々とマリノスを襲う。一瞬、スタジアムが凍り付いた(ように見えた)。残り時間は25分。人数は9対11。しかもガンバにはPKが与えられた。横浜Fマリノス、絶体絶命である。

 しかし、ここでPKを川口が抜群の集中力で止めてしまうのだ。稲本の狙い澄ましたゴール左隅へのシュートを、よく読んで横っ飛びで弾き出した。吠える川口、抱きつくマリノスイレブン。ここ2・3年、特に失点シーンなどでは川口とDFとの間に不協和音というか何か冷たいものが感じられたのだが、この苦境の中でのPK阻止はもしかすると一気にマリノスのチーム内に一体感をもたらしたのかもしれない。さらに26分、川口の再度の好セーブの直後に俊輔が芸術的なミドルシュート。振幅少なく左足アウトサイドで放った一撃。20メートル以上の距離を、まるでスローモーションを見ているように白いボールがゆっくりとまっすぐ左ポストへ飛び、はねてきれいに右サイドネットに突き刺さった。誰もが唖然とし、感嘆する完璧なシュート。俊輔ガッツポーズ。画面で見ていても、場内が総立ちになっているのがよくわかる。感動的とさえ言えるシーンだった。

 これなのだ。これができるからこそ、川口と俊輔の二人は日本代表に絶対必要なのだ。今の日本に世界レベルの素晴らしい技術を持った選手は、それこそ大勢いると思う。だが、偉大な選手であるかそうでないかの違いは、単なる「サッカーのうまさ」が問題なのではない。ここぞという場面、勝負がかかった場面で他の人間にはできないことをやってのけるのが偉大な選手の条件である。昨年のチャンピオンシップでの澤登のFKを思い出した。彼らは、本当に、「ものが違う」。

 俊輔のゴールはガンバにトドメをさし、見るからに運動量が落ちていった。勢いに乗り攻め込むマリノス、って、おいおい、お前ら9人だろうが(笑)。必死に止めるアルディレスの姿が何ともおかしいというか、ほほえましいというか…。いいぞ、このイケイケな姿勢。結局その後は川口が三たび好セーブを見せたこともあり、ガンバが間接FKから一本返しただけで4−1で試合終了となった。

 

 ガンバ大阪のチーム状態は深刻だ。東京戦の前半もそうだったが、全員が戦術に縛られて「とりあえず味方にパスする」ことしか考えていないチンケなサッカーになってしまっている。そこには、ダイナミックでワイドな展開もキレのある突破も何もない。ただ日本リーグ時代に逆行したようなつまらないサッカーがあるだけである。選手の素質には目を見張るものがあると思うのだが…。理論にばかりこだわって勝負事にまるで長けていない早野監督は、即刻解任すべきだろう。さもなくば、マジで来年は2部。

 マリノスは素晴らしい戦いを見せた。波戸のプレーは愚かだったし後半9人になってからも攻め続けたことを批判する人もいるだろうが、勝ち慣れていないチームにとって、勢いをつけるためにシーズン中に一度はこういう「キレた」試合も必要なのではないだろうか。人数が減るまでの安定した戦いぶりは、とても3敗しているチームとは思えなかった。問題は、柳と波戸と何より松田がいない次節だが、ここさえ乗り切ればジュビロがバテバテなだけに優勝候補筆頭である。

 いや、ホント、川口と俊輔にはいいもん見せてもろうた。

 

 

追記:翌日、柳相鉄の長期離脱が判明。やっぱり優勝はジュビロかな?

 

 

2000年4月29日 横浜国際競技場

Jリーグファーストステージ第9節

 

横浜Fマリノス 4−1 ガンバ大阪

 

 


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