慶応果敢に戦うも、最後は地力の差で大敗。

 

 

 もはや恒例となった感もある日英大学ラグビー。今年はオックスフォード大が来日。昨年は岩淵を擁するケンブリッジ大に慶応が完勝、その勢いのままに慶応はシーズン全勝(社会人との対戦除く)で大学日本一に輝いた。慶応ファンとしては、今季初戦となるここで好ゲームを見せ、昨年の快進撃を再現してもらいたいものである。幸い、慶応は特にバックスにおいて昨季のレギュラーが多く残り、それほどの戦力ダウンは予想されない。もしオックスフォード大(以下オ大と略す)に勝てば、イングランドの2大伝統校を連破という、歴史に残る偉業になる。私個人も春のパシフィックリム以来のラグビー観戦ということで、期待感たっぷりに秩父宮に向かった。

 天気は快晴。キックオフ15分前に秩父宮のメインスタンドにたどり着くと、グラウンドでは数人のグループによるコーラスが行われていた。ここ数年、ラグビー場でも以前の「ここはあくまで選手が試合をする場、観客は添え物、試合をさくさくやったらそれでおしまい」といった雰囲気とは異なり、主催者側も観客を楽しませようとそれなりに趣向を凝らしている。これは冠スポンサー(今回はツムラ)が付くようになったことが大きいのだが、現実に雰囲気作りに成功しているかはともかくとして(笑)、試みとしてはとても良いと思う。ラグビーの人気低下を考えれば背に腹は代えられませんよ(ただし、あんまり安っぽいと逆効果だが)。続いて叫び系のアナウンス(ただし、JリーグのDJよりはちょっと上品)にのって、選手入場。慶応側はけが人が多いとのことで、野澤・瓜生らが欠場。せっかくの強敵相手にベストメンバーが組めず、残念至極である。一方オ大のメンバーには「イングランドU23代表」とか「スーパー12出場」なんてのがゴロゴロ。昨年末こいつらと接戦したケンブリッジ大に完勝したのだから、昨季の慶応というのは大学日本一になって当たり前の強さだったのかもしれない。

 試合開始直後は慶応のペース。オ大の突進をしっかりタックルで止め、SO和田のスペースに蹴り込むキックで着実に前進する。4分、右サイドでのスクラムで右WTB浦田がスルスルっと両CTBの間に入るムーヴプレイ。FB栗原も参加したこのライン攻撃、ボールは飛ばしパスも含めた見事な球裁きで左WTB山本まで渡り、ゴールライン左中間に走り込んだ。コンバージョンも栗原がきっちり決めて7−0。実に鮮やかで、見ている方の快感度も高いトライだった。いったん10分にトライ(コンバージョン成功)で同点とされるも、オ大のハンドリングの悪さと和田のキック主体のゲームコントロールでペースを握り、栗原が15分、18分とPKを決め手13−7と突き放した。

 ところが、ここら辺から両チームの地力の差が明らかになってくる。ディフェンスの局面で慶応は粘り強いタックルは見せるものの密集から横へDFラインを展開するスピードが遅く、またその人数も少ない(よって幅も狭い)ため、オ大が思い切ったロングパスで大外をついてくるとほとんど対処できない。攻撃時も、密集へのFWの集散スピードで劣るために度々ターンオーバーをくらい、また二次・三次攻撃と連続した場合もラインの人数が不足して結局和田のキックでボールの保有権を放棄してしまう。たまに栗原らBKが抜けてもフォローがないために孤立して結局ターンオーバー。一方、体格とFWの機動力で優るオ大は縦突進でバリバリと慶応FWを巻き込んでいき、慶応DFの人数が減ったところでロングパスをBKに放る「タテ・タテ・ヨコ」的な戦法に徹した。守備では密集に人数をかけず、慶応がボールを出す前にFW・BKの別なく横にスライドして隙のないDFラインを構築し(いわゆるシールドロック状態)、飛び込んでくる慶応アタッカーを次々と餌食にした。オ大のシールドロックは日本の国内レベルではなかなか見られない強力なもので、グラウンド一杯に黒いカーテンが広げられたかのようであった。

 結果、慶応は攻めれば攻めるほど守れば守るほどプレイに参加する人数が減っていき、最後はDFのいない無人のフィールドをオ大BKが駆け抜けて行く、という最悪の展開に陥った。オ大は22分、28分、30分とトライを積み上げ、この時点で13−28。両チームのレベルの差は明らかで、この時点で大差が付いてもおかしくはなかったのだが、慶応も踏ん張りを見せて果敢にライン攻撃で反撃。オ大ラインを完全には突破できないものの必死のタックルの甲斐もあり、35分には栗原のPKで3点を返して前半は16−28で終了した。前半の内容はともかく、「英国系は日本の暑さに弱い」との経験則もあり、もしかしたら後半には、との期待を抱かせてくれる点差ではあった。

 後半、栗原OUT、加藤IN。栗原は負傷退場だったのだろうか?それとも日本代表・学生代表での連戦を考慮して大事をとったのか?いずれにせよ、加藤も実力者ではあるが攻撃時のフレアとキック能力では栗原に及ばないだけに、この交代はゲームの勝敗を争う上では非常に痛かった。

 後半開始直後、やはりオ大は前半同様に縦をついてから大外へ回すパターンで慶応ゴールへ迫るが、最後のつめの場面でBKがノックオンを犯したことと、慶応の両WTB山本・浦田が早めにライン際へ戻って外のコースを切るようになったために何とか失点は逃れる。点差はたったの12点。流れ一つでどうにでもなる数字だ。気温は相変わらず高い。「イングランド人よ、はやくバテろ」、私はひたすら願っていた。

 後半10分あたり、ようやく慶応はキックを軸に(キックに関する記述が多くなるということは、ランであまり前進できなかったということだ)オ大ゴール前に攻め込んだ。久々のチャンス。しかも、そろそろオ大の足が止まる(であろう)時間帯。この辺りオ大側にはノックオンに加えてオフサイド等の反則も目立ち始め、いよいよ流れが慶応に傾きつつあるかに見えた。慶応はPKを得てもゴールは狙わず、ひたすらラインアウト・スクラムからトライを狙う。オ大のミス連発に乗じてオ大陣に一方的に押し込む時間帯になった。誰の目にもここが勝負の分かれ目であることは明らかだったろう。ラインアウトからモール、そしてBKに展開。しかしこの肝心の場面で慶応側にもノックオンや密集でのミスが相次ぎ、ターンオーバーを繰り返してしまう。結局慶応はこのチャンスをものにできず、26分に加藤がPKを決めてようやく19−28に迫るにとどまった。

 そして、ここで前半からの激しいコンタクトによる消耗が出たか、慶応フィフティーンの足が先に止まってしまう。特にBKの疲労困憊ぶりは痛々しいほどで、オ大の攻撃が二次・三次と繰り返されるともうついていけない。20分過ぎからはFW第一列を中心に次々と選手を入れ替えるが効果は乏しく、逆にオ大交代選手の元気さばかりが目立った。28分にオ大CTBが2人のタックルを外してゴール右サイドに走り込んだのを皮切りに、続けて3トライを献上。結局、最終スコアは19−49。7トライを奪われる一方、1トライしか奪えない大敗となってしまった。

 オックスフォードはオープン攻撃でのハンドリングミスは目立ったものの、選手の個人能力はとても高い印象だ。また、個々の突進はもちろん、相手に捕まれた際、倒れる前にフォローしてくる味方に渡す意識が強く、なかなかプレーが切れない。倒されても素早くFWが集まってボールをリテンション、慶応DFが整う前に展開して長いパス、とダイナミックなラグビーを見せた。まあ、本場のジュニア代表クラスの威力というか何というか、度重なるノックオンが半分程度にとどまっていれば、100点近く行ったかもしれない。はっきり格上の相手であったように思う。だからと言って「決してかなわない」とまでは思わなかったのだが。

 慶応は、シーズン初戦でしかも怪我人を多く抱えた状況にしては、それなりに健闘したと言えるのではないだろうか。後半10分〜20分くらいのチャンスでは、勝負がどちらに転がるかはまだ分からない状況だった。ただ、そこをものにできないのが現在のチームの限界であるのも確か。全体的にフォローの少なさ・FWの運動量の少なさが目立ち、ターンオーバーを連発される結果になってしまった。オ大に密集での巧みさがあるにしても、FWの到着で常に先を越されるのではちょっと勝負にならない。オ大FWとて常に全力疾走をしていたわけではないのだが、「倒されて(倒して)から起きあがって戻り、次のプレイにそなえる」スピードでは両軍にはかなりの違いがあった。一方、BKのスピードでは相手を上回っていたのも確か。特に唯一のトライは、「どこに出しても恥ずかしくない」希にみる見事なもので、完全にスピードで相手をぶっちぎっていた。あのプレイを(あれほどきれいには決まらなくとも)勝負所で出せること。それにFWの機動力の改善が加われば、国内に敵などありはしない。この試合で得たものを生かして、百一年目のシーズンも、百年目に劣らぬ素晴らしいものになることを期待したい。

 

 

2000年9月10日 秩父宮ラグビー場

日英大学ラグビー対抗戦

 

慶應義塾大学 19−49 オックスフォード大学

 


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